第67話 改
第67話の再投稿になります。
分量は前回より増えており、お見合い編のラストは一応次話になります。
展開は少し変えました。
12時にももう一話投稿します。
面倒を掛けて申し訳ありませんがよろしくお願いします。
それでは、朝っぱらから張り切ってどうじょ(/・ω・)/
現在恐らく地球時間なら深夜0時あたりでしょう。
健康優良男児アシュラード君は普段ならぐっすりお眠りになってます。
それなら何故起きてるかって?
そりゃあ私の目の前にアンジェラ嬢がいらっしゃるからでしょう。
カゲゾウがゴニョゴニョ耳打ちして来た時はびっくりしましたさ。
なんてったってアンジェラ嬢が僕ちゃんのいる部屋にやって来ていると言うのですから。
部屋の前にいたのは爽やか槍使いシュルツ君とムキムキダンディ忍者マサでありますので、即追い返されそうになってました。当然ですね、恐らくこれが伯爵の手なのでしょうから。
それでも彼女一人で来ていた点、その様子を伝え聞いた限りで違和感を覚えたので無理を言って通してもらった訳です。
カゲゾウは反対してたんだけど、なんとか折れてもらった。
うん、帰ったら美味いもん奢ってやろう。
そして部屋に入れたのは良かったんだけども
「あの~」
「・・・・・・」
この通り無言であります。
んー、どうしよう。
プルリン!
どうしたモッチー
「ひぃっ!」
振り向いたらアンジェラ嬢が怯えてるんですが。そういえば初めてのご対面でしたね。
しかしこの反応、もしかしてモッチーにビビってる?嘘だよね?こんなに可愛いのに。
プル~
ああ、モッチー大丈夫、君は何時でも素晴らしいよ。
「アンジェラ様、モッチーは良い子ですから大丈夫ですよ」
「でっ、でも、スライムって魔物でしょ?」
うーむ、うちの家族はご対面の時から可愛い可愛い言ってたけどな~
やっぱり、人によるんだな。
アンジェラ嬢は箱入りっぽいしな~
「それじゃあ、少しお話してみましょう」
モッチーを抱っこして彼女の前に行きます。
「モッチー、アンジェラ様だよ。挨拶しよっか」
一プルいもとい一震いするとモッチーはぽよんぽよん手の平で跳ねております。
一生懸命挨拶する姿、可愛いんじゃあ~
そして跳ね終わりました。挨拶は終わりのようです。
「え、そ、その」
アンジェラ嬢は困惑気味です。
「アンジェラ様、お返事の方お願いします」
「は、はい。私はアンジェラと申します、も、もちー?様どうぞよろしくお願い致します」
うん、イイ感じにテンパってる。
うちに滞在していた頃より、年齢相応に見えますな。個人的にはこっちの方が好ましいな。
やはり貴族令嬢武装というのは私の好みではないようです。
まぁ、自分で言うのもなんですが私、根は庶民ですからな、お堅いのはちょっとアレなんですよね。
しかし総年齢50と数歳、そんな私めがピッチピチ10代を恋愛対象として見るってどうなんでしょうね。限りなく灰色、いやギリギリアウトな気がします。
でも、だからと言って合計年齢と同年代のマダムに魅力を感じるかと聞かれるとその問いには素直に答えられそうもないのですよ。
これは体の方に精神が引っ張られていると考えるべきか、私自身に元々あった偏在性ととるべきか大いに悩みます。
この問題は己自身で折り合いをつけるなりなんなりして行かなければならないですね。
とりあえず今の所はアンジェラ嬢とお話しすることを第一に考えよう。
その前に
「モッチー挨拶ちゃんとできたね、偉いよ」
なでりなでりすると喜んでプルプル震える姿がこれまたキューティクル!
「も、もちー様がとても大切なのですね」
モッチーが言えてない(笑)
だが、ポロリと零れた彼女の言葉には羨望と寂寥が入り混じっていたのが気に掛かった。
「はい、家族ですから」
ここで粗探しするような見え見えの地雷を踏み抜くほど我は愚かではないナリ。
しかし、彼女は俯いて黙り込んでしまいました。あれ?
「うっ、ひっ、うう」
え?何でそこで泣く?そこは「そうなのですか、素晴らしいですね」と続くとこじゃないのぉ?
私もしかして地雷を華麗にすり抜けたと思ったら、思いっ切り踏み抜いてた?
