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第65話

 ほいでは、どうじょ(/・ω・)/





 さて、私アシュラード君は表向き(・・・)護衛十数名にモッチーを連れてラミノーレ伯爵領にやって来ました。

 因みにアンジェラ嬢は我々より先に伯爵領に帰しました。

 理由は事情を説明させるためです。

 勿論クソガキは我が領に居残りさせてます。

 他のご令嬢二人は帰ってもらおうとしたのだけれど、何故か領内に留まっている。

 モジっ子ミリカ嬢はマリウスと本談義、フローレット嬢は領内の兵士に混ざって訓練。

 楽しそうで何よりです。まぁ、当事者より上手くいってる人がいるようですけどね?


 伯爵サマーに許可をもらう前に突貫した訳ですが、これは単に猪突猛進ってことではなくてですね、ちゃんと理由はあるんですよ?


 その理由とは至極単純でして「テメェの許可なんか知るか!」という、喧嘩saleです。

 以前教国の方々が先触れの使者と間断なくいらっしゃって大変迷惑しましたが、今回は我々がそれをやっている訳です。

 いやぁ、「他人にされて嫌なことは他人にしない」という言葉が前の世界にはありましたが、そんな消極的な姿勢じゃ食い物にされるだけなのが貴族のセカイなのですよ。


 そして私、現在堂々と伯爵領を歩き回っているところです。

 いつもは付けない護衛でびっしりと周りを固め、不機嫌そうな顔をしながら突き進むのです。しかもゆっくりと。

 更には伯爵領内にてダンジョウたち空忍にある噂(・・・)を流してもらっています。

 こちらが裏向き?の方です。

 もちろん潜入工作活動になりますので悪しからず。


 「それなりに覚悟してたつもりだったんだけど、街の人の視線に何故か同情と言うか憐みと言うか生温かさを感じるのは気のせいかな?」



 お付きの者は答えない。

 その疑問に対する答えを知っているのに。

 いや、知っているからこそであろう。

 今この場に居ないとある古参の兵士が面白おかしく、滑稽に、そして哀れな男爵家の長男の見合いのありもしない(・・・・・・)破談模様を創作(・・)して吹聴しているのだから。

 奇しくもそれはアシュラードがダンジョウたちに命じた任務と同様であった。


 しかし、ダンジョウたちはラミノーレ家のアンジェラ嬢とアドバンス男爵家の嫡子アシュラードの見合い時にラミノーレ家子息のリオネルが介入し、場を滅茶苦茶にし、怒った男爵家の嫡子が伯爵領に乗り込んで来たという筋書きの噂を流し、アシュラードを頭の弱い短気で愚かなボンボンと言う印象を伯爵領内で根付かせる予定であったし、アシュラード自身もそうなることを分かっていて彼らを動かしたのだ。

 全てはイリスに対する風評被害を隠蔽するため。

 だけれども、その事を前以て聴いていた筈の男が独断で動いたのである。

 それは、相も変らぬ御曹司弄りのためか、将又、妹のために泥を被るつもりだった少年を慮ってのためか、少年以外の者は理解していた。

 ダンジョウもその思いを汲み取り、古参の兵士の吹聴に沿って情報操作を行っている。


 良くも悪くもそれが功を奏しアシュラードは伯爵領内の民たちからは「可哀想な御仁」という印象で迎えられている。

 自分の想定していたものとは違う現状に首を傾げるアシュラード。

 知らぬは本人ばかりというやつである。

 何だかんだ言って少年は愛されているようだ。



 □■□■




 「・・・・です」


 ラミノーレ家のとある個室にて、領主である伯爵はアドバンス男爵邸で起こったこと、そして、それにより相手方が強く抗議の意を示しているという聞きたくなかった報告を受けていた。


 「それで、こちらに来ているのは男爵家の嫡子なのだな?」


 件の男爵家の嫡子が入領していることは既に伯爵の耳にも届いていた。


 「はい、既に領内の民にも知れ渡っています。恐らく他領へ伝わるのも時間の問題でしょう」


 報告する男の顔はげんなりとしており、これから国内の貴族たちの格好の餌食になるであろうラミノーレ家の未来を憂いている。

 伯爵と言えば「貴族足り得ん愚かさだな」とアシュラードの行動を嘲っている。


 「ならば、やり様もあるではないか。その嫡子殿の好ましくない噂でも流せば傷は小さくてすむだろう」


 ここで即刻屋敷に招待し、謝罪するという選択肢がない辺りに伯爵の自尊心の高さが窺える。


 「それが、既にその手の噂が流れ始めております。それを耳にした民の多くは男爵のご子息殿に同情的になっておりまして」


 「チッ、恐らく男爵が手を回したのだろう。後手に回るとなると、こちらがある程度譲るしかないか。いや、何か手がある筈」


 気分が悪いと言わんばかりに部屋の主は顔を顰める。

 現ラミノーレ家当主、ルスタール・ラミノーレはそれなりに知恵が回る男であった。

 しかし、彼は男尊女卑、そして、選民思想を持つ厄介な人物でもあり、今回のリオネルの密かな同行を認めたのもその強硬な考えによるものだったのだ。


 「如何致しましょう?」


 「そうだな、これ以上勝手に動かれても面倒だ。屋敷に呼んで動きを封じる。後は私が何とか・・・いや、アンジェラを使うか。うん、そうだな、これなら、煩い小蝿も落ち着くか」


