第69話
新章です。
はじまりはじまり~
それでは、どうじょ(/・ω・)/
シルフェウス王国とリッデル王国の間には確かな壁が存在する。
過去とは言え国の存亡を賭して争ったのだ。仕方ないと言うのが正直な所
その事実は戦から百年以上経った今でも連綿と受け継がれ消えることはない。
その大戦の後も散発的に両国の間では揉め事が起こった。
やれ、そちらの国の生まれの盗賊が我が国の商人を襲っただ、やれ、そちらの兵士が言い掛かりをつけて我が国民に暴力を振るっただ、他にも両政府の耳に届かないような小さいものも含めれば、その数、万に届き得るのではと言うほどに。
しかし、それでも過去の戦いのような規模の大きい争いには発展せずにやって来た。
それは偏に両国が戦を回避しようと取り組んで来たからである。
それでも、火種はいつまでも残り続け、ひっそりとではあるが確かに燻っていた。
□■□■
「陛下、ご再考を!」
「何を言っているのだ、リメルオン侯爵!我が決めたのだ、再考の余地など塩一粒の隙間もないわ!」
リッデル国王、ジャコンドは怒りの炎をその目に灯し大声で叫んでいた。
そんなジャコンドに対して必死に諫めるのはクルーン・リメルオン侯爵であった。
侯爵はリッデル国内では穏健派とされる勢力のトップであり、何かと隣国に敵愾心を持ち、征服欲を見せるジャコンドを度々諫めてはいた。侯爵家も力があり、自分と似たような考えを持つ複数の貴族を味方につけることで、どうにかジャコンドを抑えていたのだ。
しかし、此度は違った。
一月ほど前、侯爵の元に一つの情報が上がって来た。
「国王たちが隣国攻めの準備を始めている」
クルーンは「またか」と思いながら、いつもの如く自分の派閥に属する貴族たちに対して書簡を送った。
内容は国王を止めるための各貴族たちによる署名を求めたものであった。
国王に直接提言するのはリメルオンである。
他の貴族たちは名前を貸すだけであったが、それだけで抑止力になっていたのも事実であった。
しかし、その返事は予想だにしないものだった。
大半の者が何かしらの理由をつけて署名を断って来たのだ。
クルーンは嫌な予感を感じずにはいられなかった。
断られれば、それ以上はいかんともし難く、侯爵は数少ない署名を持って、国王の元へ向かった。
その王の脇にはある人物がいた。
ヤボー・サークッド
サークッド公爵家の現当主である。
王家の血を流す公爵家と言っても実質的にはお飾りで、いざという時の代替品の役割こそがサークッド公爵家の唯一最大の存在理由であった。
そんなサークッド家だが、やはり王族の血がそうさせるのか、歴代で居丈高に振る舞う者がほとんどで数々の問題行動を起こして来た。
例に漏れず、現サークッド公爵もその気質を持ち、その息子であるエビルもつい数か月前にシルフェウスとの交流試合でやらかしたように、その血をしっかりと受け継いでいた。
そして公爵のは王位への野心を腹に抱えており、これも到底隠せるものではなかった。
ジャコンドにもそれは気付かれている、というよりリッデル王国の貴族全ての知る所にあった。
国王と公爵、両者の仲も上辺だけの冷ややかなものであった。
そんな公爵だが、決して国王から消されることはなかった。
何故か。
それは、サークッド公爵が現国王と同じく強硬派で事ある毎に隣国への侵略を大声で謳っていたからに他ならない。
金の力も武力もない。
しかし、発言力だけはあった。
王家の血が意外な所で役に立ったのである。
ジャコンドはサークッド公爵の価値をその点においてのみ認めていた。
いや、許していたと言った方が正しいか。
◇
クルーンはそんな人物が国王の脇に控えるのを見て、更に嫌な予感を覚えた。
しかし、それを表情には出さず、にこやかな顔で国王に挨拶をする。
「陛下、お久し振りで御座います。ご壮健な様で何よりです」
「ん。ところでリメルオン侯爵、何用で参った」
ジャコンドは一音で返事を済ませ用件を聞いて来た。
それでは、とクルーンは伺いを立てる。
「我が国が隣国へ攻め入ろうとしているとの噂が聞えて来ております。陛下はご存知でしょうか?」
