第9話
はい。父上と御爺様がお説教を受けてます。
説教をしているのは勿論母上。ベッドで横になりつつ説教しています。
そりゃねぇ、自分がお腹を痛めて生んだ子の名を自分が居ないところで話し合ってたって聞いたら気分良くないわな。体調のこと考えるなら安静第一なんですけどね。
御婆様はちゃっかりお説教逃れてるけど、一番盛り上がってたのは男2人だったしな。
まぁ、こってり絞らて下され。
「アシュラード様、ご報告があります」
いつの間にか俺の後ろにカゲゾウが控えていた。
「流石だねカゲゾウ、いつ見ても見事な気配遮断だ」
そして視線で先を促す。
「お褒め頂き光栄の極み。北東の森にて赤い大型の魔物の存在を複数の領民が確認しており、その情報を精査するに恐らくその魔物はブラッディベアではないかとのこと」
その瞬間、怒っていた母上も、怒られてシュンとしていた男2人も、3人をニコニコしながら見ていた御婆様も、全員が一斉にこちらに視線を集める。
「そのブラッディベアらしき魔物の位置や数は分かってるの?」
真面目顔でイケメン度が五割増しの父上がカゲゾウに尋ねる。
「はっ。魔物の現在地は手練れの者たちに慎重に探させています。数は少なくとも2匹は確定しています。」
1匹でも面倒なのに2匹って。しかもまだいるかもしれないし。
「ラクトルよ、そやつは何者だ?全く気配がなかったぞ?」
当然聞きますよねー。領主の家族が揃っている部屋に音どころか気配なく入って来てるんだもんな。
「あ、えーっと」
ちらっとこちらを見る父上。
しょうがないか。此処ではぐらかすのは得策じゃない。それに爺ちゃん達なら無暗矢鱈に言いふらさないだろう。
俺は父上に頷き返す。
「彼の名前はカゲゾウと言います。一応うちの従士ではありますが、私ではなくアッシュの直属の者で、情報収集が専門です。それだけでなく護衛や戦闘もこなす優秀な人材です」
おっと、一瞬だがカゲゾウが硬直したぞ。さてはべた褒めされてびっくりしてるな。けど、父上が言うようにカゲゾウやその一族達はとても優秀だ。だが、どこも必要とするのは一時的な任務で誰も彼らを配下にしようとする者はいなかったとのことだ。勿体ねぇ。所謂忍者ですよ。戦闘、工作、情報収集何でもござれですよ?
そんな彼等と出会え、従士になってもらえたのは非常にツイてる。王都から帰って来てすぐに自分から売り込んで来てくれたからね。ホント良縁スキル様様ですわ。その時の話になると、カゲゾウはいつも恥ずかしがる。何でだろう?
そんな彼、名前の響きから俺と同郷ではないかと勘繰ったが、カゲゾウの名は代々一族の頭領が受け継ぐ名ということらしい。ただ、百年以上前にカゲゾウたちのご先祖が旅人を助けた時そのお礼にと色々な技術を教わり、その直後から一族を率いる者にカゲゾウの名が引き継がれる掟が生まれ、そして今に至るということだ。
うん。間違いなくその旅人は同郷の者ですネ。何やってんだって感じですわ。
まぁ、そのおかげで俺は助かってるから良いけどさ。
彼の一族は老若男女合わせて200人程だ。一族と言っても全員血が繋がっているわけではなく、中には拾われて一族入りした者もいるらしい。現在、うちの領にいるのはカゲゾウ含め30人程。他は国内外での情報収集や拠点作り、老人や子供は拠点維持や技の鍛錬などに励んでもらっている。
国盗りでもするのかって感じだけど一切そんなつもりはございません。
ホントですよ??
で、爺ちゃんだが
「う~む。なるほど、正に『影』か・・・分かった。これ以上は聞かないでおこう。お前も良いな?」
そう言って婆ちゃんを見る。
「ええ、その方が良いのでしょうね」
婆ちゃんもそれに賛同する。
物分かりが良くて助かります。いくら祖父母と言っても、流石に詳しくは話せないのですよ。
「では話を戻しましょうか。それで、どう対処しますか、父上?」
「そうだね。とりあえず、森の探索を続けてもらって情報を集めよう。その間に腕の立つ者に声を掛けておいて、情報と人員の両方が揃ったら作戦会議。それが終わり次第討伐に向かうって感じかな?」
そう言って家令のマクネスさんに確認する。
「大まかにはそれで大丈夫でしょう。それと今回の討伐の指揮にはブランド氏に任せるべきかと」
「うーん。彼は冒険者引退してるから頼みにくいけど、仕方ないね。僕が手紙を書くから使いをだそう。」
「それならば、自分が参ります、父上」
俺が行った方が誠意が伝わるよな。詳しい説明もできるし。
「分かった」
それから父上の手紙を持って、俺はブランドさんのもとへ向かった。
ブランドさんは二つ返事でOKしてくれた。報酬はうちの新作料理試食権とアドバンス領人気料理店の割引券ということでまとまった。
その翌日、討伐隊は森に向かった。俺も付いて行きたかったので、こっそりカゲゾウに相談したが今回はダメとのことでした。残念。ブラッディベアはBランクの魔物なのでどんなものか見てみたかったけど、仕方ないね。報告を待ちましょうか。
〇 アドバンス領北東の森 ブランド 〇
今、俺を含む10名の討伐隊は森の奥へ進んでいる。
隊の内訳は5人組のB級冒険者パーティ1つとアシュラード様直属の部下達4人といったものだ。
冒険者パーティ『蒼き風』は皆俺より若いがランクに比する実力はちゃんとありそうだ。リーダーの若者は一見すると線の細い優男だが、体内の魔力循環がスムーズで中々のものだとわかる。将来有望な若手を目にできると何となく嬉しくなるのは俺がおっさんになったってことなのかもしれんな。まぁ、俺は冒険者引退したおっさんだし若いもんに頑張ってもらわなきゃな。
それより気になるのがアシュラード様の子飼いの者達だ。こんなに近くにいるのに存在感があまりにない。ふとしたことで何処にいるか分からなくなっても可笑しくないほどに存在感が希薄だ。恐らく気配遮断などのスキルを使っているのだろうが、見事なものだ。この分だと戦闘に関しても問題なさそうだ。
ったく、本人の魔法の腕も然る事ながら、その周りも凄腕とは此処はやっぱり面白いトコだ。
食い物はウマいし、住民の人達もスゲー良い人ばっかだし、サイコーだぜ!!
