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第52話

 かなり粗いと思いますが、堪忍して下され。


 それでは、どうじょ(/・ω・)/



 「いいオルトー?私たちはこれから冒険に行くわよ」


 「ぼうけん?姉さま、ぼうけんってなんですか?」


 「冒険は・・・・・冒険よ!」


 答えになっていないとは言ってはならない。彼女はまだ10にもならない子どもなのだ。


 アドバンス男爵領フロンテルムにて2人の姉弟が、いや姉が暇を持て余していた。

 父は政務、母は新作料理の開発、既出料理の改良と忙しく、いつも構ってくれる兄は王都へ出掛けている。活発な少女は退屈だったのだ。弟は兄が作った絵本なるもの読んでいたのだが、そんなのお構いなしである。


 「お出かけするの?」


 「そうよ!家の外に出て色々な物を見るの!」


 姉は外に出る気満々である。


 「それじゃあ、父さまと母さまに知らせなきゃ「ダメよ!」


 姉は弟の提案を即座に却下する。

 弟の方は何で?と言った様子である。


 「いい?冒険って言うのは他の人にバレてはいけないのよ?だから、これはお父様にもお母様にも内緒なの!」


 姉が冒険をしようと思った理由、これも兄の手がけた絵本に由来する。

 そのストーリーは1人の少女がペットの犬と自宅の裏山で冒険するというストーリーで領内の子ども達にも大人気の物語であった。

 この物語も当然アシュラードが元の世界で読んだ絵本や童話の記憶を用いて作り出したものである。


 そんな物語に妹のイリスは影響を受けたのだ。


 「でも「ん?」・・・」


 弟いう生き物は不思議なことに姉には勝てないように出来ている。

 真面目な弟は仕方なく受け入れる。


 「分かればいいのよ」


 姉は自分がしっかりしていると思っているが、弟の方がしっかりしていると言うのがアドバンス家の者達全員一致の見解である。


 そして2人は静かに屋敷を出る。

 侍女や警備の兵に見つからない様ゆっくりと。


 しかし、考えてみて欲しい。

 国内で五指には入るであろう裕福な男爵家。そこに勤める優秀な者達が、10歳にも満たぬ子ども2人の行動に気付かないものだろうか?


 答えは否、当然気付いている。気付いた上で見逃しているのだ。勿論職務怠慢などではない。2人の近くには空忍や兵士が気付かれないようにこっそり付いているのだ。

 そして更には、


 「あ、ラルフ!」

 「ラルフー!」


 2人は大好きな家族の大きな体に飛び込む。

 この、領内最強の存在が付いている。

 だったら、余程のことが起きない限り、好きにさせよう。これが領主と奥方の方針だった。


 「ラルフも付いて来てくれるの?」


 オルトーの質問にこくりと頷く巨狼。

 彼も大好きな主に会えず寂しいのかもしれない。


 「じゃあ、行くわよ!」


 ラルフの背に乗り、イリスが号令を出す。

 最早、隠れるつもりなしのよう、と言うより隠れること忘れている。

 その後ろで、オルトーが高くなった視線に目を輝かせてあちこちキョロキョロしている。


 2人と1匹は道を進む。

 決して森や山に入らない様ラルフは道を選んで進んで行く。

 先々で出会う住民たちにはお菓子を貰いニコニコな2人であった。


 「って、違~う!これは冒険じゃない!ラルフ、人の居ない所に連れてって!」


 見守る護衛達は隠れて溜息をついた。

 

 (なぁ、お嬢様ああ言ってるけど)

 (いくら、ラルフが強いったって、危ないだろ)

 (でも、今から出て行ってもなぁ、お嬢様に泣かれたら敵わねぇって)


 被雇用者は色々と苦労しているのである。

 しかし、彼等の不安はすぐに杞憂に終わる。


 (危険、駄目、主、言ってた)


 ラルフはしっかりとイリスに注意する。

 出掛ける前、アシュラードは活発過ぎるイリスのお守をラルフに頼んでいた。

 危ない事をしようとしたら止めてやって欲しいと。

 勿論、ラルフは承諾した。大好きな主のお願いだ。断る筈もない。


 「え~、でもぉ~」


 駄々をこねるイリス。だが、生憎ラルフには通用しない。

 これがアシュラードだったら「仕方ないなぁ」と言ってイリスの我が儘を許していただろうが、ラルフは基本アシュラードの指示しか聴かないのだ。


 (言う事、聴かない、駄目)


