第14話
本日2話目です。
では、どうぞ。
無事、アドバンス領に戻って来ました。
いやぁ、やっぱり我が家が一番ですね。
家族団らん、実に素晴らしい。
ライゼンなのですが、当初は領内の警備をやってもらおうかと思っていたのですが、いきなりは難しいだろうし、いきなり見知らぬ者が領内警備に就けば領民が戸惑うであろうことから、まずは俺の専属護衛として領民に存在を周知させようということになりました。
うーん、この安心感。大変心強いですね。
今迄はカゲゾウが領内での俺の護衛を引き受けてくれていたが、ライゼンのおかげで空忍のまとめ役として仕事に専念できるようになった。本人としては寂しそうだったが、今迄がかなり無理してもらってたからね。
その空忍だが、新事実が判明した。
実はカゲゾウは空忍の長で200人の一団のまとめ役は別にいるということだ。
因みにその人は先代カゲゾウらしい。
カゲゾウにその人について聞いてみたところ、「子どものような方です。」とのことだった。
正直、想像ができません。
一体どんな人なんだろう?
何れ会えるだろうか?
そして、現在俺は妹のイリスを抱っこしている。
顔つきも大分はっきりしてきて、可愛さに磨きが掛かっている。
兄馬鹿ではございませんよ?これは歴とした事実なのです。
いないいないばぁをするとキャッキャッと喜んでくれるのだ。これが可愛がられずにいられるだろうか、いやいられない。
十分に妹分を補給すると、母上に預ける。
母上とイリスのツーショットはどことなく神聖な雰囲気が漂っていて、この画だけでアンデットやスケルトンを浄化できるんじゃないかと思うぐらい神々しい。
父上も溜息をついている。
イリスを部屋に戻し、父上・母上との簡単な報告会が開かれ、一通り話し終えると、再び雑談の場に変わった。
「それにしてもフロンテルムも豊かになったね」
父上がほんわかとした笑みを浮かべ、紅茶を啜る。
画になるな。肖像画にすれば高値で・・・・・いかんいかん。
でも、芸術家を領内に招致するのはありかもな。考えておこう。
「そうね。でも良かったのかしら?冒険者ギルドや商人ギルド建設の誘いを断って」
母上は不思議な面持ちだ。
まぁ、こっちの常識なら断るなんて選択は有り得ないんでしょうね。
確かにこの二大ギルドがあるだけで街の格は上がることになるだろうよ。
でも、今のうちにとってはデメリットの方が大きいんだわ。
まず、建てるとなればギルドの建設費は当然うち持ち。莫大な金が掛かる訳です。
いくらここ1,2年好景気だからってうちにそんな金銭的余裕はない。
そして、領内の風紀に乱れが生じるのは分かり切っている。
唯でさえ、密偵の監視や始末で手一杯なのに、これ以上領内に揉め事の種を増やしたくはないのですよ。
それに何よりフロンテルムは今の状態がベストだと俺は思っている。
料理屋や露店が人の賑わいと共に建ち並ぶ通称<食い倒れ通り>、街外れに見えるモーイ畑や澄んだフロン川が織り成す牧歌的な風景。
言葉にするのが難しいけど、この2つの景色が同時に成り立っているフロンテルムが俺は好きなんだ。
態々ギルドおっ建てて都市化する必要なんてない。
「マリー、無理に変える必要なんてないさ。僕たちは今のこのフロンテルムが好きなんだからね。そうだろう?」
と父上がやんわりと母上に問い掛ける。
その通り!!
我が意を得たりと俺はコクコク頷く。
そんな俺を見て母上はクスリと笑みを零し俺に語り掛ける。
「アッシュ、心配しなくても大丈夫よ。私だって今のフロンテルムが大好きなんだから」
そう言って俺を膝の上に乗せ、頭を撫でてくる。
とても気恥ずかしい。見た目は子どもでも中身はおっさんなのだ。
コンコン
「ミッシェルです。少々よろしいでしょうか?」
ミッシェルさんだ、何だろう?