とと、今は任務に集中しねぇと、おや?
「皆様、前方200メル先に討伐対象らしき存在を確認しました。数は2です。」
カゲゾウさんも気づいたようだ。この人感知系のスキルも持って・・・4人全員か。こりゃとんでもねぇな。アシュラード様は敵に回したくないねぇ。回すつもりなんて毛頭ないけど。
「そんじゃ作戦通りってことで良いんですよね?」
冒険者パーティの剣士が確認する。コイツも良い線行ってるな。体つき見た感じスピード・パワーのバランスが取れたタイプだな。
「はい、ブランド様と私、セキが対象の気を引いてるうちに「蒼き風』の皆様は後方に回り魔法での不意打ちをお願いします。インとホウに周囲の警戒をさせますので一撃を入れることに集中して下さい」
全員問題ないようだ。
「では、作戦を開始します」
俺と2人は目標に向かって駆け出す。早いねぇ。俺身体能力には結構自信あったんだけど。カゲゾウさんは特にスゲェな。一度お相手願いたいねぇ。
すぐに目標が見えて来た。
とりあえず一撃お見舞いしますかねぇ。
デカブツも気づいたようだがおせぇよ。
長年連れ添って来た相棒を鞘から抜いてとりあえずよいしょっと。
ザッ!!
手応えはあったが熊公はまだ平気なようだな。
GYAAAAAAAAAAAAA!!!
おうおう、怒ってますなぁ。
もう1匹の方はカゲゾウさんが相対して、セキさんは俺らの援護。作戦通りだわ。
それにしても動きが軽やかだねぇ。まるで軽業師じゃねぇか。
おっと、いけねぇ。こっちもお役目はちゃんと果たしませんとね。
「熊さんよ、ちょっくら遊ぼうや。な~に、痛くないから。先っちょだけだから、な?」
ブラッディベアに剣を向けて構えをとる。
相手は怒りで完全に俺しか目に入っていないようだ。
若造たちも熊公の後方に着いたようだし、後はタイミングを合わせてっと──
ギリギリまで溜めてバックステップで後ろに跳ぶ。
その瞬間、熊公に何かが突き刺さり、貫く。
魔力の練り具合はまぁ、合格だな。アシュラード様のウォーターアローはもっと速くて、威力も有るけどな。つか、B級より威力のある魔法使える4歳児って何なんだよ。
いかん。思考がずれてる。とりあえず、止めはいただきますよっと。
奇襲で完全に動きが止まったブラッティベアにすぐさま斬りかかり息の根を止める。
カゲゾウさんも丁度終わったようだ。
「今回の任務の完了を確認しました。打ち合わせ通り死体を回収した後、帰還します。少々お待ちください。」
そう言ってセキさんがマジックバッグの開け口をブラッディベアの死体に向けると一瞬にして死体が消え、血の跡だけが生々しく残っていた。
森から戻ると、アシュラード様がご領主様と待っていた。奥様は出産直後と言うこともあり御屋敷で休まれているらしい。そんな2人の会って一言目が「ありがとう」なんだから此処はやっぱり変わった所だ。勿論良い意味で、だ。
俺が冒険者時代訪れたとこのほとんどのお偉いさんは酷く偉そうで高圧的だった。それに自分から領民や冒険者に笑顔で話し掛けるお偉いさんなんてのも俺は見たことがない。
最初、ご領主様にビクついてた若造達も大分緊張が解けたようだ。まぁ、それでも完全にとはいかないのは仕方ねぇか。
アシュラード様がトコトコ歩いて来て、お礼と約束の報酬の一部を下さった。新作料理の試食についてはモノができた時に呼んでくれるとのことだ。
かぁ~。楽しみだなぁ
異世界忍者です。
うまひは忍者好きです。詳しくはありませんが。