 「むぅぅ」

 「姉さま、ラルフの言う通りだよ」


 年下の弟に宥められる姉。

 残念さ具合は兄に匹敵しそうである。

 この事実を知れば、今現在も続いている縁談申し込みが少なくとも半分は消えてなくなるだろう。

 

 (お、ラルフが諫めたっぽいぞ)

 (ホントにラルフって話せるんだな、俺初めて見た)


 護衛達駄弁らずに仕事しろ。

 アシュラードが見ていたら喝を飛ばしたに違いない。


 その後、2人と1匹はスモー祭壇に立ち寄った。

 土俵上では大の大人達が、その傍には小さめの土俵があり、こちらも子ども達が相撲を取っている。

 この相撲文化、男爵領に完全に根付きつつある。


 「やっぱりすごい・・・」

 「すごいです・・・」


 幼い2人は大人の迫力ある相撲に目を奪われている。

 すると、イリスたちに気が付いた子どもが2人を誘いに来たのである。


 「イリス~、オルト~、相撲やろ~ぜ~」

 

 2人は少し迷ったが、それでも遊びたい気持ちには逆らえず、子供たちの元へ走って行った。

 ラルフはそれを只々見守っていた。


 イリスやオルトーは偉ぶるでもなく、領民の子ども達は変に気を遣うでもなく、そこには歳の近い子ども達が楽しく遊ぶ姿があった。

 結局、地球の時間にして1時間ほどイリスたちは遊んでいた。

 子ども達は顔から足先まで土まみれになっていた。

 互いが互いの土だらけの顔を笑う。そこに貴族も平民もなかった。


 それから一同はスモー祭壇を後にした。

 続いてやって来たのは食い倒れ通り。フロンテルムで一番の観光地だ。

 そこら中から美味しそうな香りが漂って来る。


 ぎゅるるるる~


 「お腹空いたね?」

 「うん」


 育ち盛りの2人は困ってしまった。

 彼女たちはお金を持っていないのだ。

 因みにラルフは付いて来ておらず、近くに護衛達がスタンバイしている。

 ここでもラルフの存在は騒動を呼び寄せかねないとされ、通りの前で2人を待っているのだ。

 露店売りの女性がそんな2人に気付いて声を掛けて来た。


 「どうしたんだい、ってまぁ、元気に汚しちゃって。お腹空いただろう?これ、食べな?」


 そう言って2人に差し出されたのは串焼きだった。

 焼きたての肉からは白い湯気が立ち、タレで味付けされたであろう肉からは甘く、そして食欲をそそる匂いが幼い2人の嗅覚を刺激する。


 「え!いいの!?」


 「姉さま、僕たちお金ないよ?」


 「あっ」


 その提案に目を輝かせたイリスであったが、オルトーの冷静な判断にこれまた一瞬にしてシュンとなってしまう。その姿に女性はカッカッカと気持ちの良い笑い声を上げる。


 「お金は良いよ。アンタたちに2本奢った程度でうちゃ商売に行き詰ったりしないよ。ほら、子どもが変に遠慮するんじゃないよ!」


 2人は顔を見合わせるが、やはり空腹には抗えないらしくおずおずと串焼きを女性から貰う。


 「あ、ありがとう」

 「ありがとうございます」


 「気にすんじゃないよ、さ、早く食べな!肉は焼き立てが一番だよ!」


 「うん、いただきます!ハフッ」

 「い、いただきます。ハム」


 串の先に刺さっている肉を小動物の様にはむはむと咀嚼する2人の姿に周りの大人達の目が温かいものになる。そんな時だった。


 「へぇ~、じゃあ俺らにも奢ってくれよ」


 そこには如何にも荒くれ者な風貌な男達がニヤニヤしながら立っていた。

