閑話 闇を照らす光
本編ではないのでご注意ください。
我々は孤独だった。
村が山の中にあり、他村との交流は最低限。
これといった特産品もなく、裕福な家など一つとしてなかった。
我らの村には引き継がれてきたものがあった。
それは技術。
陽の目に出ることなどなく、闇の中でこそ活きるものだった。
この技術は凡そ100年と少し前、旅人から伝授されたもので、それまで我々はただの山の一族だった。
旅人はある程度技術を伝えると去って行ったと言う事だ。
別れ際に「技術の安売りだけは止めとけよ」と忠告されたそうだが、祖先達はその言葉の本当の意味を理解していなかった。
この技術を教わってからというもの裏の仕事での成果が目覚ましく、祖先達は大喜びだったそうだ。
だが、その喜びはすぐに打ち砕かれることになる。
有用だと思った権力者たちは祖先達を使えるだけ使った。
祖先達も生きる為に必死で働いた。
だが、優秀過ぎた。その優秀さを恐れる者、疎ましく思う者が現れ始めた。
使うだけ使っておいて、金を出し渋り、それに不満を言えばそれを理由に契約を打ち切ったり、酷ければ刺客を送る者。
祖先を重用していた者も、それを気に食わないその者の部下に「謀反の兆し有り」と嘘を吹き込まれて、なまじその有能さを知る故に、恐れて仕えていた祖先を殺したという事だ。
結果、旅人の忠告は正しかったのだ。
祖先達は目先の益に釣られて見事に失敗したのだ。
それからと言う物、祖先達は更に山中でひっそりと暮らすようになった。
そして極力外と関わらないようになった。
それでも、食べなければ人は生きられない。
食べる物を得る為には金が必要だ。
そしてこれは極々当たり前のことだ。
だが、危ない仕事を引き受けて貰えるお金は割に合ったものではなくなっっていた。
足元を見られるようになったのだ。
それでも生きる為にはやるしかなかった。
雇い主の為ではなく、我々自身が生きる為、必死で働いた。
村の存在を外の者に明かす訳にはいかない為、外に仕事に行く者は必ず自害用の毒や隠し刃などを身に着けていた。
なぜこの様な辛い思いをしなければならないのか。
今はもう居ない一人の同輩が言っていた言葉を思い出す。
彼は優秀だった。だが、死んだのだ。
仕事を終えた直後、その仕事の証拠を完全に隠滅しようとした雇い主によって。
正直このことを聞いた時私は心が折れそうだった。
しかし、何とか持ち堪えた。
でなければ、生きられなかった。
それでも日に日に限界は近づいていた。
受け継がれてきた技術を捨て、ただの山の民に戻り、普通の生活を営む。
我々は祖先達の技術と彼等の流した血でここまでやって来れたのだ。
当然葛藤はあった。技術を捨てることが祖先達のしてきたことを否定するのではないかと。
只々、悔しかった。握りしめた手からは血が流れた。それ程の苦しみだった。
だが、我々には意地を張る余裕など残されていなかった。
しかし、その時外に出ていた者が気になる話を持って帰って来た。
とある男爵領に人が集まっている。
曰く、その男爵は領民に気さくで貴族特有の選民主義など欠片もなく、その息子も齢4つにして魔法を操り、領民との仲も良好とのこと。
聞く所によるとその男爵領に我らのような影の者はいないようだったとのこと。
何故かは分からない。ただ、其処に行けば何かが変わる。
そんな漠然とした予感があった。
すぐさま、その地に向かった。しかし、行った所で何をどのようにするのか全く考えていなかった。
着いたは良いが、そこからはどうしようもなかった。
途方に暮れた。結局何も変わらないのかと。
そんな時だった、1人の子どもが声を掛けて来た。
「あの、すみません。」
振り向くと、水色の髪をした幼子がこっちを見ていた。
まるで私の全てを覗いているような不思議な目をしていた。
「何だい?坊や」
とりあえず話してみようと思った。
そうすれば良い気分転換になるかもしれない。何か思いつくかもしれない。