「大丈夫だよ。入ってくれ」
父上が許可を出しミッシェルさんが入室する。
「ご領主様、奥様、アシュラード様、失礼します。ゲイン子爵より使いの方が」
「お兄様から?」
母上がきょとんと首を傾げる。
2児の母なのに可愛らしい。ポーズに全く違和感がないのも恐ろしい。
「何だろうね?ミッシェル、使者の方はどなたかな?」
「はい、それが、マフモフ殿でして・・・」
マフモフって誰?
何かめっちゃ柔らかでふかふかしてそうな名前だけど。
「マフモフ殿が?直ぐに向かおう」
普段ゆったりしてる父上とは思えない程の即断即決で部屋を出て行った。
呆気に取られていたが、気を取り直して母上に聞いてみる。
「母上、マフモフ殿とはどの様な方なのですか?」
「えっとね?物凄く優秀な人でね、お父様が子爵になる前からゲイン家に仕えてくれていたの。お父様の隠居と一緒に一線からは退いたんだけど、お兄様とお父様が何とか説得して相談役として残ってもらってるのよ」
ほうほう。
そんで一線を退いた筈の信頼の厚い相談役を使者として寄越したとなると、重要な話なのかね?
よく分からんけど。
「そうなんだ。それで父上はあんなに慌ててたんだね」
「本当はそれだけじゃないのよ?フフフ」
何ですか、その意味深な台詞は。
ひじょぉに気になります。
〇 アドバンス男爵邸 応接室 マフモフ 〇
「お待たせしましたっ」
そう言って入って来たのは現在国内で最も勢いのあるアドバンス男爵家当主。
儂はこの若造を幼少の頃から知っているが、全く変わっていない。
如何にも急いで来たと言うような焦り様、減点。
「お久し振りです。マフモフ殿」
うむ、挨拶はまぁ甘いが及第点としよう。だが、自分から挨拶したのは大きく減点だ。いくら家格は子爵家の方が上だとしても、使いの者に先に挨拶させるべきだ。こやつはそんなこと一切考えとらんだろうが。
「お久しゅう御座いますな、アドバンス男爵」
「以前みたいにラクトルと呼んで下さい。先生に敬語を使われると、正直居心地が悪くて」
プチ
「ミッシェル、喉渇いちゃったからお茶お願いね?」
プチ
「いやぁ、先生ほんっとに久し振りですね。お元気でしたか?そうそう、このお菓子美味しいから食べてみてくださいよ。これね、実はマリーが考案したんですよ?すごいでしょう?それd」
「いい加減にせんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ひいっ」
「何時まで経っても、お主は。何時になったら当主としての自覚を持つんじゃ!!仮にも正式な使者として参った儂にな~にを世間話しとるんじゃあああ。もおお、許さん。鍛え直しじゃあああああああ」
「そ、それだけはご勘弁を。おおおおおお願いします」
土下座までしおった。今日という今日は、
「マフモフ、あまりいじめないであげて?」
声の先には、マリアンヌ様、その脇には幼子が。
「これは必要不可欠な教育でございます!マリアンヌ様、大変お久しゅう御座います。それで隣にいらっしゃるのは」
「程々にね?長男のアッシュよ。この子は天才なんだから。きっとマフモフもびっくりするわよ?」
「それはそれは、楽しみで御座いますなぁ」
ふむ、確かに目の色には知性を感じる。
すると、その幼子が前に出て挨拶を始めた。
「お初にお目に掛かります、マフモフ殿。私はアドバンス男爵家が第一子アシュラードと申します。以降お見知りおきを」
そう言って、一礼する。
素直にその挨拶には感心した。
確か、アシュラード様はまだ齢五つ程だったはず。
幼子にしては確かにまぁまぁだの。
だが、そこまでのものは感じんが。
まぁ、この機会に見極めさせてもらおうかの。
それと無事用が済んだらラクトルの馬鹿もんを扱かなきゃいかんな。




