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第51話

 がばしょ!!

 当時はどういう意味か分からなかった。

 でもそんなの関係ねぇ!


 そいでは張り切ってどうじょ(/・ω・)/



 「あれが・・・」

 「ほぉ・・・・」

 「いや、・・・」


 どうも、ヒソヒソされてるアシュラード君でげす。

 拙者、今ぱーちーにお呼ばれしております。

 勿論、王城にて交流戦の打ち上げです。え、なんで?


 このぱーちーは代表選手とその親又はお付きの者、数名の教員、そしてお偉い人達がお集まりになって開かれているのですが、何故か僕ちゃんが呼ばれてしまった訳でして。

 あ、僕ちゃんにはカゲゾウが付き添い出来てもらってます。


 「うげぇ~」


 「アシュラード様、今は踏ん張って下さい」


 そうは言われましても拙者、こういうパーチ―とか正直御免被りたいのです。

 ヒソヒソ陰で何か言われるのも、結構来ますし。


 「おい・・・」

 「チッ」

 「大したこと・・・」


 学生さん方も随分と歓迎して下さって、誠にありがとうございます。

 違う?良いんだよ。好きに言ってくれって感じ。こっちも勝手に都合よく解釈させてもらいますから。


 現在ぱーち―は恙なく行われてます。

 まぁ、スクールカースト的なグループ分けは当然ありますけども。

 僕ちゃんに話し掛けて来るのは大体2グループ。

 1つはえらっそうなお貴族様と貴族の代表学生。

 もう1つは、男爵家とのご縁を狙って擦り寄ってくる人たち。


 うざい!こっち来んな!とは言えませんからね。

 必死に顔に笑みを張り付けひらりひらりと蝶のように舞い、丁寧に右から左へ受け流します。

 つかさっきからイケメンがこっちを見てるんだがあれ誰?


 「あれが国内二大派閥の片翼パトリオット公爵ですよ」


 ほ~、あの人がそうなの。つか若くね?確か40ぐらいはいってる筈だよね?

 美魔女ならぬ美魔男びまお?ってか。


 

 「国王陛下並びに御家族がいらっしゃいます!!」


 その言葉に会場の和やかだった空気が一変する。

 会場が静寂に包まれると護衛の兵士を連れて国王とその家族がご入場です。

 ラスカルが着飾ってて王子なんだな~と改めて実感しました。


 それからは大変でした。

 国王に呼び出され、常に国王の隣を陣取るふんわか王妃様とお話しし、相変わらずな殿荷に、見た目ほんわかしてるけど滲み出る我儘さ半端ねぇシンプリー王女との挨拶。で、あのうつけのことはスルーして、グレイス王女はとても可愛らしく良い娘さんでした。おじちゃん奮発して水魔法の簡単なショーや空間魔法マジックまで見せちゃいました。やっぱり純粋な可愛さって正義ですね。うつけ野郎はどうでも良いけどあの娘がピンチの時は駆け付けようと心に誓ったのです。


 宰相さんや公爵さんはこっちをちょくちょく見てたけど、何とか耐え抜きました。ホメテ?

 公爵は僕ちゃんより国王の方を見てた気がするんだけど、そんな敵意は感じなかった。気のせいか?


 もう面倒事は勘弁だから、明日には王都を出よう。うん、そうしよう。



 アシュラードは貴族との関わりにいい加減限界であった。

 

 


 〇 ラスカル 〇



 「ラスカルよ、あのアドバンス家の倅、確と引き留めておくが良い」


 父上もやはりあやつの特異さに気付いたようだ。

 まぁ、実際あの戦いと弁論を観たら愚物でも理解できるだろうしな。


 「はい、それは勿論です。ですが、それは兄上や姉上にも仰っているのですか?」


 ここで、あの馬鹿共にちょっかいを出されては、本当にクーデターでもあの者は起し兼ねん。

 変に行動力があるからなあやつは。


 「いや、あの2人には何も言っておらん。どちらもあの者を好いてはいないようだしな」


 好き嫌いで優秀な者を遠ざけるなど、と父上は嘆いていらっしゃる。

 そしてこの数年、父上と話をするようになって分かったことがある。

 父上は我を含む4人の誰に偏ることなく接そうとしている。我が幼き頃は冷たいお人だと思っていたが、あの態度は我々子ども達が争いを起こさぬ様にと考えての事だったのだろう。

 しかし、残念なことに馬鹿兄と馬鹿姉はあのように育ってしまったが。


 あの2人に国王、又は王妃の座は正直務まらないと我は考えている。

 自分の行動が及ぼす影響と言うものをあの2人は分かっていない。

 何?我も十分にうつけだと?ふん!あの馬鹿共よりかは幾分マシだ。

 だが、現状ではあの2人の方が優位であることは揺るがない。

 もし、あの2人が玉座を制しようとした時は、例え簒奪の名を冠されても我は・・・

 

 「それでだな、ラスカル。話を戻すが、リッデルの方がアドバンス家に探りを入れようとしているようだ。それとなくあの者に知らせておくが良い」


 あのような醜態を晒したリッデルがあやつを放っておくわけがないか。


 それに警戒するのはリッデルだけにあらず。

 交流戦にはそれ以外の国の手の者も紛れ込んでいるのだ。

 


