第16話
本日2話目です。
翌日、マフモフ爺さん御一行は戻って行った。
返事についてだが、条件付きでYESだ。
伯爵の手下A(名前を知らないので命名)は一先ず確約が取れたことに満足しているようだった。ちょrゲフンゲフン!!
それで、その条件とは「1年だけ待つこと」
これのみである。
さてさて、その間に洗いざらい調べさせてもらいましょう。
謝ったって許しませんからね?
「もう、アッシュに当主の座を譲った方が良いような気がするよ。」
いかん、父上が弱気になっている。
確かに俺かなり勝手に動き回ってるしな。
普通だったらとっくに廃嫡されてるだろうね。
でも、父上には悪いけど当分は表に立ってもらわないと困るんだよね。
父上の武器は何と言っても表裏を感じさせない雰囲気とイケメンフェイス。
実際表裏なんかないけどね。どうやったらこんな純粋培養なイケメンが育つのか俺は本人に直接聞いてみたいぐらいだ。
だからこそ皆疑わない。「そんな男爵だから裏の手段など使えない」と。
そんな奴らを俺と空忍で翻弄する。
これも俺がまだ子どもだから使える手だろうね。誰も子どもが諜報部隊のトップだなんて考えないだろうしね。
ただ、マフモフ爺さんが話さなければだが、一応大丈夫だとは思う。例外でゲイン子爵──伯父さんだけには教えて良いよと言っておいた。爺ちゃん、婆ちゃんももう知ってるしね。
そうしないと伯父さんに説明できないしね。
今は気づかれなくても時間が経つにつれ、アドバンス家の影の存在に気付く者も現れて来るだろうが、それまでには多少時間がある。
その期間に、爵位に左右されない程に力を付ける──これがうちの、というか僕ちゃんの勝手な目論見。
かなり厳しいがやってやるさ。
じゃないとうちは遅かれ早かれ取り込まれるか潰される。
そんなことはさせません。
アッシュ君、(よんじゅう)ご歳頑張ります。
〇 移動中の馬車にて マフモフ 〇
傑物──この一言を使うのはどうかと思うが、それ程の衝撃だった。
最初の印象は年の割には敏い。その程度だった。
だが、その日の内に評価を上げざるを得なくなる。
昨夜、マフモフの泊まる部屋に2人の人物が訪ねて来た。
1人は初めて目にする男でとても落ち着いた雰囲気を持つ一見普通の男性。
もう1人は今日初めて会ったアドバンス家の長男。
マフモフは一瞬驚きを表に出しそうになったが、何とかそれを抑え込み、2人を部屋へ招き入れる。
そして、話始めると更に驚愕することになった。
「早速ですが、一つ質問させて下さい。ゲイン子爵家はなぜ協力させられているのですか?」
!?
その一言にどこか緩んでいた気を引き締める。
目の前の子どもはただの幼子ではない、そう思い直す。
「お分かりになりましたか。因みに理由を伺ってもよろしいですかの?」
「簡単ですよ。マフモフ殿と手下殿の意気込みの違いです。手下殿は何としてもと言った感じでしたが、貴方様からはその様な気は少しも見受けられませんでしたからね。寧ろ、その目に嫌悪感すらあったように見えました。だから、思ったのです。と言っても気付いたのは手下殿の紐の先を確認してからですけどね。」
事も無げにさらっと言い放つ言葉にマフモフは恐怖を覚えた。
この童は普通じゃない。
しかし、マフモフはこの子どもから悪い気を感じなかった。
その感覚に少し戸惑いながら、言葉を返す。
「なるほど、マリアンヌ様の言葉は親馬鹿の大言壮語ではなかったということかの。儂も衰えたものだ。」
そして一度深呼吸してから告げた。
「確かにゲイン子爵家は今回の件に協力を強いられております。ですが申し訳御座いません。理由は話せないのです。」
理由は簡単経済封鎖を行われたから。
ウィズル伯爵はゲイン子爵に頻りにアドバンス家との仲介を求めていた。
しかし、子爵はそれを上手く流していた。
それを腹に据えかねたのか、ある時から伯爵領の子爵領から来た商人への取り締まりが過激化する。
更に、伯爵領を経由して届いていた筈の物資も届かなかったり、届いても明らかに予定より少なかったりと酷いものだった。
これには子爵も困り果て、仲介を引き受けるしか道はなかった。
何とかマフモフを使者にして全権を与えたのは子爵の最後の意地だった。
しかし、そのマフモフですら良策は浮かばず、今日と言う日を迎えていた。
素直に話して、アドバンス家がウィズル家と距離を置いたら、ゲイン・アドバンス共に只では済まされない。
マフモフは悩んでいた。
すると、後ろにいた男が声を上げる。
「アシュラード様、少しよろしいですか?」
そう言って子どもに発言の許可を願い出た。
子どもは笑顔で
「うん、カゲゾウには何か案があるんだね?それなら任せま~す。」と言った。
はて、一体どのような話なんじゃ?
