第58話
活動報告にてお知らせがあります。
まぁ、いつもの如くのアレで御座います。
とりあえず、どうじょ(/・ω・)/
「それじゃあ、世話になったね」
イケメンがイケメンスマイルでイケメンオーラで後光を発しながらイケメンに握手を求めて来る。
何を言っているか分からないと思うが、俺もよく分からない。
分かっている事と言えば、グリンドから来た方々がお帰りになるという事だけ。
「いえ、お二方に来ていただけて、こちらこそ光栄で御座いました」
「冷たいなぁ、僕と君の仲じゃないか」
おいやめろ。
その言い方は大きく誤解を生むだろうが。
後ろには姦しいメイド達が
「え!?あのお二方って」
「なるほど、女の噂がないと思っていたけどそう言う事だったのね!」
「まさかの略奪愛!?」
『キャーー!!』
おい、誰が誰から誰を奪ったって?
ああ、もうええです。
好き勝手して下さい。ぼかぁもう知りません。
あ、リック様これ移動中のお食事にどうぞ。それとゴニョゴニョゴニョ。
「え、なにそれ!凄い面白そうじゃないか!是非とも協力させてもらうよ!」
ああ、やっぱりコイツもぺの事嫌いなんだなぁ
その様子が見れないのは残念だが、この俺の熱い思いは君に託すぜ!
そんなこんなでリック達は帰って行った。
ぺは最後までムスッとして偉そうだった。
「終わったぁ~」
「いやぁ、疲れたね」
父上も肩の荷が降りた様でホッとしたご様子。
ぺの相手は大変だったでしょう。知ったこっちゃないけども。
「兄様~」
「兄さま~」
お、天使が俺を呼んでいる。
急がねばっ!
「そう言えばアッシュがベルフェル卿に渡してたのって一体なんだったんだろう?」
父ラクトルはふとそんなことが気に掛かった。
◇◇◇
「あ~楽しかったな~、今度はお役目とか無しで行きたいな~」
「・・・・・・」
リックの大きな独り言にペジュミアンは全く反応しない。
リック自身もそんなペジュミアンの事を全く気にしていない。
馬車内は非常に重苦しい雰囲気に包まれている。
供に乗車している2人の付き人は内心ヒヤヒヤしているのだが、当人達は知らん振りを決め込んでいる。
「あっ、早速お土産いただこ~っと」
大喰らいなイケメンは早くも知己から貰った土産に手を付けようとしていた。
食べ物と戦闘においては堪え性のない青年らしいと言えばらしいのだが。
「おっ、クッキーじゃないか! いっただっきま~す」
バリボリと貪り始めるリック。
勿論、これはアシュラードの厚意からなので当然ペジュミアンにはない。
「・・・・・・」
気にしていない素振りのペジュミアンだが、男爵領に滞在している間に彼もまた美食の虜となっていた。
そんな彼がすぐ近くで美味しそうなものを見せられている。
「ゴホンッ」
彼は堪え性のない人物である。
しかし、素直に分けてくれとも言えない。
そんな彼は咳でリックの気を引こうとする。
「おいしいな~(バリバリ)甘~い(バリバリ)」
しかし、その標的は彼の思いを知ってか知らずかバクバクと食べ続ける。
その勢いは増すばかりである。
「おい!リック・フェルベル!その菓子を私にも分けろ!」
目に見えて減っていく美食に我慢できずペジュミアンは声を上げる。
偉そうなのは変わらずである。
「え~、でもこれは僕が男爵家の長男殿からご厚意で頂いたものですからね~僕が食べるのが礼儀じゃないですかね~」
欠食イケメンは目の前の男の要望を受け入れる気は更々なさそうだ。
「くっ」
そう言われてしまっては返事の仕様がないペジュミアン。
彼は自尊心が大きく独善的だが決して愚かな人間ではないのである。
それでも普段の態度が態度なので彼は基本、人には避けられるか嫌われている。
リックはペジュミアンの事を避けながら嫌うと言うハイブリット型の対ペジュミアン兵器なのである。
「けど、ど~しても食べたいって言うなら分けてあげなくもないですけど。どうします?」
整った顔で放つ爽やかスマイル。
大抵の異性なら魅了してしまうであろうその笑顔には何処か仄暗く加虐性を伴っている。
しかし、美味なる甘味に意識を取られている男はそれに気付くことは無い。
「わけr・・・・いや、分けてくれ」
葛藤を抑え素直にお願いする辺り、決して悪い人物ではないのであろう。
一方、お願いされた人物と言えば、
(ペジュミアン卿が素直に頼んで来るとは・・・僕のお菓子が!!)