 「分かりました。伝えておきます」


 「うむ、では下がって良いぞ」


 「はい。失礼致します」







 父子の話し合いは終わった。

 この遣り取りだけみてもシルフェウス王が誰に期待しているのかは一目瞭然である。

 しかし、国王は悩む。王として、そして父として。


 「腹がキリキリする。父上もこの様な苦労をしていたのだろうか」


 今は亡き先代国王のことをふと考えながら国王は胃の痛みと戦い続けるのである。


 「それにしても、ラスカルは少し焦りがあるな。グレイスに頼んでおかんとな」


 王族4兄弟の中で唯一の清涼剤、グレイス王女殿下。

 彼女はラスカルの精神安定剤の役割を持っている。

 彼女自身、自分に優しく接してくれるラスカルの事は大好きなので喜んで彼の下へ突撃していくことだろう。

 問題は


 「上2人がな。ああ、腹が痛い」


 腹痛に耐える国王。頑張れ、負けるな!





 〇 シンプリー王女 〇


 

 交流戦打ち上げの翌日のこと。



 「アドバンス家の長男、大したことなかったわね」


 煌びやかな服、贅の限りを尽くした調度品。

 そして部屋の主の整った強気な顔立ちと相俟って非常に派手派手しい印象を与える。

 彼女はシルフェウス王国の第1王女である。

 父、母は真っ当な考えの持ち主だが、幼き頃より自分より年上の者に頭を下げられ蝶よ花よと育てられるうちにいつの間にか今の様な我儘な性格になり果てていた。


 「ですが、魔法の腕は確かです。ここは王女様の魅力にて味方に「却下」・・・畏まりました」


 彼女の基準は至って単純。

 気に入るか気に入らないか、ただそれだけ。

 今回の基準で言えば顔である。彼女は綺麗な物、美しい物に強い執着を持っていた。

 アシュラードは彼女の審美眼に適わなかったのだ。

 本人が知らないうちに勝手に否定されている。

 モテない男は悲しい物である。


 そんな彼女には興味を引かれている物があった。

 それはとある美青年の噂である。

 曰く、怜悧だが偶に見せる笑顔は王子と言われても納得出来るほどの美青年らしい。

 数年前から王都にて噂されるようになった謎の王子様。

 シンプリー王女は大変興味を持っていた。

 それこそ子飼いの者に情報収集させるほどには本気であった。


 「それで、噂の美青年の方はどうなの?進展はないのかしら?」


 年単位で時間を掛けて王都中を探しても見つけることが出来なかった。

 今回の交流戦というイベント期間ならば何かしらの情報は得られるのでは。彼女はそう考えていた。


 「はい、そちらの方ですが恐らくその男性であろう人物を特定致しました」


 「そうよね、いな・・・・なんですって!!なんで早くそれを言わないのよ!!」


 理不尽な叱責だが、この侍女も慣れているのだろう。丁寧に謝罪した後に報告する。


 「その男性についてですが、恐らく今回話題になったアシュラード・アドバンスの付き人のマリウスという者の可能性が高いです。目撃したと言う民の証言よりほぼ間違いないかと」


 「なっ!それを聞いていれば、あの冴えないもやしを誘ったのに!遅いのよ!!」


 自分が折角のチャンスを棒に振ったのに気づくと再び臣に当たり散らす。

 この部分においては第1王子のセルラーヴととても似た性質を持っていると言えるだろう。

 しかし、まだ王都にはいる筈。

 そう思い彼女は指示を出す。

 

 「今から呼び出すのよ!!」


 「残念ながら王女様、それは不可能です。本日、既にアドバンス家一向は王都を発っております。


 「なっ!!なんでなのよっ!!もうっ!!」


 怒ってももう遅い。

 目当ての美男子はもう王都には居ないのだ。



 今から子息達を呼び戻す?でも、そんなことをすればお父様がお怒りになるは間違いないわ。それにあの愚兄の二の舞は勘弁だわ。ああ、もう!もう少し早く分かっていれば私の物に出来たのに!!


 

 彼女がここまで美青年に執着する理由、それは独占欲。

 綺麗な物は私の物。他人が持ってる物で気に入った物も私の物。

 そんな幼く、愚かな彼女はマリウスを諦められるのか。

 答えは否。

 彼女は美しい物を求め続ける。

 


 「男爵領に人を遣って監視させなさい。いいわね?」


 「はい、承知致しました」


 「それと引き抜きも並行して。そうね・・・縁談をでっちあげるなりなんなりして良いから、兎に角手を尽くすのよ、分かった?」


 「はい」 



 どうやら一先ず手を引く、とはならないようである。

 彼女からすれば当然なのだ。何故王女である自分が諦めなければならないのか。

 そんな傲慢さが透けて見える。

 そんな王女は虎視眈々と自分に見合う美しい装具を狙うのであった。




 「美しきは利の限りに非ず。その光は醜欲をも招くもの也」


 これはアシュラード・アドバンスが残したとされる言葉である。

 その言葉の背景に何があったのかまでは伝わっておらず、後世の歴史家たちの中で数々の論が討議されているのだが、有力な説は現在も生まれていない。


 そしてこの言葉には続きがあり、これもまた後世には伝わっていない。

 その言葉とは


 「まぁ、どう言おうとイケメンがモテるってことに変わりはないけどね。はん!」

 

 と僻み全開だった。 


 




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