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第64話

 最初考えていたのとは全く違う方向に( ^ω^)・・・

 まぁ、気にせずにそれではどうじょ(/・ω・)/




 今、この場の雰囲気は非常にぴりついている。

 身内は父上、ぼくちゃん、マックス、カゲゾウ、家令のマクネスさん。

 外部の人間ではアンジェラ嬢とそのお付きの人達と小姓っぽい男の子、つまりラミノーレ伯爵家からお越しになった方々。

 アンジェラ嬢は何食わぬ顔をしているが、何処かぎこちなさを感じるのですね。

 お付きの人達も取り繕ってはいるものの緊張は隠しきれていないご様子。

 そして小姓風の男の子は如何にもマズイ!と言った顔をしています。

 そんななんちゃって人間観察をしていると冷たく重たい声が僕ちゃんの耳に、いや、この場に居る者全てに届いたのであります。



 「それでは先程の件(・・・・)、ラミノーレ家の方にご説明させていただく」


 父上の声が冷たいです。

 正に極寒の地恐ろしあを彷彿とさせるような冷たさです。

 リポーターのアシュラード君は挫けそうです。

 しかし、そんなこと言っていられないのが現状なのです。

 「それでは私から」とマクネスさんが語り始めます。



 「先程、ラミノーレ家の召使が男爵様がご息女イリス様に対してお声を掛けたことが始まりです」


 室内はシンとしています。

 鼻息や身じろぎの音すら憚られる、そんなとても息苦しい空間です。

 イタタタ、お腹痛くなってきた。


 「その召使はあろうことか名乗ることも礼をすることもなくイリス様に「君がイリスか」と語り掛けたそうです」


 まぁ、普通じゃあり得ないよな、いくら伯爵家の方が家格が上だからって。

 これ刃傷沙汰になってもおかしくない様な問題なのよね。


 「イリス様はその者にそうである旨を伝えました。すると、その召使はイリス様に馴れ馴れしく近寄り、腕を掴んだというのです」


 うん、私刑で。

 とりあえず魔法当て1000発くらいいっちゃおうか?


 「更にその者はイリス様に婚姻を迫ったとお傍にいた者たちより報告を受けております」


 おーい、お前だよ。お・ま・え

 そんなことしたの?そう、そんなに男爵家(うち)敵に回したいんだ?

 喜んで潰してやるから安心しろよ。

 腹痛?ナニソレ?覚えてないねぇ?



 この時のことをラミノーレ家の侍女は以下の様に語っている。

 「その瞬間、男爵家の方々から途轍もない怒りを感じました。特に男爵様とあれはご子息様でしょうか、最早殺意だったのではと思うほどに冷たく恐ろしいものを・・・」



 マクネスさんが説明を終えると再び静寂が訪れた。

 誰も何も喋ることはない。

 誰かがゴクリと息を呑む音が聞える程に音のない世界が続いていた。



 「男爵様」


 少し声を震わせながらその静寂を打ち破ったのはアンジェラ嬢だった。

 「よろしいでしょうか」と父上に発言の許可を取る。

 その姿は立派な貴族の女性だった。


 「どうぞ」


 父上の短く、そしてやはり冷たい声。

 これを何も知らない現代の日本人女子が聞いたら間違いなく「ラクトルさまぁ~」と黄色い声を上げていたに違いない。そんな凛々しい父上の瞳はとても刺々しいものだった。


 「この度は大変失礼致しました。この者には厳しく言い聞かせますので何卒御容赦のほどを」


 まぁ、庇うよなぁ

 だって


 「それはその者が貴女の弟御でいらっしゃるからか?」


 あかん、父上本気だ。

 こうね、自分より大きな感情を抱いている人を見ると、どんなに怒ったり悲しんだりしていても冷静になれることってあると思います。

 あ、顔に出しちゃったね。

 何故って顔しちゃってるよ。

 それはね、便利で便利な鑑定というスキルのおかげだよ~

 はい、アシュラード君からの情報漏洩でごわす。許してね?