僕ちゃんは当然オロオロすることしかできない訳ですから、女性の兵士さんを呼んで来てもらいましたが、女性兵士さんの視線が痛いです。まるで犯人を見る目ですアレは。
まぁ、原因は恐らく僕ちゃんの発言にあるので、睨まれても仕方がないのですが。
とりあえず彼女が落ち着くのを待ちましょう。
◇◇◇
落ち着いたアンジェラちゃんが鼻をすすりながらポツリポツリと話してくれました。
やはり伯爵には謝意がないこと。
そして逆に優位性を奪うために彼女を僕ちゃんの寝所に送ったこと。
うん、ハニートラップですな、これは。
女性兵士さん、確かスレーザさんだったかな?兎に角彼女がワナワナと震えてるんですよね、怒りで。
同じ女性としてあまりの仕打ちに憤っているんでしょう。
しかし、まぁ、なんとも酷い父親ですな。
あのバカチン息子を紛れ込ませたか、黙認したかは定かではないが、どちらにしてもそれを認めたことは変わりない訳でして。
実はこのような話、決して皆無という訳ではありません。
下世話な話ですが、男という生き物は溜まった精を外に放つことで、感情の安定を保つものです。
そして大概美人に弱い。これは平民であろうが貴族であろうが、それほど大きな差はないというのが自論です。貴族社会ではそれを歴とした手段として利用し、権力者に近づこうとしたり、有能な人物を手の内に入れようとしたりする訳なのです。
つまり、何が言いたいかというと決して極悪な手段ではないということです。
もし、ウチも今のように領地が潤わず、廃れていたりしたならば、父上たちはイリスやオルトーを他家にやる羽目になっていたかもしれません。
「アシュラード様、如何しましょうか」
カゲゾウ君、分かり切った事聞いてんじゃないよ。
「僕は聖人じゃないんだ、余所の家で揉め事起して、謝りもせずなあなあにして水に流そうなんて、そんな砂糖みたく甘い考え許す筈がないよね」
今、僕ちゃんは大魔王様並みのニヒルあんどダークな笑みを浮かべていることでしょう。
決まった!
「ひっぐ、うぅ~」
いかん、アンジェラ嬢を怖がらせてしまった。
また、泣きそうになっとる。
「ア、アンジェラ様、貴女をどうこうするって訳じゃないですから」
スレーザさん、睨むの止めてぇ~
それにしてもアンジェラ嬢のキャラ変振りが天井知らずな件について。
「モッチー、クロ、悪い伯爵様を懲らしめてくれる?」
二匹は「分かった!」とばかりに三度跳ねた。
「ダンジョウも頼むね」
「老人使いが荒いのう、まぁ、任せよ」
老人は全く気負うことなくそう答えた。
□■□■
深夜、ラミノーレ伯爵はふと、目が覚めた。
喉でも渇いたのかと思い、起き上がろうとするが立てない。
まるで金縛りにあったかのように指一本動かせない。
「なっ、どうなって」
どうやら声は出せるようだったが、体を動かせない状況に恐怖と焦燥を覚えていた彼はそのことに気付かない。もし、気付いていればすぐ大声を出して助けを求められたというのに。
すると、黒い影が彼の口元を覆った。
これで彼はこの状況を逃れる唯一の術を失った。
「!?ン、ンン~」
声を上げようとするがもう遅い。
そんな彼が必死にもがいていると、何時の間にか彼の横にローブ姿の人物が立っていた。
『こんばんは、伯爵様。私はとある者の使いになります』
その声はくぐもっていて男女の判別がつかない。
だが、その人物が友好的な人物でないことは今の状況より伯爵には理解できた。
かと言ってもがくのを止められる訳でもない。
伯爵は必死になって声を発した。
突如現れたこの現状の原因であろう人物に対しての罵詈雑言を。
しかし、件の人物と言えば、全くの無反応であった。
というより、顔が見えないのだ。
ローブの隙間から見える顔も靄がかかったような状態で、更に暗い部屋ということもあって、伯爵は犯人に関する情報を何も得られずにいた。
『早速ですが、お話ししましょうか。用件は一つ『余計な真似はするな』です』
あまりにいきなりの要求。
伯爵は動揺を抑え、停止していた頭を動かし始めると、すぐに誰がこの様なことをやらせたのか容易に想像がついた。
「モゴッ(男爵家の者か)」
伯爵が何を言っているのか分からなかったのか、将又聞こえない振りをしたのか、刺客は無言だった。
その様子を図星だと思ったのか、伯爵の口の動きは止まらなくなる。
