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第79話

 ちょいとsadが入ります。悲しいのが苦手な方はご注意を。

 それでは、どうじょ(/・ω・)/




 「左軍指揮官様より命令だ。これより我が軍は敵軍に総攻撃を掛ける。合図を見逃すことのないように」


 厳めしい顔と堅い口調で言いたいことを言い終えると伝令兵は去って行った。

 残された方としては「え?」と聞き返したくなるが彼はもういない。


 「ねぇ、これって、ウチへの嫌がらせで嘘の伝令だったりしない?」


 「その可能性もありますが、どうでしょう。今は左軍に散らばった者達からの情報を待つしか」


 どうか、聴き間違いであって欲しいのだけど。



 「確認が取れました、どうやらあの伝令兵の言っていることは正しかったようです」


 本気でっか?

 盛り返してはいるけども、決して押せ押せではないのよ?


 「とんでもねぇことのなりやしたな」


 マックス、この場からこっそり退くことは


 「御家のお取り潰し覚悟の上でなら喜んで付き合いますぜ?」


 軍紀って破ると大変らしいけど、そんなにですか。

 

 「あ、ラ、王子殿下に報告して止めてもらうとか?」


 仮にも今回の大将なんですから。


 「既に出しておりますが、正直な所、間に合うか分かりません。それに、例え王子殿下がそれを止めようとなさっても左軍指揮官がそれに従うかは」


 あ、もう、動いてたのね。流石、かげやん。

 で、それでも厳しいと。

 

 「ったく、周囲がそういうの止めないかね、普通?」


 「左軍の指揮官には堅実で冷静な副官がいます。その者でも御せなかったということは煽った者がいるのやもしれません」


 「カゲゾウ、想像で語るでないぞ」


 何時の間にかいたダンジョウがカゲゾウを窘める。

 

 「申し訳御座いませんでした、アシュラード様。情報を掴み次第再び報告させていただきます」


 カゲゾウは一切顔に変化がない。

 親に人前で注意されるのって結構カチンときそうなものだけど、やっぱり彼は忍者なのだなと今更ながら再認識した。


 で、注意した方も表情が一切変わらない。

 普段の好々爺っぷりがまるで夢幻のように思える。


 「で、どうするのじゃ?」


 これから先の事を問うているらしい。

 ウチみたいな寡兵が加わった所で総攻撃の威力に大差はない。

 ラルフという存在は乱戦に於いてはマイナス要素の方が大きい。

 体も大きいので格好の的にもなりかねないし、敵味方が入り乱れる中一々敵味方を識別しなければならないのは彼のスピードを殺す事にもなる。


 これらのことから、総攻撃に真面目に参加するというのはナシだ。

 ならば、どうすべきか。


 「総攻撃には参加する。でも、軍勢からは少し外れようか」


 即座に意図を汲み取ったカゲゾウやダンジョウ。

 少し考えて、思い当たったのか意地の悪い笑みを見せるマックス。

 皆なんでそんなすぐに分かるんだろうか、少し不思議。


 「では、どのように致しましょうか」


 カゲゾウの声と共にアドバンス家の軍議が熱を増して行くのであった。



 

 □■□■




 「はぁ・・・・はぁはぁ」


 何とか、このことを知らせなければ。

 体中に刺さった矢を気にする暇など一寸もない。

 ただ走る。


 敵を背にしながら、背面をがら空きにして逃げるのは本来愚の骨頂である。

 しかし、現状においてはそれしか役目を果たす術がないのだ。


 今も其処彼処から風切り音と共に多数の矢が襲ってきているから。


 こうなると、他に手はないか。


 「おい、繋げろよ(・・・・)


 「了解」


 こんなやり取りで通じ合えるほどになったのか、と危機迫る状況でありながらも生き残っている若い忍びの成長に感慨深さを覚えてしまう。

 他にもあと二人いたのだが、何れも敵の矢に射られ帰らぬ人となった。

 しかし、それを悲しむ暇はない。


 「土塊ノ弾、四球」


 振り向きざまに魔法を発動する。

 四つの土塊が四方へ飛ぶが、敵を捉えた感触はなかった。

 そこを逃さず複数の矢が飛んでくる。

 避ける暇などない。


 「ぐっ、」


 胴に一、急所を庇った腕に二、足には三と嫌なぐらい正確に撃ち抜いて来る。

 ここまで弓術に優れた集団、思い当たるのは一つ。

 だが、有り得ない。

 この推測が正しければこの戦い、リッデルの裏にはあの国がいることになる。

 だが、恐らく間違いない。忍びにあるまじき勘での決めつけになるが。


 「十二師団、【射手】か・・・」


 小さく呟いただけだというのにその言葉に反応したのかそれまでにない威力で両の指ほどの矢弾が襲い掛かって来る。


 「どうやら、当たりらしいな」


 聴覚か、視覚か、将又それ以外か。

 何にしろこの集団はやはり尋常ではない。

 だけれども、今ここを抜かれる訳にはいかない。

 