 主の最期の呟きから、彼が何をしようとしているのか、耳にした男には分かってしまった。


 「伯爵様、それは!」


 「ん?どうした?良いではないか、遅かれ早かれ夫婦となるのだ。となれば有効に使うべきだろう?」


 冷笑しながらそんなことを宣う主に男は言葉を続けることができなかった。

 しかし、男の脳内では途轍もないほど大きな警鐘が鳴っている。

 それをやってしまえば、何か取り返しのつかないことになると。


 「恐れながら、アドバンス男爵、いえ、男爵家はその様なやり方を何より嫌悪する筈。何卒御考え直しを!」


 直に男爵家を見て来た男からの諫言。

 ラミノーレ家のことを思っての正しい献策であった。

 しかし、目前の人物には伝わることはなかった。


 「何を言うか。元はと言えば貴様らの不始末のせいであろうが。これ以上の策を貴様は私に示せるか?」


 そう言われてしまうと男は何も言えなくなる。

 元々、伯爵と男の考えは違う。

 男は何とか男爵家に怒りを治めてもらうことを第一とし、伯爵は何とか男爵家を丸め込もうという男とはまるで正反対の考えだったのだ。

 男は冷や汗が止まらなかったが何とか気を振り絞って雇い主に諫言を繰り返す。


 「で、ですが、もし、男爵家のご子息殿がそれを突っぱねた場合、今よりも両家の溝は深まり、ラミノーレ家の立場は更に追い込まれることになります」


 男の言は見事な忠義と呼べるものであった。

 しかし、それは無慈悲な返答によって踏み潰されることとなる。


 「はっ、何を言うかと思えば、アンジェラの美しさはお前も知っていようが。小蝿は確か未だ女を知らぬ筈だ。そんな輩が彼奴に迫られれば抗える筈もあるまい」


 「これは決まったことだ。異論は認めん」とルスタールは男を睨み付ける。

 こうなってしまうと雇用されている男としては何も言えなくなってしまう。


 「それでは、小蝿殿をご招待して差し上げろ。もちろん、アンジェラにも伝えておくのだぞ?」


 そう言うと話は終わった、失せろと言わんばかりにルスタールは男から視線を移す。

 男は何とか一礼すると部屋から退出し、少しばかり歩くと壁に手をついて何とか倒れそうになる体を支える。

 深い呼吸を何度か繰り返し、どうにか気を保とうとする。

 その時、男は何か違和感を感じ、後ろを振り返る。


 「ッ!?」


 しかし、彼が歩いてきた先には何もない。

 気のせいだったのか?と男は首を傾げる。

 どうやら自分はかなり参っているようだなと自嘲気味に笑うと再び歩き始める。

 彼は気付かない。

 自分の影に男爵家からの()が潜んでいることに。



 

 □■□■




 クロは怒った。

 まるで反省のない偉そうな男に。

 そして何より怒りを覚えたのは自分の大好きな人を小蝿扱いしたことである。

 小蝿というものがどんなものなのかクロには分からなかったが、大好きな主が馬鹿にされていることだけはしっかりと理解していた。

 

 クロは基本大人しい子である。

 イリスにどんなに雑に扱われようと決して怒らないし、嫌がる素振りも見せない。

 領内の子どもたちが力加減を知らずに己を掴んだ時でさえ、彼若しくは彼女は無反応であった。

 そんな子でもあの偉そうな男は敵だと即座に判断した。

 クロが魔物以外で敵意を覚えたのは奇しくもルスタールが初めての存在となった。

 正直、クロは部屋にいた時も処分しようと思ったぐらいだった。

 それでも、クロは自分を律し、諜報活動を継続した。

 これは師匠である白髭の老人との日頃の鍛錬によるものと大好きな主との約束のおかげであった。


 因みにクロが男の影に潜んだのは男爵領滞在時からである。

 この隠密活動、過保護なご主人は猛反対したのだが、老人の説得と何より大好きな主のことを思っての本人(?)の意思によるものであった。


 ぷるぷるぷる、ぷる


 「任務完了、帰還」とばかりに男の影から別の影へと移り去る。

 隠密スライム、クロ。大好きな主、そして先輩でもあり親友でもあるモッチーの元へ影伝いに帰るのであった。




 何故か、しりあすさんが顔をひょこひょこ出してますがすぐに引っ込みますので。

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