 「うちのイリスとオルトーは未だ幼い。そのため、現状ではどの家の方にも最初に二人に対しての縁談はお断りを入れているのです。それはこの度我が家にお招きしている三家も同様です」


 言いたいこと分かるよなぁ?と父上の鋭い視線が飛びます。

 ええ、もう、光線的なのが飛んでる訳です。


 「つまり、ラミノーレ家は分かった上でこの様な手段に出た、そう受け取って構いませんね?」


 ああ、ブリザードが、父上の周囲が吹雪いて見える・・・

 アンジェラさんが下向いちゃった。

 お付きの人やクソガキは顔色悪くしてだんまりだし。

 で、どうすんだ、これ?

 誰か、この場を早くまとめてくれーい!


 「ご領主様、よろしいでしょうか」


 でた!

 我らがカゲゾウ!

 

 「なんだい?」


 ヒィィ

 口調は柔らかくなったけど、目が、目があああ。


 「一先ずラミノーレ家の方々には領地の方にお帰りになってもらってはいかがかと」


 あ、神を見る様な目だ。

 地獄に仏って感じなのかもしれない。


 「勿論伯爵様のご子息には残っていただきますが」


 からの絶望。

 上げて落とすとはこれまた酷いな。


 「なっ、それは「イリス様に手を出そうとした狼藉者をアドバンス家が大手を振って見送るとでも?有り得ないでしょう」


 当然ですわな。

 異議ありなんて言わせないのですよ。

 

 「僕が狼藉者だとっ!」


 おい、テメェは引っ込んでろや。

 うちのイリスに手ぇ出しといて、お前のお前さんを使い物にならなくしてやってもいいんだよ?

 ナイスなスマイルを見せてやると自分の立場を思い出したのか、又黙っちゃったぜ。


 「ご子息、いや、リオネル・ラミノーレ殿、貴殿は自分のやったことを理解していないのか?」


 あ、名前は鑑定した時に見たのを伝えました。

 

 「いっ、いえ」


 普段怒らない人が怒ると怖いって元居た世界ではよく聞いたけど、やっぱりギャップてのが大きいんだろう。勝手に頭の中で怒らない人と位置づけしているがために戸惑いが起こると。けど、この場に居る男爵家側の人達は誰も父上に委縮した様子はない。つまり、そんな事も気にならない程に皆がリオネル、若しくはラミノーレ家に怒り心頭なんだろう。

 私?怒りを超えて殺意湧いてるからだいじょぶ!


 「ラミノーレ家の方々もよろしいですね?」


 無言の肯定の後、この場はおひらきとなった。




 〇 ラクトル 〇




 「お父様!」


 部屋に入るとイリスが飛び掛かって来た。

 なんとか落とさずにすんだけど、もうちょっと慎みを持とうね、イリス?

 そして何故かアッシュからの視線が痛い。

 

 「兄さま」


 オルトーが可愛らしく寄って行くと一転してだらしない顔になった。

 うん、すごく残念に仕上がってる。


 「ラクトル、お疲れ様」


 ああ、マリーの声を聞くとホッとするな。

 張った肩がほぐれる感じと言えば良いのかな?

 