安定の食い意地であった。
しかし、本人にとっては死活問題である。
如何にして自分が食べる分を確保しようかと頭を回転させる。
そして、ふと別れ際に年下の知己と交わした会話を思い出す。
(そう言えば・・・)
「そうまで言われては仕方がありませんね。それでは、ペジュミアン卿にはこちらをお譲りします」
そう言って青年は一つの袋を手渡す。
その中身は生地が様々な色をしたクッキーであった。
「これは・・・」
絶句するペジュミアン。
これまで様々な料理を食して来た彼ではあるが、ここまで色鮮やかな物は経験したことがなく、その顔には難色の色が見て取れた。
「あれ、いりませんか?いらないなら僕が食べますけど」
「い、いや、頂こう」
年下の同僚にせっつかれて手に取ったのは少し橙色がかった一枚。
男は恐る恐る口に入れ、咀嚼する。
「っ!!」
男の口の中に広がったのは甘味。
だが、それは決して砂糖の様な甘さではなく、素材の味の甘さと言った所か。
「この味は・・・パンプキンか?」
そう、生地には南瓜が練り込まれていた。
南瓜自体が甘いので、砂糖も控えめの一品となっている。
「次は、これだ」
そう言って手に取ったのは所々に黒っぽい緑色が散りばめられたクッキー。
「これはホーレンの苦み、だが生地の甘さと相俟って絶妙な味わいだ!」
男は次々にクッキーなる物を口に放り込んで行く。
そこには九天騎士たる威厳も特権階級たる傲慢もなかった。
そして最後に残ったのは赤みがかった一枚だけとなった。
ペジュミアンは最後の一枚を惜しく思いつつ、内心どの様な味なのかワクワクしながら口に入れた。
「・・・むごっ!」
最初は生地の甘味を感じたがすぐにそれを打ち消す辛みが舌を焼く。
「こっ、この辛さっ、それより水、水を」
付き人は慌てて水を手渡す。
ペジュミアンはそれを一気に飲み干す。
ある程度緩和されはしたがそれでも舌に残る熱はかなりのもの。
「くくく」
そんな中、笑いを必死に堪えようとしている人物が1人。
「リック・フェルベル、貴様ぁ」
勿論リックである。
「あ~ごめんなさい、ペジュミアン卿。そのクッキーは試作品で、当たりも多いけどもしかしたらはずれも入ってるって、アドバンス家の長男殿に言われてたの忘れてましたよ」
勿論ワザとである。
アシュラードとリック、この2人はペジュミアンと言う男にそれなりに思う所があった。
アシュラードは尊大な態度にイライラを覚え、リックに至っては常日頃から辟易していた。
そして、国家の顔に問題とならない程度で何かかましたいと考えていたアシュラードは思い付いた。
それが試作品と銘打って激辛料理を食べさせること。
しかし、態度の大きいペジュミアンに辛いと分かっている料理を試食してもらうのは難しいし、食べても気に食わなかった場合、大事にされても困る。
だったら、責任を問おうにも問えない状況で食べてもらうしかない。
それが土産、それもリック宛としたものを食べさせることであった。
滞在期間中、ペジュミアンがフロンテルムの料理に目が無くなっていたことは空忍や街の人からの情報で分かっていた為、唯一の心配はリックの協力だけだった。
そして、そのリックが乗り気だったので今回の計画が実行された。
「そんな屁理屈が「だって事実ですから。まぁ、僕が言い忘れたのが問題でしたね。それについてはすみませんでした」
先手を打って謝罪する。
誠意の有無は兎も角こう言われてしまえば、土産を分けて貰っただけのペジュミアンはそれ以上怒鳴ることは出来ない。何しろ確認もせず食べたのは自分なのだから。
「ぐぬぬ」
歯噛みするペジュミアン。
アホーアホーと遠くの空では鳥が鳴いていたのは幻聴ではなかったかもしれない。




