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第80話

 中々進まず、申し訳ないです。

 それでは、どうじょ(/・ω・)/




 「アシュラード様、申し訳御座いません。おめおめと私一人のみが戻って参りました」


 そう言って膝をつく空忍の体には其処彼処に包帯が巻かれ、命辛々で戻って来たことが痛々しいほどに伝わって来た。握りしめた拳は微かにだが震えている。それがどの様な感情によるものかは、言わずもがなだった。


 「シュンケイ、この場で悔やみ言を述べるためにお前を呼んだのではないぞ」


 「カゲゾウ」


 「アシュラード様、我々は主の影なのです。決して揺れてはならないのです」



 今までにないほど顔が能面だ。

 感情がこれっぽっちも読めない。

 彼も悲しくない筈はないのだろうが、それをおくびにも出さない。



 「でも、「坊よ、お主のやるべきことは死んだ者らを引きずることか?」


 ダンジョウだ。


 「それがその者らの為になると本気で思っておるのか?」


 そりゃ、理屈で言うなら引きずってちゃいけないさ。

 ちゃっちゃとシュンケイが持ち帰った情報を加えて、これからの作戦や方針を決めていかなきゃならんのだろうさ。

 でもさ、そんな簡単に割り切れるもんかね?

 ツチクレや他の二人だってウチの大事な部下、いや、仲間だったのに。


 少し強い視線をダンジョウに送る。

 抗いの心に気付いたのだろう。

 彼は優しく諭してきた。


 「坊、その気持ちは尊いものじゃ。我らの様な者たちにとっては救いでもある。しかしのう、その命を散らしていった者たちは今、この状況を喜んでおるのかのう?」


 そんな訳がない。

 自分たちの命と引き換えに運んだ宝を持ち腐れにされてしまっては死にきれないだろう。

 でもさぁ、そんなのってあんまりじゃないか。

 ツチクレ、一緒に新技考えようって言ってたじゃないか。


 「坊ちゃん」

 「アシュラード様」

 

 マックスやカゲゾウ達が声を掛けて来る。

 分かってる。少しだけ、少しだけで良いから時間を。

 彼らの輝かしい活躍に目が眩んでいる愚かな小坊主に少しばかりの時間をくれ。



 ◇



 「すまない、みんな」


 ああ、目が重たい。

 でも、頑張って見開かないとな。


 「いえいえ」


 マックスを筆頭に皆が笑顔で頷いてくれる。

 よし、切り替えよう。


 「シュンケイ、話せ」


 「はっ!自分を含む四名はリュレイオール平原左翼に見える丘に地理確認と偵察を行っておりました。全てを隈なくとは申しませんが大体については任務を遂行していた所、突如矢の雨が我らに降りかかりました。これによりアジとウミが急所を射抜かれほぼ即死となりました。自分とツチクレは即座に撤退を試みましたが、敵は影も見せることなく矢の弾幕を打ち続けました。このままでは、全滅の恐れがあった為ツチクレが殿として残り自分がここに辿り着けたという訳です」


 カゲゾウに言われ、スラスラと話していくシュンケイ。

 【疾走】スキル持ちのシュンケイの脚を以てしても単独での逃げ切りは不可能だったことを見ても相手の力量が窺える。


 「敵の攻撃手段は矢による射撃のみだったのか?」


 「私見ですが、恐らく。気配も感じられず、気配を消していたか、あるいはかなり遠隔からの射撃だったのではないかと」


 どちらにしても厄介だ。

 だけど、気配に敏感な彼らが近づかれて気付かなかったとはどうにも考え難い。

 となると、後者が有力だが。


 「ねぇ、空忍たちに気付かれない距離から矢で彼らを射止められる凄腕、それも集団のって知ってる?」


 「・・・一つ心当たりがあります。しかし、いや」


 カゲゾウは何か納得がいっていない様子だ。


 「大丈夫だよ、話してくれる?」


 「はっ、私が思いますに”射手(いて)”ではないかと」


 いて?

 なにそれ?


 「エンガード帝国十二師団が一つ第九師団射手座、これならば恐らくは」


 ちょい待ち。

 なんでエンガード?

 大国だよね?シルフェウスとは距離あるよね?


 「荒らしじゃろうな」


 「嵐?」


 「皇国の後方を荒らしたいんじゃろうよ。グリンド教国とバロンズ皇国が二国揃って帝国の近隣国への侵攻を押し留めておる。その壁を一枚を乱せればそれで良いのだろうよ」


 な、なるほど。

 後方攪乱という解釈で合っているのかな?

