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第27話

 




 突然だが、シルフェウス王国には二大派閥が存在する。

 これは以前から話していたと思う。

 そしてこの二派閥にはそれぞれ擁立しようとしている人物がいる。


 それが国王の子、つまり王子や王女という次代の国王候補である。

 国王には現在4人の子どもがいる。


 継承権第一位 セルラーヴ王子

 継承権第二位 シンプリー王女

 継承権第三位 ラスカル王子

 継承権第四位 グレイス王女


 この4人だ。

 継承権については基本年功序列で、彼等の年齢は上から14歳、12歳、8歳、1歳だ。

 因みにこの4人母親は皆同じ人である。

 国王は王妃には1人しか迎えず、何と言うか意外にラブラブ(死語)なのかもしれない。



 しかし兄妹仲は決してよろしくないようで、長男と長女は顔を合わせる度に罵り合っているとのこと。

 ていうかカゲゾウ、君は一体どうやってそんな情報を仕入れて来るんだ?

 

 「セルラーヴ王子殿下とシンプリー王女殿下の不仲は城下ではある程度知られたことですので、比較的簡単に入手できました。」


 さいですか。

 ていうか国の民に兄妹喧嘩知られちゃってるって政治的又は権威的に大丈夫なんだろうか?

 俺だったらそんな人達に国王になって欲しくないんだけどな。

 まぁ、何処かの誰かさんたちにとっては神輿にするには軽くて丁度良いのかもしれないけどね。



 話を戻そう。

 国王派はセルラーヴ王子、公爵派はシンプリー王女をそれぞれ旗頭に定めたようだ。

 どちらもやっぱり頭はあちゃーな人物らしい。

 コントロールしやすいとでも思ったのかもしれないけど、僕ちゃんはそれ思いっ切り爆弾抱え込むようなものなんじゃないかなと思います。

 おバカな人って偶にとんでもないことやるからね。

 舐めてると痛い目見ますよ?



 そして今回の訪問の儀はグレイス王女を除く3人の子どもたちがそれぞれ国内を視察すると言うのは建前で実際は現代の選挙活動と同義らしい。

 そりゃね、子どもに視察なんて無理でしょうよ。それも王族のボンボンちゃんたちには余計にね。


 そして、我が領に来るのは継承権第三位ラスカル王子。

 これまたカゲゾウ達が集めて来た情報によると大変腕白・・な御方だそうだ。

 手紙によると、今回の訪問も王子自身が希望したらしい。


 もうね、色々とめんどくさ臭ぷんぷんですよ。

 ただ、本人は王位にさして執着はないようで、政争にアドバンス家を巻き込むつもりはなさそうと言うのがカゲゾウの見解です。

 

 「じゃあ何故うちに?確かに料理においてはうちは国内でも有数のものだけど、悪く言えばそれだけだよ?」


 「申し訳ありません。今の所はどれも推測の域を出ず、ただ、王子殿下が男爵領に興味を示しているのは確かです。」


 そうだね。

 そもそも興味が来なきゃうちまで態々来ないでしょうよ。


 「で、その王子殿下のお相手をアッシュに引き受けて貰いたいんだ、」


 父上~。

 爆弾処理は御免ですって~。

 

 「父上、僕は礼儀には疎いですし、何か非礼があっては不味いのではないですか?」


 最後まで足掻きます。

 其処に可能性があるのなら!!


 「殿下自身が歳の近いアッシュをと言ってるから断ることはできないよ?」



 瞬殺!


 

 憎い。

 父上の「良かった、僕がやらなくて」という安堵した顔が。

 何か知らんが俺を指名した王子が。


 この憎しみを鎮めなければ、俺は闇に魂を呑み込まれてしまう!

 

 もちもちもちもちもちもちもちもちもちもちもち


 ひたすらモッチーをもちもちする。

 狂ったかのようにもちもちする。

 其処に雑念が入る余地などない。

 正に無の境地。

 

 

 しばらくして漸く落ち着いた。

 モッチーにお礼を言って意識を戻すと父上が引いていた。

 怖かったのかな?

 まぁ、息子がいきなり無心になってスライムもちもちしだしたら正気を疑うわな。



 「失礼しました。落ち着いたのでもう大丈夫です。」


 「そ、そっか。良かったよ。それで悪いけど頼むね、アッシュ?」


 「はい、それで王子殿下は何時こちらにお越しになるのです?」


 「・・・・それなんだけど、明日にはもう着くらしいんだよね。」



 は?

 A・S・U?

 聞き間違いかな?


