第62話
中々進みませぬが、とりあえずどうじょ(/・ω・)/
お見合い2日目。
本日のご予定、領地巡り。
と言ってもうちには劇場や高級店と言ったお貴族様向けのお店がないから退屈かもしれませんが。ご令嬢様方ご容赦くださいね?
まぁ、このフロンテルムが好きになれないようなら嫁入り以前の問題ですからね。
しっかり様子を看させていただきましょう。
「はい、こちらスモー祭壇になります。ここは夜間を除き常に開かれていて、民の運動の場となっております。そして年に一度性別、齢から分け隔てスモー大会なるものを催したりもしています」
反応が良いのは赤の麗人フローレット嬢。
相撲を取っている青年たちの姿を真剣に見つめている。
戦いと名のつく物には目がないのかね。
今一つなのがザ・お嬢様アンジェラ嬢。
興味なさげな感じがする。昨日のお話の時と比べて明らかに気が乗らないご様子。
どことなく気だるげな面持ちに見えなくもない。
前髪っ子エリカ嬢は他の2人と違って祭壇や客席に気が向いている。
まぁ、インドアな子みたいだし、こういう場所なんて初めてなんだろう。
しかし、キョロキョロする姿はこう、グッときますなぁ。
「あ、若様だ!」
「え?ホントだ!」
「お~い」
「おい、人連れてるから止めとけって」
元気のいいおっさんどもだな。
てか、昼間から相撲って仕事はどうした、おい。
「な~に、たまには息抜きしねぇとな」
「おうよ!昼間っからのスモーは良いもんだぜ」
「うちの母ちゃんには口が裂けても言えねぇけどな!」
「はぁぁ、すみません若様」
1人を除いてガハハと楽しそうで結構だが、後ろ見てみ?
「随分忙しそうじゃないかい」
「昼間っからなんだって?」
「ワタシには何が言えないって?」
『( ^ω^)・・・』
『てめぇら何真っ昼間から遊んでんだい!!さっさと仕事しろ!!』
『はっ、はぃぃ~』
駄目親父ズは一目散に逃げて行った。
見た目は筋肉質なマッチョたちなんだけどな。
恐妻って文字順引っ繰り返したら最強になるよね?
やっぱり男ってのは弱い生き物だねぇ。
そして唯一常識人(?)ぽかった人だけがどうやら独身っぽい。
「言わんこっちゃない。だから切りのいいとこで戻ろうって言ったのに」
この独身庶民、どうやら逃げた3人のおっさんたちとは少々違うっぽい。
それでも昼間っからスモーしてる時点で大差ない気もするけど。
おや、スモーする人がいなくなってバト狂フローレット嬢は残念なようだ。
でも、今回は諦めてくだせえ。
「アッシュにい~」
「あそんで~」
今度は子どもたちが来てしまった。
何とも可愛らしい。
「ごめんなぁ、今日は用事があるからまた今度な?」
『え~』
すまんな、おチビ共、アッシュにいは今割とマジで人生の岐路に差し掛かってるんだ。堪えてくれ。
『・・・(ジーッ)』
くっ、うるうる上目遣いは卑怯だぞ!
一体どこで覚えたんだ?
「えーっとね、綺麗なおねーちゃんがこーやったら男はいうこときくって」
おい、誰だそいつ。
即刻追い出せ。子どもたちに悪影響だ。
「分かった。今度美味しいもの持って行くから今日は我慢してくれ」
「ほんと~?」
「おにく?」
「あまいの?」
「たくさん?」
おうおう、期待に目がキラッキラしてますなぁ。
これなら大丈夫そうだな。
「おう、お前たちの好きな物たくさん持って行ってやる。それにたくさん遊んでやるさ」
「じゃあ、いいよ~」
「約束だよ?」
「やぶったらだめなんだよ?」
「あれしよ!あれ!」
あれか~。
まっ、いいか。
「おいおい、アッシュにいが約束破った事なんてないだろ?まぁ、しょうがない」
そう言って小指を差し出すと元気っ子が小さな指を絡めて来た。
そう、指切りげんまんである。
領内のおチビたちと遊んだ時別れ際に「もっと」と愚図られた時に次回の約束ということでやってみたのだがそれが見事に領内の子どもたちに定着してしまったのである。
私、今回の様な場合は必ずと言って良い程おチビたちと指切りしている。
「ゆ~びきりげ~んまんうそついたらアッシュにいモテないゆびきった!」
「はい?」
おい、モテないってなんだ、モテないって。
お見合い中に縁起でもないぞ。
「な、なぁ、なんでモテないなんだ?」
「えっとね~、兵士のおじちゃんがおしえてくれたの!これしたらアッシュにいがいたくないよ~って」
痛くない?