 武器を下げている所を見ると冒険者だろう。


 「はっ、大の大人が何言ってんだい!」


 露店の女性は誰にでもこんな感じの様だ。

 全く以て引く気はなさそうである。それが癇に障ったのだろうか、そのうちの一人が脅しをかける。


 「おい、チョーシに乗んなよ?俺たちはなぁCランクパーティの《黒の暴狼》だぞ?てめぇみてぇなクソアマ一瞬でヤレんだかんな?」


 「ふん、見ない顔だね。もしかしてフロンテルムは初めてかい?Cランクだろうがなんだろうが、ここで騒ぎ起して。アンタらの方こそ唯で済むとは思わないことだね」


 「ああ!?こんなちんけな男爵領如きで問題起こしても俺らは痛くも痒くもねぇんだよ、ヴァ―カ!」


 この者達はシルフェウス王国内のとある貴族とビジネスパートナーとしての繋がりがある。爵位は男爵より上となのは間違いない。だからこそ男爵領内でこの様な事が言えるのだ。


 「謝って!!」


 「ああん?」


 男が横を向くとそこには土まみれの少女と少年がいた。

 その顔には怒りが見える。


 「なんだ、クソガキ?」


 「お父様は領の為にいっぱい、いっぱい頑張ってるもん!それにこの領はちんけじゃないもん!皆笑ってるもん!」

 「そうです!ここは凄くいいところです!」


 恐らく兄弟であろう子どもたちの言葉から、察しの良い者はこの2人がどのような存在か瞬時に把握する。


 「うっせぇんだよっ!」


 男は足で蹴る真似をして2人を軽く威嚇する。

 

 「ひっ!」

 「わっ!」


 子ども2人は驚いて尻餅をついてしまう。

 それを男達は嘲笑する。


 「ぎゃははは、何だよ。ほら、俺は何にもしてねぇぞ~?」


 脅した男は足をぷらぷら揺らし、ふざけた態度を取る。

 イリスの瞳には涙が見え、オルトーも恐怖に唇をぎゅっと閉めて耐えている。


 「なんだぁ、泣いてんのかよ?だっせぇn「おい」・・あ?」


 振り返るとそこには水色の髪の少年が立っていた。

 

 「お前ら、その子たちに何をした」


 その声に抑揚はない。全く感情が篭っていないのだ。

 目にしても前髪に隠されどのような感情を持っているのか読み取れない。

 だが、その身なりから貴族の子息であることは窺える。


 「あ、ああ、ちょっと躾がなってないんで教育をね。なぁ、そうだろ!!」


 男の仲間たちは口を揃えてそうだと言う。


 「そうか・・・イリス!オルトー!こいつらの言ってることは本当か!!」


 「違うの!この人達が露店のおばちゃんを脅したの。それでうちのことを馬鹿にしたの!ちんけな領だって!」

 「姉さまの言う通りです!」


 周囲のギャラリーもそうだそうだ!と声をあげる。


 「なっ、クソガキてめぇr「黙れ」なっ!」


 青年のその一言に男だけでなく周囲が黙らされる。

 

 「俺の名はアシュラード・アドバンス。そのちんけな領地の次期後継者さ。お前たちを領内の治安壊乱の容疑で連行する。大人しくお縄に着けと言っておく」


 「んな、ざっけんな!横暴だ!俺らは何もしてねぇぞ!」


 男達は武器を抜こうとする。


 「まだ、分からないのか?お前らが躾けた子たちはなアドバンス家の長女イリス、次男オルトー。つまり俺の大事な妹弟だ。ここまで言えば分かるか?貴族に暴力行為、またはそれに準ずる行為をした者がどうなるか、分かってるよな?」