 「ありがとう、マリー」


 アッシュのいる方からブツブツと何か聞えた気がしたけど気のせいだろう。

 マリーはことの顛末を知りたいのだろう。少しソワソワしている。

 でも、イリスが居る場では憚られるんだよな。


 「イリス、父上は母上とお話ししたいみたいだからお兄ちゃんとオルトーと遊ぼうか」


 そんなことを考えているとアッシュが気を遣ってくれた。

 こういうさり気なさをアッシュは時折見せることがある。

 親としてはとても鼻が高いね。


 「はい、お兄様」


 下ろすとイリスはアッシュたちの方へ向かって行った。

 うん、アッシュの顔が緩み切っているのは本心からなんだろう。

 もしかして、ただイリスを構いたかっただけかと少し不安になる。


 「ふふふ、相変わらずねあの子たちは」


 マリーはとても嬉しそうだ。

 やっぱり自分がお腹を痛めて産んだ子どもたちが仲良くしているというのは母親にとって父親とは違う感動があるのかもしれないな。


 「ああ、それで今回の件だけど、ラミノーレ家に強く抗議するつもりだ」


 「そう・・・」


 マリー、すまない。

 イリスのためを思うならことを大きくするべきではないだろう。

 でも、今回の件はラミノーレ家がアドバンス家を侮辱したに等しい。

 前以て決めた約束を素知らぬ顔で踏みにじったのだ。

 これは貴族として許してはならない。

 

 「場合によっては彼のお方にご助力いただくことにもなるかもしれない」


 「・・・」


 ラスカル殿下を引っ張り出すというのは即ち国内にこの件を喧伝することになるということだ。

 つまり、イリスがラミノーレ家の子息に手を出されたという情報が国内に出回ることになる。

 噂は事実とは異なる形となって伝わるだろう。これは至極当たり前のことだ。

 忌むべくはそれがイリスにとって悪い評判を生むことを止められないということだ。

 

 アドバンス家の娘がラミノーレ家の子息に手を出された。

 

 深く知らない者達は好き勝手に言うだろう。

 アドバンス家を快く思わない家はこれ幸いとばかりに声高にあれやこれやと叫ぶことだろう。

 恐らく、これはイリスにとって深い傷になる。もしかしたら一生異性と結ばれることはないかもしれない。

 僕は将来イリスに嫌われるだろう。

 ああ、考えただけでも辛い。

 「お父様、大嫌い!」なんて言われた日には・・・


 だからこそ、ラミノーレ家には全力で抗議する。

 娘の明るい未来を代償に、アドバンス家の怒りを、恐ろしさを伝えなければなるまい。


 「・・トル・・・ラクトル」


 おっと少し考えに耽ってしまった。

 

 「マリー、ごめんね。ボーっとしてた」


 「いえ、あなたも辛いのよね。それなのにごめんなさい」


 ああ、マリーそんな顔しないでおくれ。

 

 ラクトルが愛する妻に言葉を掛けようとした時だった。


 「それでね~、すっっっごい偉そうだったの!」


 「そっか~、イリス大変だったね~」


 どうやらイリスがラミノーレ家の子息に絡まれた時のことを話しているようだ。


 「でもね、お兄様にね、お父様にね、お母様にね、オルトーにね、うちのみんなのことを思ったらね、全然怖くなかったよ?だからね、イリスは大丈夫!」


 指を一本ずつ折り曲げながらそう話す娘はとても輝いていた。

 アッシュも一瞬驚いた顔をしたけどすぐ優しい顔になって、イリスの頭を優しく撫でている。


 この子は敏い。

 僕たちのことを気遣ってくれているのだろう。


 「姉さますごいです」


 オルトーにはそんな姉が大きく見えているに違いない。

 

 「そうだな、イリスは凄いな~」


 アッシュ、ニヤケ顔をどうにかしよう。

 



 アドバンス家の団らんの夜はそれからしばらく続いた。




 「父上、僕にやらせてください」


 「いいよ」


 「ダメと言っても今回ばかりは・・・って、え?」


 「言っても止まらないだろうし、それに今回は僕もかなり頭にきてるしね。だけど、くれぐれも」


 「分かってます。細心の注意を払います」


 僕も怒りの化身になったかと思っていたけど、アッシュはそれ以上だったね。

 そのニヤケ顔さっきとは真逆すぎて怖いよ。


 「父上、安心して下さい。イリスに瑕などつけさせませんから」


 うん、詳しく聞かせてもらおうか。




  

 温かいカルボナーラが美味い。

 皆さんも防寒はしっかりとしてお気を付け下さい。

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