「あのね、もしアッシュにいがやくそく守れなかったらゆびがいたくなっちゃうから、こうしたほうがいいよって」
おお、お兄ちゃんのことを思ってくれたのか。
何と良い子たちなのだ。
だが、それにしてもこの悪趣味な替え歌は・・・
「マックスだな」
控えているカゲゾウも無言の肯定。
この領内でぼくちゃんをモテないと弄るのはマックスぐらいだ。
キルトはそういう弄りはしない。思いっ切り舐められてるけどね。
それにしてもやっぱり彼には教育という愛の鞭が必要なようだ。
「アシュラード様、今は」
「分かってるさ」
カゲゾウがさり気なく注意を促す。
流石にこの場で本人を呼びつけてどうこうしようとは思っていない。
でも、
「ミッシェルさんに伝えといてくれる?」
「かしこまりました」
許すとも言っていない。
『・・・』
あら、お嬢様方だんまりしちゃって如何しました?
もしかして聞こえてました?
「アシュラード様、此処はもうよろしいでしょう。次の場所へ」
「そうだね、じゃあ移動しましょうか」
さぁ、皆さん移動の時間ですよ~?
いやぁ、それにしてもおっさんとおチビたちのおかげで良いものが見れたよ。
突然の出来事ってのも悪い事ばかりじゃないね。
◇◇◇
続いてやって来たのは食い倒れ通り。
相変わらず人で賑わってる。活気があって何よりです。
ぱっと見治安の乱れもなさそうだし善き哉善き哉。
「に、賑わってますね」
エリカ嬢は人混みが苦手みたい、ちょっと親近感。
だけどやっぱり好奇心はあるみたいで出店の数々の料理をぶんぶん頭を揺らして覗いている。
串焼き辺りを試食してもらおうかな~
「アシュラード様、ここではお控え下さい。ご令嬢方も又高貴なる身分ですから」
カゲゾウに釘指されちった。てか、鋭過ぎやしないかね?いや、おいどんが分かりやすいのか?
とりあえず、モーイの館に着くまでは買い食いはNGってことなのね?
「アシュラード様、今日はどうだい?」
「おじさん悪いね、今日は遠慮させてもらうよ。また今度、美味いの頼むよ?」
「おう、任せときな!」
屋台の主たちと言葉を交わしながら通りを進んで行く。
ああ~、肉の焼ける音、濃厚なスープの香り、我慢我慢、断固たる決意を保たねば!
『・・・』
なんか女性陣静かだなぁ。
こういう雰囲気を変えられるような技術もなく、無言に耐えられない僕ちゃんはやっぱりモテないんだろうなぁ。
ふと気づく 己の未熟さ つらいです
季語もなく大して上手くもない一句が出来上がってしまった。
『・・・』
当然そんなもの口に出来る筈もなく、住人たちと言葉を交わしながら私は目的地まで急ぐのであります。
◇◇◇
モーイの館に到着し現在お食事中であります。
出されるのは美しく飾られた料理、と創作料理の数々で、お嬢様方は夢中で御座います。
ケーキにプリンと甘味攻めであります。
ほらほらこれが良いのであろう?ぐへへ
それにしても食べ方も全然違うな、この3人。
アンジェラ嬢は品よく綺麗に食べている。スプーンやフォークのスピードは気になるけど。
エリカ嬢は小さく一口ずつ口に運んでいく。可愛い。
フローレット嬢は何となく無理してる感じ。多分がっつくのを必死に抑えていると予想。
「皆さんのお口には合いましたでしょうか?」
「ええ、中々のもので御座います」
「美味しい、です」
「・・・・美味いぞ、です」
ふっふっふ、これが私の実力ですよ。どうです?
え?作ったのはお前じゃないだろ?細かい事は良いんですよ、作らせたのは僕ちゃんですし、つまり僕ちゃんの力と言えなくもないでしょう。
「それは良かったです。気に入った料理があったら後で言って下さい。レシピをお渡ししますので」
その瞬間六つの瞳がギロリとこちらを向いた。
一言で表現するなら狂気、いや、狂喜か?どちらにしろおっかないことに変わりはないですが。
「本当ですの!?」
「本当ですか!?」
「本当か!?」
ええ、本当ですとも。
だからそのオーラを抑えてもらえないでしょうか。ちときついです。
(己が蒔いた種で泣きを見るとはやはりまだまだじゃのう、ふぉふぉふぉ)
へっくし!
う~い。誰か噂してるのか?
いや、それにしても女性の甘いものへの執着はおっかねぇや。
これはいろんな場面で使えそうだけど、匙加減間違えると大変そうだ。
こうしてアシュラードは女性の扱い方を身を以て学んだのであった。
そして、その日のうちに各令嬢から甘味のレシピを求められたのは言うまでもなかった。
距離は縮められなかったが物で興味は引けたという何とも言えない形で2日目は幕を閉じた。
その日の夜、男爵家の古参の兵士が妻にこっぴどく絞られたという。
もうお腹いっぱい?
すみませぬ、まだお付き合い下され(;´・ω・)




