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第84話

 間が開いて申し訳ないです(;´Д`A ```

 それなのに複数視点です・・・

 

 それでは、久し振りにどうじょ(/・ω・)/!




 走ることは本来足を持つ動物にとって備えていなければならない技能の一つである。


 人は走る。馬も走る。犬も走るし、亀だって命の危険を感じれば走るのだ。


 そんな当たり前な走ることだが、これを維持することは訓練が必要である。


 人は生きる為に呼吸をする。


 その目的は体に酸素を取り入れることにある。


 そして、走ることは酸素をより多く体が必要とすることでもある。


 つまり、何が言いたいかというと、




 走るのキツいッ!



 

 ということである。


 我が男爵軍に馬はない。

 正確に言うならば戦向きの馬がいないと言った方が正しいかもしれない。

 荷車を引く馬さんは領内にもそれなりの数がいるが、戦用の馬は皆無、ゼロである。

 荒事向きの馬というのは何分お高い。普通のお馬より値段が跳ね上がるのだ。

 ウチにそんな馬さんを買う余裕などなく、領主名代から領民一兵に至るまで皆徒歩だ。

 荷駄を引っ張って来てくれた馬たちは補給部隊と一緒に後方で待機中である。


 「ひいひい」


 「主・・・」


 キルト君、そんな残念な物を見る目はしないでくれ給え。

 君のようなイケメンハイスペック野郎と私は違うのだよ。


 「鍛え方が足りねぇんじゃないっすか?」


 マックス、貴様、それがこの場において最年少の少年に掛ける言葉か?

 チクショウ!体力お化けどもめ。人をチミたちのような人外と一緒くたにするんじゃないよ、全くもう!


 「アシュラード様、そろそろ匹敵します!」


 カゲゾウ君、君とブランドさんだけだよ、ウチの良心はさぁ~。

 って、もうぶつかるの?早くないか?うわ、マジだ。


 「総員、予定通り、一当てしたらそのまま退くぞ!間違って突っ込むんじゃないぞ!」


 ちょっと騒がしいから指示が通ったか不安だけれども、前以て言ってはあるし、信じよう。



 「おい!右から何か来るぞ!」

 「はぁ、右って・・・ほんとじゃねえかよ!」


 ありゃりゃ、やっぱり近付くとバレるか。

 でも、完全に反応は出来てないな。よし、ラスト・ス・パート!!


 「でりゃああああああ!」


 頑張って、走るのです!



 「あれ、走ることが主になってないっすか?」


 「キルト、あれを上手く補ってこその側仕えだぞ?」


 「・・・善処、します」


 「カッカッカッ、よし、続くぞ?

  テメェら、坊ちゃんに負けんじゃねえぞ!」


 『応!!!』


 

 うひぃぃぃぃ、足がとぉ~まぁ~らぁ~なぁ~いぃ~

 ※坂道での全力疾走は危険です。時と場合と力加減を選んで走りましょう


 鎧が重いから、やっぱり軽装で良かったんじゃなかろうか。

 いや、でも戦場で軽装は不味いか。


 と、考えている内に目の前に人がいた。


 「あ、練気法!」


 身体強化を急いで練って。


 「突撃、隣の国人さぁ~ん!」


 挨拶はもちろん右の一発から。


 「グハァァァ!」


 足は止めずに、その周囲の敵を物理的にぶっ飛ばしていく。

 

 「でりゃああああ!」

 「チェストォォォ!」

 「どっせぇぇぇい!」


 相変わらず人を直接殴ったり蹴る感覚は好きじゃない。

 肉を打つあの感触がどうにも慣れないのだ。

 魔物には遠慮なく攻撃できて、人は駄目って、つくづく甘ちゃんであることを実感する。

 盗賊なんかは、気にせずコロコロいけちゃうのだが、この差異は一体何処にあるのだろう。

 

 まぁ、それでも、この場ではやらねばならない。

 やらなければ、こっちがやられてしまうのだから。


 そして、少しまごついていた相手方も体制を整えつつある。


 「そろそろいいかな?」


 「十分かと」


 カゲゾウさん、こんな場所でもクールですね。

 んでは、退きますか。


 「明日に向かって突撃ィィ!」


 これは符号のようなもので要は撤退の合図である。

 兵士の皆に「こりゃあいい」とこの言葉は大受けだった。

 流石、僕ちゃんの自信作。


 ワァァァと皆が走って行く。

 この統率の取れた動きは最早芸術と言っても良いのかもしれない。


 「やっぱりラルフがいないと効果が薄いっすね」


 マックスが何時の間にか近くにいた。


 「それは仕方ないだろ?ラルフだって休息がいるし、それに」


 敵に警戒されている上に、味方からの視線も痛い現状、休息という名目で今は隊から離れてもらっている。

 待っているように言った時の愚図る姿は正直いじらしすぎて堪らんでした。


 「厄介なこって」


 「ホントになぁ」


 思わず苦笑してしまうほどだ。

 まだ笑える余裕があるだけマシだと思うべきなのだろうか。


 敵の立ち直りを待たずに走って逃げる我々。

 

 敵味方問わず罵声が飛んでくる。

 その中で一瞬、背中に刺さるような感覚を覚えた。


 咄嗟に振り向くが何が原因かは分からない。

 魔法をかけられたなら分かる筈だし、一体どうしたものかと思うが、とりあえず今は足尾動かすことにした。

 