「戦いの準備をしていますよね?」と責めの意味も含まれる言葉をゆっくりとしかしはっきりと国王にぶつけてみる。
「知っているぞ」
ジャコンドは端的にそれを肯定した。
「ならば、早々にその噂を払拭させるべきです」
リメルオン侯爵は尚も言葉を続ける。
「先日、交流試合をやったばかりです。それなのに、その様な噂が立つのはよろしくはないでしょう」
「・・・そうだな」
王座からゆっくりと立ち上がる。
「噂を本当のものにせねばな」
クルーンは己の心臓が止まりそうになるほどの衝撃を受けた。
今まで看たことのない王のその瞳に。
愉悦するその笑みに。
体中から汗が流れ出るのを感じる。
しかし、それに反して体の温もりは失われて行く。
だが、そんなことには構っていられない。
クルーンは倒れそうになるのを必死に堪え
そして冒頭へと戻る。
話を聞く気のないジャコンドにクルーンは必死に翻意を促す
「陛下ッ!なりませぬ、なりませぬぞ!その様な事を申してはなりませぬ!」
「うるさい!以前より思っておった。侯爵、そちは害悪だ。リッデルの覇道を遮る要害よ!」
「陛下、どうかお気を確かになさって下さい!戦になれば多くの資源を失います!それは政において避けねばならないことです!」
「それはシルフェウスを獲ればどうにでもなるであろう!」
「では、バロンズは如何します!それこそ、戦いを理由にこちらに攻め入って来ますぞ!」
バロンズとはバロンズ皇国のことでシルフェウス、リッデルの両国沿いに領土を持つ大国のことである。
このバロンズ皇国の存在がシルフェウス侵略において野心を抱いていた歴々のリッデル国王の動きを封じていた。
しかし、ジャコンドは薄く笑った。
「それについては問題ない。バロンズは容易に動けん」
その言葉に再びクルーンは衝撃を受けた。
隣の大国が、この大事に動かないと言うのだ。
「しかし
クルーンはそれでも諦めず国王を諫めようとした。
しかし、それをある者が遮った。
「くどいですぞ、リメルオン侯爵。陛下はシルフェウスを攻めると決めたのだ。臣下ならそれに従うべきではないか?」
サークッド公爵である。
彼は笑いながらそう言った。
(面従腹背が服を着たような輩が!)
クルーンはそう叫びたくなるのを必死に堪える。
「し、しかし、陛下。何の理由もなくシルフェウスを攻めれば我が国は大陸中から誹りを受けますぞ!」
「そんなものは放っておけば良いのだ。攻め取ったてしまえばそれは我がリッデルのものだ。違うか?」
その瞳に理性などなかった。
あるのは妄執と言う名の狂気のみ。
リメルオン侯爵を含め、この場にジャコンド・ザン・リッデルを止められる者は一人もいなかった。
□■□■
「そうか」
飾られた美術品だけで家を幾つも建てられる、しかし置かれた芸術品はどれも武骨で豪華絢爛とは程遠く、だけれども画たる威厳を持った一室。
そこで報告を受ける壮年の男性は短く呟いた。
その表情はとても苦々しいもので、男の側近の顔色も優れない。
それほど、今受けた報告は重大なものであった。しかも、悪い意味で。
「始まってしまうのか」
男の声は儚げで、このまま放っておけば何処かに消えてしまうのではないか、その様な危機感を聞く者に与えた。
「国王様、何卒お気を強くお持ちください」
すかさず、傍に控えていた者がシルフェウス国王に言葉を掛ける。
国王は笑って応えるが、その笑みには全く力がないのは明白であった。
「すぅー、はあぁぁぁ」
静寂に包まれる室内に息を吸い込み、吐く音だけがやけに大きく響いた。
そして音の主と言えばほんの少し前に見せた弱々しさを完全に消し去っていた。
いや、無理矢理抑え込んだだけなのかもしれない。
「触れを出せ。リッデルと事を構える!」
シルフェウスとリッデルによる戦いの幕が上がろうとしていた。
はい、ということで、きな臭い感じになって来ました。
こーゆー展開読むのは好きなんですけどね~
考えるのは大変ですね。
ぐだぐだにならないよう頑張りますのでよろしくお願いします(`・ω・´)!




