第60話
出でよ!
ヒロインたち(仮)!!
部屋に入ると3人の女性が控えていた。
1人目は如何にもお嬢様と言った風貌で金髪ロングで服装もお淑やか、教養もありそうな美少女さんだ。
2人目は背が高く、赤髪のセミロングで眼光の鋭さは令嬢と言うよりも騎士と言った方が納得でき、こちらは美少女と言うよりは美人さんだ。
3人目は黒髪ロングでこちらは前髪で目元が見えず、何となくホラー映画の彼女を連想させる。
何ともそれぞれ個性的だ。
金髪さんと前髪さんは恐らく同世代っぽい。
だけども、赤髪さんは絶対年上だ。だって美女ですもん。
「皆様、お初にお目に掛かります。私がラクトル・アドバンスです。本日は態々足を運んで下さりありがたく思います。どうぞよろしく」
三十代になってもまだまだイケメンな父上のご挨拶。
あ~、前髪さんの耳が赤くなっとるやないか。
おい、こら、縁談早速一つ潰しに掛かっとるのが父親ってなんやねん!
「それで、こちらがうちのアシュラードです。」
そう言って挨拶を促される。
遂に来た。ここはビシッと決めてみせる!
「初めまして。アシュラードです。歳は13です。よろしくお願いします」
無難過ぎる?
馬鹿野郎。変に奇を衒って滑りでもしたらそれこそ駄々潰れだろうよ。
ここは焦らずじっくりといくぜぇ。
「それでは、ラミノーレ家のご令嬢からお願いしたいが、よろしいか?」
父上、偉ぶり過ぎず、かと言ってへりくだり過ぎず、塩梅に注意しながら頑張っております。
頑張れ、父上。我が輩の為に!
「承りましたわ」と金髪美少女さんが席を立った。
その洗練された動作を見れば彼女が淑女としてのマナーを心得ていることが私にも十分に分かります。
「初めまして、ご当主様、アシュラード様。私、ラミノーレ伯爵家が一女アンジェラです。今日という日を楽しみにしていました。どうぞよしなに」
スカートを摘まんでの軽い一礼。
見事に貴族女子って感じですな。
そんでもってふわふわ~ってしてて女の子って感じも忘れてません。
「ありがとう。では次はブックワン家のご令嬢にお願いしたい」
「ひゃ、ひゃいい!」
前髪っ子が慌てて立ち上がった。
見事な慌てっぷりにアッシュ君ほっこりだよ。
「あ、あのっ、わ、わた、わたひゅ」
ああ、噛み噛みだ。
前髪で表情は分かりにくいけど、これだけやらかせばこの娘がどんな子か分かる。
黒髪前髪っ子!しかも恥ずかしがり屋!
ゴホンゴホン
まさか、祖国日本でもレッドデータ入りが危険視される希少な存在がこちらで見られるとは思いもよらず。いやはや、大変失礼致しました。
「ブックワンのご令嬢、ゆっくりで大丈夫ですから落ち着いて」
父上の口調も自然と優しくなってしまいます。
うむ、前髪もじっ子の魅力は異なる世界でも健在な様だ。
さりげなくウチの控えのメイドさんがコップに入った水を渡している。
それにも戸惑う感じがこれまた小動物っぽくて可愛らしい。
「ん、コクッコクッ。ぷは。あ、ありがとうござい、ます。し、失礼、しました」
メイドさんにコップを返し、それからこちらに向かって詫びを入れる。
良いんですよ、落ち着くまでいくらでも待ちますとも。
「わ、わたくしはミ、ミリカ・ブックワンです。男爵様、アシュラード様、ほ、ほんにゅつはよろしゅくおにゃがいしましゅ」
はい、どうもありがとう。
おいちゃんは満足です。
ミリカ嬢はまた顔を赤く染めて席に着いてしまいました。
「ありがとう、ミリカ嬢。それでは待たせてしまったが、ラスワン家のご令嬢、よろしくお願いする」
「・・・・・・」ガタッ
最後は赤髪美人さん。
無言の態度には不機嫌さがばっちりです。
今回の縁談に乗り気じゃないのかもしれんですな。
ぼくちん残念。
「ラスワン家が嗣子、フローレット・ラスワン。ご期待には沿えないとは思うが今日はよろしくお願いしたい」
そう言ってサッと席に着いてしまわれました。
ここまで言われてしまってはもう、ぼくちゃんトホホですわ。
縁談に来てるのに嗣子って。
断る気満々じゃないっすか!