 「うるせぇぇぇぇぇ!」


 気が動転した男は剣を抜き少年に襲い掛かる。


 「抜刀を確認、これより鎮圧を開始する。お前ら・・・・・・1億倍返しじゃああああああああああ」


 少年の魔力が体から爆発的と言って良い程に溢れ始める。

 耐性の無い者達は立ち眩みを起こす。

 それだけで、この場に居合わせた腕利きは理解する。

 「竜の逆鱗に触れるとは正にこれか」と



 少年から溢れ出ていた膨大な魔力は次第に彼の体に収められて行き最終的に周囲にあった筈の魔力の波は消えてしまった。


 「うらああああ!!」


 「お前はちょっと待ってろ。アースバインド×10」


 斬りかかった男の体の自由は一瞬にして失われる。

 そこには一体の土塊が出来上がっていた。


 「まずは、お前らからだ。どうする?俺を倒して逃げるか?それとも無様に土下座して許しを請うか?」


 少年の笑みは正に悪魔の笑みと言えただろう。そして煽りと合わせて絶大な効果をもたらした。


 「るっせぇぇ、こっちはまだ3人いんだ!やるぞ!」

 「お、おう!」

 「そ、そうだな!」


 残りの3人は徹底抗戦を決めたらしい。


 「そうこなくちゃなぁ。お前らにもイリスやオルトーが味わった恐怖を見せてやるよ」


 発言が悪役っぽいのは気にしてはいけない。

 周囲の者達も薄々感じてはいるが誰も何も言わないのだ。


 「味わえ、真空チルド(子どもの苦しみ)


 3人の男達の顔が何かに覆われる。

 途端に3人は息苦しくなる。

 息を吸うが全く以て息苦しさは変わらず、寧ろ苦しさは増して行く一方だ。


 「な、なにが!」

 「はぁはぁ」

 「くる、し、ぃ」


 何も知らない人が見ていたら、急に苦しみだしたように見えるだろう。

 勿論これはアシュラードの魔法である。

 技自体は単純で、対象の顔を空間魔法で覆う。それだけなのだが、問題は空間内の空気量まで彼が調整していることである。

 人間はこの世界でも生命活動の為に酸素を必要としている。

 極悪なアシュラードはそれを利用してじわじわと相手の動き、そして意識を奪っているのである。

 そして低酸素に耐えられなくなった男達はばたりと倒れて行き、3人の鎮圧が完了した。


 「さて、喜べ。お前の番だぞ?」


 くるりと振り向いた少年の顔がこの時どうだったのか知る者は全く何も口にしない。

 そして、男は気絶していた。


 「あれ?」


 「やりすぎじゃ、馬鹿者」


 スパーン!


 「全く、急いで来てみれば、ダンジョウ殿の言う通りだ、馬鹿弟子が」


 ガツン!


 「いってぇぇぇぇぇ!!」


 少年はいつの間にかその場にいた老人と竜人に折檻を喰らっていた。

 そのおかげか、少し場の空気が緩んだ。


 「兄様!!」

 「兄さま!!」


 ボスッと2つの影が少年に飛び込んでくる。


 「イリス、オルトーごめんな?もうちょっと早く帰れてれば」


 「大丈夫!!イリス平気なの!」

 「ぼ、ぼくもだいじょうぶです!」


 そっか~偉いなぁ、凄いなぁとデレデレの兄。

 先程までの悪鬼の様な威圧感は全く感じさせない。


 「そうだ!兄様お帰りなさい」

 「お帰りなさい」


 「ああ、ただいま」


 少年の顔はデレデレのドロドロに崩れてしまった。

 それから3人は仲良く手をつないで男爵邸に戻って行った。


 その後領内ではこの件について禁忌の事件として密かに語られることとなり、男爵領を初めて訪れる者には訓話として必ず語られるようになる。

 これは後の世の事だが、男爵領が存在していた地域では幼子を虐めると青い鬼がやって来て虐めた者をボコボコにして連れ去るという何とも言い難い逸話が代々語り継がれていたと言う。






 「なぁ、こいつらって俺らの仕事か?」

 「そうなるよなぁ」

 「ちゃっちゃとやろうぜ?」


 そう言って、伸された冒険者達を回収する護衛さん達であった。

 この世界、特別手当など存在せず正に無償の奉仕であった。




 その翌日、暴走した罰として老人と竜人に扱かれる1人の少年の姿があった。

 そしてその傍には兄を応援する妹と弟もあったそうな。





 

 

 イリスとオルトーが子ども達に名前を呼ばれる場面ですが、あれは普通では考えられない事です。アドバンス家だから許されている事です。そこら辺ちょっとガバガバ過ぎじゃないか?と思われるかもしれませんが、そういう彼等はその様な家柄なのだとご理解下さい。


 あと、主人公キレてますが、あれでも抑えています。最初は首チョンパを考えていましたが、妹達のトラウマになってはいけないと本人は比較的穏便に事を収めたつもりです。

 主人公が何故こんなにも兄馬鹿なのかは何れ書ければなと思ってます。


 とりあえず、補足としては以上です。

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