「フゴフゴ、モゴモゴ・・・(ふんっ、図星か。ならば余計なことはやめておけ。今、私をやったら真っ先に疑われるのはこの屋敷に滞在している貴様の所の嫡男だ。手を引くというのなら、黙っておいてやる。だから)」
『勘違いしていませんか?』
酷く挑発的な口調だった。
しかし、次の言葉はガラリと雰囲気が変わり途轍もなく濃厚な殺気が室内に充満する。
『私は『余計な真似をするな』と言っている』
それは間違いなく威圧だった。
まさかの豹変に伯爵は選択を誤ったかと死を予感する。
しかし、予想とは大きく異なる方向へ話は動いてく。
『あなたは自分の立場を理解してらっしゃらないようだ。ならば、これは如何でしょう』
そう言って取り出したのは何かの冊子だった。
だが、それに気付いた瞬間伯爵は目を剥く。
「ムゴッ!(な、何故それを!)」
『もう一度確認します。余計な真似をしないでいただけますね?』
そこに伯爵の意思は問われない。
「・・・」
この場で伯爵が出来ることはなかった。
「ムゴッ、ムグ(分かった、従おう)」
それに納得したのかローブ姿の刺客は冊子を懐に仕舞うと「それでは」と言い残し姿を消した。
それと同時に伯爵の体の自由が戻る。
それから少し時間を置いて、伯爵は壁に飾られた絵画の裏から冊子を取り出す。
「ふっ、馬鹿め、あれは囮よ。分かりやすい引っ掛けに掛かるとは程度が知れるな」
それは所謂裏帳簿と呼ばれる類のものであった。
刺客が先程持ち去ったのは伯爵の机に仕舞われていたもので、全くの出鱈目が書かれている。
つまり、アレは奪われても痛くも痒くもないものであった。
伯爵はそれを分かった上で刺客の要求に従った振りをしたのである。
「それにしても、この私にあのような真似をして唯で済むと思うな」
その瞳には屈辱を受けた怒りの炎が灯っていた
そして、兵士を呼ぼうとした時、また、伯爵は体の自由を失った。
『ありがとうございます。わざわざ本当の在処を教えて下さって』
その声は明らかに伯爵を嘲っていた。
『では、それいただきますね』
すると不思議なことに冊子を掴んでいる指が伯爵の意思とは裏腹に冊子から離れて行く。
そして手から離れた冊子は地面に落ちる。
刺客がそれを拾い上げ、そのまま伯爵の後ろに回る。
『次はありませんよ?』
体の芯からゾッとするほどの冷たく、そして剣先のように鋭い一言だった。
子息を送り込み、男爵家を侮辱したこと。
娘を男爵家の嫡男の寝所へ送り込み、篭絡させようとしたこと。
これ以上無駄な足掻きを見せれば、裏帳簿を使って社会的に抹殺し、今回のように強硬手段で処分する。
それを伯爵は今度こそ身に染みて理解した。
『それでは、今度こそご機嫌よう』
再び部屋には静寂が訪れる。
その夜、伯爵が人を呼ぶことはなかった。
□■□■
「一段落、じゃのう」
真っ暗な部屋の中、その老人は現れた。
扉を開けもせず、窓を開けもせず、突然のことであった。
「クロ、モッチー、ご苦労だったのう」
「ダンジョウもお疲れ」と一跳ねすると二匹は大好きな主人の眠るソファーへと向かって行く。
そしてその主人が寝ている筈の寝具には一人の女性が眠りについていた。
伯爵家の客である自分の主がソファーで寝るとは普通有り得ない事なのだが、老人はそれを何処か微笑ましく思った。
長年、温もりとは縁遠い世界でしのぎを削って来た彼にとって、この小さな主人の伯爵令嬢への気遣いは心の温もりを思い出させてくれる上、更にとても爽快な気持ちにさせてくれた。
「甘ちゃんじゃのう。それでも、この老骨がちと頑張ればどうにできるからの。お主はゆっくり大きくなれば良い」
老人は孫を見る祖父のような優しい目をしていた。
そして次の瞬間には、何事も無かったかのようにいつもの飄々としたダンジョウがいた。
「さて、まだまだ、働かねばのう」
小さな主人の頭を一撫ですると、忍びは姿を消した。
その者の名はダンジョウ。先代カゲゾウであり、歴代で最も優れた業を持つと謳われた忍び。
裏の世界ではその異名だけが語られる。
《夢幻》
夢のように何処からともなく現れて、幻であったかのように姿を消す、その腕前からつけられた異名。
その凄腕は人々が寝静まった真夜中も主の為に休むことを知らない。
それから数刻後の早朝、顔を黒く染めた少年が老人の名前を叫んでいたのはいつものことであった。
ダンジョウが口調を変えたのは、スキルに関係があり、尚且つ身バレを防ぐための処置です。
まぁ、思いっ切り素の口調で話すようなヘマはしないでしょうしね。