しょっきんぐ!!
付き添いできたメイドさんは真っ青な顔してるし、でも執事さんらしきお爺さんは無表情だな、知ってたのか?
「あ、ありがとう。それではここで一旦休憩とする。そうだな、半刻後にまた知らせを出すので各人、短くはあるが休んでくれ」
父上、よく頑張った。
息子はその頑張り見ていますからね。
◇◇◇
「どうしよう」
「どうしますかねぇ~」
「どうにかしてもらわないと一番困るのは僕ですから」
父上が頭を抱え、マックスは所詮他人事、勿論アッシュ君も困っております。
原因は当然ラスワン家のご令嬢フローレットさん。
「父上、ラスワン男爵からは何か前以て言われていなかったのですか?」
「えっと、少しばかり気が強いとは聞いていたけど」
いや、あれは少しばかりではないだろうよ。
「なんか嗣子とか言ってたらしいっすけど、ラスワン家の方はどうなんです?」
「確かにそれは気になります。父上」
本人の言を虚言と取るのは簡単だが、もし本当に後継者だった場合、当然この話は流れるし、その様な者をこの場に送ったラスワン家とあてがわれたアドバンス家との間には溝が生まれることは確実。
僕としては美人さんだし、今の所悪口言われてないから構わないんですけど、貴族と言う括りにいる中ではこの手の契約破りはご法度なので許す訳にはいかないのです。
まぁ、本当に彼女が跡継ぎならばですが。
「それなんだけど、はっきりと跡継ぎが決まってないみたいなんだよね。あと、ラスワン家には男児、彼女の弟が一人いるらしいし、断定は出来ないけどその辺りで何かあるのかもしれないね」
なるほど。
色々あるんですねぇ。
「それにしても、そんなごたついてる中で娘送って来るってのはどうなんですかねぇ」
マックスが不満気だ。
もしかして僕ちゃんの為に義憤を覚えて
「これで坊ちゃんの婚約者候補が早くも2人になっちまうじゃねぇっすか。唯でさえ少ない好機だってのに、全く」
うん、そんな訳ないですよね~
まぁ、マックスですもんね。
「とりあえずこの事は向こうにも伝えておくとして、今回の所は一先ず置いておこう。この場で揉めるのも他の家に悪いしね」
「僕は父上に従います」
「ご領主が言うんなら」
フローレット嬢については保留となった。
「で、坊ちゃんは残りの2人どっちが良いんすか?」
野次馬根性丸出しのこの男は本当に失礼極まりない。
「いや、軽く自己紹介しただけだし」
「それでも何かしら分かった事はあるでしょう?顔とか雰囲気とか体つきとか」
ホントゲスな質問だな、おい。
これは子持ちの男として駄目じゃなかろうか。
父上も何か言ってやってくださいよ。
「そうだね、マックスのは少し言い過ぎだけど、僕も聞いておきたいかな。アッシュは彼女たちを見てどんなことを思ったのか」
えー、父上までですかぁ。
しゃーないですな。
「そうですね。ラミノーレ家のご令嬢は正に貴族の女子だなと思いました。礼儀作法もしっかりしていましたし。ただ、何故彼女の様なご令嬢が私の所へ来たのかちょっと気になります。」
貴族令嬢としては3人の中で恐らく一番模範的な人物ではあるが、今一ピンとこないのです。
やっぱり元日本人だからでしょうかね?