「では。マフモフ殿、自己紹介させて頂きます。私はカゲゾウと申します。アシュラード様の下で影として仕えています。」
影じゃと?
なるほど、この存在感の薄さはスキルか何かか。
ここまでとなると当然凄腕かの。
「カゲゾウ殿、それで其方の考えとは。」
「はい、単純なことです。我ら影が伯爵領内を徹底的に調べ上げ、伯爵家の弱みを握り、向こうから距離を置かせます。」
「そなたを見れば、手の者達も優れていることは理解できるが、時間がいる筈じゃぞ?今回の返事はどうするのじゃ?」
「お褒め頂きありがとうございます。そのことについては問題ありません。先程のアシュラード様と同じことを伝えれば良いのです。」
「先程と・・・・同じ?まさか?」
「そうです。政務の多忙を理由に会談の開催を先延ばしにすれば良いのです。しかし、只引き延ばすだけでは伯爵は納得しないでしょう。ですから」
「会談に参加することを餌にするということですかの?」
カゲゾウ殿は涼しげに笑い頷かれた。
「それじゃあ、大筋はこれで決まりだね?で、マフモフ殿、どのぐらいまでなら伯爵は待ってくれると思いますか?」
「そ、そうですな。長くても1年程でしょうな。」
「十分だね。それだけあればカゲゾウ達なら伯爵の黒子の数まで調べられますよ。ね?カゲゾウ。」
そう言って笑いかけられたカゲゾウ殿には今まで全く感じなかった少しの困惑と主に腕を認められた確かな喜びが感じられた。
「お任せください。アシュラード様、必ずや期待に応えて見せましょう。」
「黒子の数は調べなくて良いからね?知っても誰も得しないしね。」
そう言って子ども、いや、アシュラード殿はケラケラと笑っている。
笑い終わると、
「では、そのことについてはマフモフ殿、お願いします。その間はうちからも支援しますので。」
と真面目な顔で仰った。
どの顔が本当のアシュラード殿なのか儂には分からなかった。
その後も話し合いは続いた。
そして今に至る。
儂の護衛の中にはカゲゾウ殿の手の者が紛れ込んでおる。
護衛兼連絡役ということらしいのじゃ。
来るまでは憂鬱だったが今は違う。
やらねばならないことが山積みなのだ。
下を向いて溜息をついている暇などない。
アシュラード殿にばかり任せていては儂の立つ瀬がないしの。
行きと異なり元気になったマフモフ爺を見て子爵家の兵士達はホッとしたという。
その後、元気になった老人から雷を落とされ、そう思ったことを少し後悔したとかしなかったとか。
行く行くは他国篇とか書いたりしてみたいですけど、その為には国内を先ずどうにかしなきゃって感じで、正直それも何時になるやらな状況であります。
そんな作品と作者でありますがこれからも宜しければお付き合いください。