そんな雑草にも縋る思いだった。
「こんな所で佇んでどうしたの?」
成る程確かに畑を眺めているようにでも見えたのか。
「少し悩んでいてね。ぼーっとしていたのさ。」
今の本当の気持ちを打ち明ける。
「もし良かったら、僕と話してみない?良ければ力になるよ?」
その言葉は不思議と心に沁みた。
そして挫け掛けていた心が少し熱を持ち始めたように感じた。
「ありがとう、坊や。でも、大丈夫。これは私が何とかしなければならないことだからね。自力で頑張ってみるよ。」
心の底からのお礼だった。
子どもは少し残念そうだったが、直ぐに笑顔になってこう言った。
「そっか、それじゃあ、もしそれでもどうしようもなくなったらたらうちにおいでよ。僕、これでも領主の息子だから力になれるかもしれないし。」
一瞬、呼吸をするのも忘れてしまった。
そして気付くと頭を下げていた。
「どうか我々を雇って頂けませんか!?」
今思えば、拙速だった。もし、アシュラード様が噂と異なり、我々を邪険に扱って来た権力者と変わらなければ一族の命運は終わっていたかもしれないのだ。
アシュラード様はその時の事を「それだけ必死だったってことでしょ。恥ずかしがることないよ。」と言って下さるが、あれこそ私の唯一の失敗だ。が、同時に最大の功績でもあった。
それを聞いたアシュラード様は
「え?ホントに良いの!?君忍者だよね!?うわぁ、やったー!!!」
と言って飛び跳ねていらっしゃった。
何故分かったのか?
後で聞くと「鑑定スキルで見ちゃったんだ。ゴメンね?」と仰られていた。
その時はニンジャという言葉を知っているのにも驚いたが、何より吃驚したのは我々の存在を知って尚喜んでくれたことだった。
その時は信じられず
「ニンジャを知っていらっしゃるのに、我々が悍ましくないのですか?」
と聞き返していた。
アシュラード様は
「え?何で?忍者凄いじゃん。諜報活動から工作まで何でも御座れって感じで。そもそも君達を都合良く使うくせに蔑視する奴らの方が断然糞野郎じゃん。」
と仰った。
不覚にも頬を熱いものが流れるのを感じた。
この方なら我々の力を十全に使ってくれる。
この方なら我々は命を預けられる。
そんな感激の思いが体中を駆け巡った。
「何卒お願いしたく・・・・」
続きの言葉は声にならなかった。
「こちらこそよろしく!えーっと、名前聞いてなかったね。僕はアシュラード・アドバンス。君は?」
「カゲゾウに御座います。」
「カゲゾウ・・・・うん、忍びに相応しい良い名前だね?これから頼むよ?」
「身命を賭して!!」
「堅いなぁ」と言いながらアシュラード様は私を連れて屋敷へと戻られた。
その足でご領主様に報告し、ご領主様にも「息子とこのフロンテルムをよろしくね。」と頭を下げられ、鷹の親は鷹であることを実感することになった。
初めての出会いから2年以上の時が経った。我々は空忍と言う名を頂き日々任務に鍛錬に励んでいる。
中々会えない者もいるが、連絡によると皆張り合いのある日々を送っているようだ。
これも全てアシュラード様に出会えたからだと、皆が理解している。
「やっぱり、カゲゾウ達は優秀だね。僕は優秀な部下に来てもらえて本当に助かるよ。」
と事ある毎に言って下さる。
だが、私は違う。
あなたこそが我々を暗い闇の底から拾い上げて下さったのです。
あなたこそが我々の消え行く定めを打ち砕いてくださった英雄なのです。
この思いは生涯消えることはないだろう。
「ほら、カゲゾウ行くよ!」
「はい、アシュラード様。」
今日も私はアシュラード様の後ろに控える。
この幼い恩人と彼の大事なものをこれからも守って行こう、そう思い改め私は小さな主の後を追いかける。
はい、と言う事で今回はカゲゾウさんでした。
アッシュ君は理解できていませんが、絶対的な信頼を向けてくれ、一族を救ってくれた彼はカゲゾウ達にとって救いの神そのものなんですよね。
そこら辺が上手く伝えられてたら良いなと思います。