父上は黙って聞いてくれています。
そんでマックスは視線で黙らせます。一々茶々に付き合ってられんのです。
「次にブックワンのご令嬢ですが、現時点では一番好感が持てます。気が急いて焦りやすい性格の様ですが、優しい心持ちの方ではないかと」
多分だけど、彼女の様なタイプは貴族のお坊ちゃまには好まれないんだろうな。
お世辞にも煌びやかって感じでもないし、あの気の小さそうな部分もどちらかと言うとマイナス要素だろうし。
ま、僕ちゃんには関係ないけどね。
それに前髪っ子だしな。
あ、決して贔屓では御座いませんからね?
「アシュラード様、ラスワン家のご令嬢は如何様に映りましたか?」
これまで沈黙を貫いていたカゲゾウが声を上げた。
「え、あの赤髪さん?」
「赤髪さんって、確かにその通りだけどさ」
うっかりニックネームで呼んじゃったよ、てへ。父上ごめんなさい。
「カゲゾウさんよ、そのご令嬢がアドバンス家をコケにしてんですぜ?問答無用で候補からは外すべきじゃねぇか?」
マックス実は怒っていた!
まさかの主家愛に驚愕です!!
「それでも、ご令嬢が後継者かどうかはっきりとはしていない訳ですから、今すぐ選択肢から外すのは早計ではないでしょうか」
「む、確かにそうだけどよ、でも、向こうから申し込んできた縁談をその令嬢が反故にしようとしたのは紛れもない事実だぜ?」
それも又正論ですな。
「それについては、ラスワン家の方にしっかりと注意しておくだけで十分でしょう。子の責は親が負うべきです。それに今回の件でラスワン家はアドバンス家に頭が上がらなくなりますからね」
Oh
ラスワン男爵、ドンマイ。うちのスーパー忍者は脅す気です。出来れば逃げる事をお勧めします。
マックスもそれならと納得の様だ。
ん?何カゲゾウ?ああ、彼女の印象だったね。
「えーっと、まぁ、己の中に筋の通った方なのは分かりました。それと立ち振る舞いを見るに鍛えてもいそうでしたね」
「うへぇ、気が強い上に武闘派ですかい」
あと美人だけどね。
「でも、そういう人に限って可愛い物が好きで、可愛らしい性格してるんだよ?」
「坊ちゃんは女性に夢を見過ぎですぜ?」
うるさい。
夢ぐらい自由に見させろっつーの。
「はいはい、兎に角アッシュはその印象に固執せず、そして惑わされずに3人と接するように。観察は僕らの方でもやるからね」
頼んだ、父上!
こうして休憩時間は過ぎて行った。
◇◇◇
「ご領主様、それと気になる報せが」
皆が退出した後わざわざ残ったカゲゾウがラクトルにとある疑念を伝える。
これはあくまでも予想である為断言は出来ない。
けれど、これが事実なら即刻今回のお見合いから叩き出すべきお家が出て来る、そこまでの問題になりかねない。
「へえ・・・、カゲゾウはどう見てるの?私見は排除して」
「十分あり得るのではないかと」
その答えを聞き、これまでにない程に美しくそして冷たい顔になるアドバンス男爵。
いくら愛妻家で親馬鹿と言えど彼も又一端の貴族であった。
「カゲゾウ、よろしく頼むよ」
「承知致しました」
その頃、アシュラードはマックスとお菓子を奪い合っていた。
「おいマックス、それは僕のだぞ!」
「そうケチケチしなさんなよ、坊ちゃん。坊ちゃんには春がすぐそこまで来てるんですぜ?」
「うっ、まぁ、そうだな・・・ってそれとこれとは関係ないだろ!寄越せ!」
「ヤなこった!パクッ」
「あ~!!」
そこからはいつもの追いかけっこが、そして捕まったマックスへの集中攻撃が行われた。
親の心子知らず
この出来事を後から聞いたラクトルはそう思った。
マックスは基本おちゃらけですが、主家思いな面も持ち合わせてます。
主人公リスペクトが少ないのは気のせいに違いない(強迫)!!