 

 「帝国とリッデルは繋がっているってことで合ってる?」

 

 「まぁ、そうじゃろうのう。シルフェウスはバロンズよりじゃからのう。しかし、純粋にリッデルの味方という訳でもあるまいて」


 ニヤリと笑うダンジョウ。


 「どういうこと?」


 「よく考えるが良い、単純にリッデルに勝って欲しいのならば、左翼が押し返され始めた時点で手を打つじゃろうよ。しかし、それはなかった。ならば自ずと分かろう」


 えーっと、帝国はバロンズが邪魔だと。

 それで、態々、リッデルに助力した。

 ん?


 「その前にちょっといい?これもしかして、リッデルがこの戦い始めるのを知っていたってっこと?」


 どんなに頑張っても帝国からここまでは一月以上移動に費やさなければならない。

 シルフェウスとリッデルの争いの気配を感じたとしても、その情報が届いた所で、手の出しようがない筈だ。となると、前々からこの話を知っていたと考える他ない。


 「間違いなく」

 「じゃろうのう」


 やっぱり帝国の関与は確定な訳?

 それヤバいんじゃないの?

 【十二師団】って遠国の田舎住みの俺でさえ名前知ってるおっかない組織だぞ?


 「それにしても”射手座”とは厄介じゃのう」


 「そう、そのイテザってなんなの?」


 さっきから気になってたんだよね。


 「坊は十二師団については知っておろう?こやつらは帝国の中の軍人の中でも選りすぐりの者たちが更に一握りほどに選別された恐ろしい輩どもじゃ。名の通り十二の隊に分かれそれぞれが異なる特色を持ち、国の為に動くのじゃ」


 なるほど、超エリートな人達の集まりな訳ね。


 「その中の一つが先程から出とる第九師団”射手座”じゃよ。名の通り弓術に特化した者たちの集まりらしい。それ以上は知らんぞ」


 ん?

 もしかしてイテザって射手座のことか?

 十二、射手座、もしかしてこの組織作った人って異世界人か?

 いや、今はそんなこと考えてられない。

 その射手座の奴らをどうにかしないといけないんだ。


 「何れにしろ放っては置けないでしょう。我々が丘を通じての移動を考えている以上、脅威は無視できません」


 そうなのだ。

 この情報が来るまでは左翼の更に左にある丘を通って総攻撃に参加しようとしていた。

 しかし、その丘には弓術の凄腕集団が待ち構えている。

 かと言って真面に総攻撃に参加する力はない。

 それに、


 「乱戦中にそんな凄腕たちに狙われたら一溜りもないもんね」


 では、どうするべきなのか。

 脅威の排除が絶対なのだが、その手段が思い浮かばない。

 人は割けない。兵士は貴重だし、領民さんたちにはどうやったって無理だろう。


 「坊よ、ほれほれ」


 ダンジョウが顔を指差している。

 何だろう。


 「顔がどうかしたの?今、結構深刻な状況なんだけど」


 冷たく返事をすると、何故か溜息をつかれた。


 「察しが悪いのう、儂じゃ、儂が行くわい」


 はい?




 ◇




 ザッザッザッ、と大勢の歩く音が続く。

 その先頭集団に僕ちゃんはいる訳です。


 「本当に大丈夫かな?」


 「気にするだけ無駄だろ。しゃんとしろよ、主」


 キルトは相変わらず冷たいというか、無遠慮というか。

 

 「そうですぜ、あのダンジョウ翁が自ら出張るんですぜ?」


 そうなんだけど。

 裏を返せば、ダンジョウが出張らなきゃならない程の相手ってことになる。

 空忍の人達も幾らか連れて行くって言ってたけど、それでもやっぱり不安というか焦燥感が胸の奥で燻ってる感覚なんだよなぁ。


 「それに我々は目の前の事に気を割くべきです」


 そうだね、カゲゾウ。

 

 「おっと、下ではもう始めたようですぜ」


 マックスの視線を辿ると、確かに左軍の攻勢が始まったようだった。

 

 「カゲゾウ、周囲に敵影は?」


 「今の所ないようです」


 となると、やはり脅威は帝国の凄腕弓兵集団だが、悪戯好きな老人に任せるとしよう。

 こちらはこちらのやるべきことを。


 「それじゃあ、こちらも荒らさせてもらおうじゃないか」


 「その意気でさぁ」


 「お供します」


 「ハンッ」


 頼もしい部下達だ。

 しかし、キルト君や、鼻で笑うのは止めてくれ。

 地味に傷付く。




 

 ダンジョウ、発進!

 

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