 「父上、僕の聞き間違えかもしれませんので、もう一度お願いします。」


 「そう思いたくなるよね~、はぁ。でも、王子殿下は明日にはフロンテルムに到着するってこの手紙に書いてあるんだよね~。ほら、これ。」


 そう言って差し出された手紙には以下のような内容が書かれていた。


 アドバンス男爵、このような形でのお願いで誠に申し訳ない。

 ラスカル王子殿下が先走って、訪問をお伝えする前にご出発なされてしまった。

 こちらの監督不行届きで本当に申し訳ない。

 何とか道中で確保し、この手紙をお届けした次第で既に近くの村に到着している。

 急なことで実に、実に、申し訳ないのだが、明日から世話をお願いしたい。



 って感じでした。

 多分この手紙書いた人苦労してるんだろうな~ってのがひしひしと伝わってきました。

 苦労人気質な感じって言うのかな?もう手紙で何度も謝ってる所とか特にね。

 この人には美味しいものを食べさせてあげようと優しい気持ちになる位の悲愴さでした。


 こりゃNо!とは言えんよなぁ。

 それにこんな腰の低いお願いを断ったらこっちが悪者ですもんね。

 この手紙書いた人も案外それが分かってて書いたのか?

 だとすると、安易に同情するのも駄目か。

 う~む疑い出すときりがないな。



 あぁ、面倒臭い。

 これなら鍛錬の方が考えなくて良いから楽だったな。

 何故に態々指名するんだよ。

 僕ちゃん気遣いとかさらっとできるタイプじゃ御座いません|しね(〇ね)!


 おっと、汚い言葉はメッ!ですね。

 モッチーの情操教育上良くありませんもんね。


 「ここまで下手に出られると、断るのは無理ですね。」


 そう言って父上に手紙を返す。


 父上が今日何度目かの溜息をつく。

 俺もだけど、父上も領主として気が重くなるよな、そりゃ。


 「だよねぇ。だけど、領民とトラブル起こったらなんて考えただけで寿命が縮んじゃうよ。どうしよ~」


 父上ホント若いよなぁ。

 母上もだけど、もう30になるのに言動が若い。夫婦揃って年齢偽ってませんか?


 「まぁ、不安は一旦置いときましょう。それで、この手紙からではどの位の人数で来るか分かりません。部屋の用意はどうしますか?」


 そう、部屋が足りるか分からないのだ。

 恐らく手紙を書いた人もそこまで気が回らなかったのかもしれない。

 これがワザととかだったら僕ちゃん許しません。


 「そうだね、悪いけどメイド達を客室の準備に専念させよう。あと、何かあった時の為に義兄殿にも伝えといた方が良いかな?」


 そこら辺は正直グレーだと思う。

 王子殿下の所在地を漏洩するのは間違いなく一発OUTだ。

 かと言って何かあった時に伯父ちゃんの理解のあるなしでは初動に差が出る。

 助けて!カゲゾウ!


 カゲゾウに視線で助けを求める。

 

 「ご領主様、よろしいでしょうか?」


 「ん?ああ、カゲゾウ、どうぞどうぞ。」


 ホント威厳とは無縁だよな父上。

 え?俺も?馬鹿おっしゃい!この溢れ出るオーラ、正に威厳たっぷり。


 「それとなく伝えるのはどうでしょうか?暗号文を使って子爵様にしか分からない様にすれば漏洩の危険性はぐっと薄まりますし、いざという時には言い逃れもできます。」


 逃げ道を残しておくそのそつのなさ、流石です。

 確かにこれなら大丈夫かもしれない。


 父上を見ると決まりの様だ。

 分かりやすい。

 まぁ、この純真さが父上の美点なんだけどさ。


 「うん。それで行こう。それじゃあ手紙の内容についてはカゲゾウに任せるけど良いよね?」


 「承知いたしました。内容が出来上がり次第、その下書きをお届けします。」


 これで、粗方話は付いたかな。

 そうとなれば


 「早速、王子殿下をお迎えする準備をしようかと思いますので、今日の鍛錬は


 「あ、やるからね?王子殿下からはいつもの・・・・男爵領を見たいってことだから前以ての準備は必要ないとのことですから。」


 手紙をよく見ると確かにその様なことが書かれている。


 「えええええ」


 「ほんとにアッシュは鍛錬嫌いだよね?」


 そりゃそうですよ。

 誰が好き好んで殴られたり、蹴られたり、投げられたり、絞められたり、剣で打たれたり、槍で突かれたり、棒で薙ぎ払われたりするもんですか。


 毎回、鍛錬の度に僕ちゃんのライフはゼロ超えてマイナス軽く突破してんだよ!


 「どう思われようとやるからね?」



 いやだああああああああああああああああああああああああああ。





 その日、とある館から年若い男児の悲鳴が領内に響いたとか響かなかったとか。










 活動報告をまだご覧になっていらっしゃらない方はそちらもお願いします。

 これからの活動についてのご報告があります。

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