 「アシュラード様、お早く」


 「ん、ごめんよ、カゲゾウ」


 そうは言うものの喉の奥に刺さった小骨のように残るモヤモヤが晴れることはなかった。




 □■□■




 「見つけたぞ」


 その瞳は確かに標的を捉えていた。


 「美しきマリアの子よ、何故そのような無様な戦いを繰り返す・・・・・・やはり、あの男の血か。あの忌まわしく汚らしい男のせいなのだな」


 男の顔が歪む。

 それでも男に隙は無い。

 

 スン


 斬りかかって来た兵士を事も無げに斬り捨てる。

 その動きはまるで舞のようであった。


 「ああ、マリー。愛しきマリー。君は彼が死んだら泣いて悲しむのかい?いや、泣いて喜ぶよね?だって、アレは僕との子じゃないんだから」


 男は笑う。

 それは妄執だった。


 「そして、あの忌々しい男は何処まで苦しむだろうね。自慢の嫡男が死んだとなったら一体どんな顔をして泣き叫ぶのだろうね?」


 誰も気付かない。

 男の狂った想いに。


 「戦いは何時何処で何が起こるか分からない。だから、ね」


 誰も届かない。

 男の剣に。


 ここにもいた。

 戦鬼に並ぶ狂鬼と呼べる存在が。


 一人の男の狂想曲は止まる期を逸してしまった。

 もう誰にも止められない。


 ジェイン・アインバーストという一人の男が退いて行く部隊にに向かって歩を進めようとした時であった。


 「・・・ッ!」


 睨んだ先ではただ乱戦が繰り広げられていた。

 そこには戦術の要素など欠片も存在せず、ひたすらな命の奪い合いが行われていた。

 しかし、彼が気が付いたのはそこではない。

 その更に奥からであった。


 「今すぐ左右でそれぞれ隊を作れ!」


 聞いていた直近の部下もこれにはすぐに動けない。

 更に下の一般兵など尚のことだ。

 しかし、彼らは自らの主君の言葉に従う。

 あともう少しで、敵兵を仕留められようと、相手の猛攻に耐えていようと、皆がジェイン・アインバーストの下知の元、忠実に命令を実行し始める。


 そして、アインバースト軍が左右にそれぞれ動き終えた時にそれ(・・)が起こった。

 

 「蹴散らせぇぇぇ!!」


 その声に続き混戦となっていた戦場に穴が穿たれた。

 そしてそこから抜けて来るのは馬に乗った一団。


 敵味方関係なくその一団の流れに沿って死の道が出来上がる。


 ある者は首を刎ねられ、ある者は頭を潰され、ある者は馬に踏まれ、集団に近寄ったが最期と言わんばかりに幾つもの命が消えていく。


 情けない悲鳴が上がる。

 しかし、これは仕方がないことだ。

 誰だって圧倒的な猛威には足が竦む。

 濃厚な死の匂いを感じれば逃げたくもなる。

 

 どんなに戦場という無法地帯であろうと、それは変わらない。

 どんなに血の匂いに酔っていようとだ。


 アインバーストは決して彼の集団に臆した訳ではない。

 彼の目は今も鋭いままなのだ。


 そして彼は見た。


 走り抜けていく一団の中で一際強いうねりを感じさせる人物を。


 そして、その者と一瞬、ほんのわずかな時間だったが、確かに目が合った。


 その者の目にアインバーストは自らの腸が煮えくり返ろうかと言うほどの怒りを覚えた。


 まるで、憐れむかのような、そして一方で蔑んでいるかのようなその眼差しに。



 そして、誰も止めることのない銃弾は攻めることに意識を傾けていたシルフェウス軍をどんどん切り裂いていく。



 アインバーストはそれを眺めていた。

 食い止めようとする訳でもなく、逃げるでもなく、ただ見ていた。

 しかし、それは何処となく嵐の前の静けさを彷彿とさせた。


 

 □■□■




 「将軍ッ!如何致しましたかッ!」


 馬を走らせ凶器を振るう中、ガダルハーンの腹心リストは上司の僅かな変化を察知していた。

 そして、その当人はただ、こう言った。


 「なに、俺にそっくりな奴を見掛けただけだッ!気にするな」


 「将軍にそっくりって・・・悪い冗談は止してください、よッ!」


 「リストォォ。お前が俺をどう思ってるのか、この戦いが終わったらゆっくり聞かせてもらわなきゃならんようだな!」


 「何時も言っているでしょう?尊敬してます、よッ!」


 この他愛無いやり取りの間にも彼らの手によって多くの命が刈り取られた。

 敵も味方も関係ない。


 だからこそ、彼らは強く、だからこそ、彼らは恐れられていた。


 150年も昔に名付けられたそれは


 ”鬼馬隊”


 当時のガダルハーン家当主が率い、幾度に渡りシルフェウスを苦しめた部隊。

 その精強さは大陸中が注目していた、とさえ言われている。


 しかし、その存在はシルフェウスの勝利と共に歴史の表舞台から姿を消した。

 栄光は過去のものとなり、そして埋もれていき、そして完全に消えた筈であった。


 誰もが忘れていたその異名が百年もの時代を経て再び歴史の表舞台に昇ろうとしていた。



 「進めぇぇぇ!目指すは敵の神輿のみッ!そこに行くまで斬って斬って斬り進めぇぇぇぇ!」



 そう叫ぶ男の瞳にも暗い影がちらついていた。

 口元の歪みは陰鬱な沼地が如く底が見えない澱みを思わせた。





  

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