 「力配分していられる余裕はないな。ならば、若直伝の業を馳走するとしよう。喰らうが良い、三途乃土龍!」


 矢が体を貫くが、知ったことではない。

 今は魔法を発動する事のみを考えるのだ。


 自身の前方より一匹の龍を象った土塊が姿を現し、その先へと向かって行く。

 前方からの弾幕が弱まった。が、これまた手応えはない。

 若曰く

 「魔法を何かに干渉させる時、例えばさ、この土の(つぶて)を何かにぶつけた時ってさ、この魔法に使用した魔力がその感触を教えてくれるんだよね」

 とのことだった。

 私は難なく魔法を発動させる若の業に大変驚かされたものだ。


 その時は分からなかったが、それより研鑽を積み私もその感覚に敏感になった。

 そのことを知った若は

 「そっかー、やっぱ凄いねツチクレは。流石名前に”土”がつくだけあるね?」

 そう言って我が事のように喜んで下さった。

 何故私が土魔法を使うのが分かったのか、その時も大層驚いたものだ。



 そんな常に陽が如く明るい若が、この度の戦にはとても心を痛めておられた。

 いつもの穏やかな笑みにやはり陰りが見えたのだ。

 どんなに名代らしくあろうと、どんなにおどけようと、若は若だった。

 ご領主夫妻を敬愛し、御弟妹を大事に思い、領の民を慈しみ、そして我らのような日陰の者にもなんら他と変わることなく接して下さる。

 そんな若が此度のような争いを喜ぶはずもない。

 そして、その若の痛みを少しでも減らすべく、我々は尽力、いや、死力を尽くさねばならぬ。


 「弐乃龍、攻めよ」


 二匹目の土塊の龍を前方の敵に向かわせる。

 恐らく敵の首魁は奥にいる。左右は無視だ。


 「チィッ!」


 焦りの声が確かに聞こえた。

 弐乃龍は速度重視、壱乃龍で敵を攪乱した隙を突くのだ。

 手応えは微量だが、あった。


 「全力で射ろぉぉ!」


 不思議なことに前後左右から矢が降って来る。

 だが、堪えろ。まだ、まだ


 バタン


 気が遠くなる。

 脚に力を入れようにも感覚がない。

 

 人が近付く気配を感じる。

 それでも傍まではやって来ない。

 やはりこの者たちはかなりの手練れだ。

 不用心に近付いて来てくれれば一掃できるというのに。


 だけれども射程には入った。

 十分だ。

 そして殺気を感じる。

 止めを撃つ気なのだろう。

 冷静だ。だが、最後まで付き合ってもらうぞ。


 「暴・・・れ、ろ。参、乃りゅ、う」


 ありったけの魔力を使い最後の仕掛けを呼び起こす。

 己の下から土が大きく盛り上がる。

 体が宙に浮く。


 若は自分のことを聴いたら心を痛めなさるのだろう、あの方はお優しい。

 臣としては心苦しいが、嬉しくないと言えば嘘になる。

 ああ、体が軽い。


 「若、お達者で」


 私は死ぬのではなく、若たちを生かせに行くのです。

 だから、決して挫けぬようお願い申し上げます。



 巨大な土の龍がその場を蹂躙した。




 □■□■



 

 「被害、は」


 「死んだのはいねぇっす。ですが、三人。恐らく今回は無理っすね」


 シルフェウスの諜報らしき者を見つけ殲滅に動いたが、結果は一人取り逃し、少ない味方のうち三名が本作戦への参加不可能となった。


 「”竜哭”が使えたら良かったんすけど、いや、失礼しました!」

 

 副官の男が頭を掻きながら謝る。

 しかし、男のボヤく気持ちも分からないものではない。

 今回の任務は存在を秘することが最も優先されるべきことなのだ。

 彼らの存在を伝える諜報員を生きて逃してしまった時点でこの任務は失敗がほぼ確実となったのだ。


 「で、どうします、団長?」


 「・・・後退」


 「撤退ではなくてですか?」


 「肯定」


 「作戦自体は続行するってことでいいんすか?」


 「思案」


 「分かりました、んじゃ、行くぞお前ら!」


 その掛け声とともに集団は去って行く。


 「団長、あれは放っておいて良かったんです?」


 副官の男は軽薄な見た目とは不釣り合いな真面目な顔をして最後まで自分たちに抗った敵の亡骸について尋ねた。


 「強き者、敬意を、払う、それが、自然の、掟」


 たどたどしい言葉だが、それには揺るがない意思があった。

 こうなってはこの人を翻意させることは出来ないことを知っている副官は軽く溜息をついた。


 「そうっすね。それにしても、あれほどの凄腕があそこまで命を懸けるって、主の方はどんな奴なんでしょうね」


 ふとした疑問。

 あれほどの業を持つ人物が己の命を賭けてまで任務を遂行しようとした忠誠心を向ける人物に興味が湧くのはある意味当然と言えた。


 「強敵、そシて」


 その先の言葉は言葉になることはなかった。












 彼らが去った後、ポツリと残された黒装束の男の顔は穏やかに笑っていた。

 それを木の隙間から差し込む光が優しく照らしていた。








 初登場で亡くなるというツチクレさんでした。

 こういった展開はここまで一切なかったので正直迷いましたが、やっぱり戦争ならこういった被害もあるのかな、と思い書かせてもらいました。

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