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ソウルダッシュ  作者: 転醒 廻実
スタートダッシュ ヲ 色は匂えど散りぬるを
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第75話 未だ不適応

 結局の所、異世界侵攻に次ぐ異世界侵攻でボロボロになったのはバトリスと二度目に侵攻してきた奴らの故郷の五つだけだった。

 自分らの世界は全く無事で、金緑変石(アレキサンドライト)の奴は暴れられなかった事に憤慨してた。足立姉妹が悪霊呼んで相手させてたそうだが。いや危ない事してんじゃねぇよアホ。……あの光の柱が立ち上がる直前に、ゾンビと吸血鬼も逃げていたらしい。事が済んだ後には両世界の統合が済み、時系列はこちら側が優先される事になった。喪われた魂やらは流石にこちらと統合は出来ないが、何だかんだで向こうの狩猟者(プレデター)が目論んだ初期化作戦(リセットプラン)は成功した。何てったって、奴の失った天宮 環奈って女を取り戻したんだからな。ついでと言わんばかりに自分らの事まで強くてニューゲーム状態にするとか、ゲーム脳も大概にして欲しいぜ。


 自分は機体の損傷が激しく、狩猟者(プレデター)に少しずつ修復(リペア)してもらうしか無かった。ゾンビ女でも出来なくは無いって話だったが、同じ含機械生命体(マシーナリー)で理解のある狩猟者(プレデター)に任せる方が安心出来るんでな。


 そんなこんなで、一週間経つ頃には元通りの日常が帰って来ていた。


 朝は優の作る飯を邸の十人で食って、狩猟者(プレデター)は学校へ行き、自分と足立姉妹は邸内の掃除やら洗濯やら。賢者(ヒリウス)はリトラと一緒にガキの面倒を見て、吸血鬼の爺は優と一緒に家計相談。ゾンビ女は掃除(ソウジ)屋の仕事へ。

 昼には休憩を取って昼飯喰って、また夕方まで邸の掃除やら庭園の手入れやら。狩猟者(プレデター)が帰って来る頃にはやる事も大抵終わってて、ゲームやったりテレビ見たり団欒の時を過ごす。


 たまに狩猟の依頼で奴が異世界へ出向いたり、金緑変石(アレキサンドライト)が遊びに来る事もあるな。

 まだ一線は越えていないらしい。初々しいこった。


 ……そうだ。


 いつも通り。

 いつも通りの毎日だ。

 これで良い。自分の平穏は護られている。


 機体も商人悪魔(オクマさん)に仕入れて貰った特殊な素材を使って強くなってる。


 心配いらない。

 心配いらないさ。

 大丈夫。

 もう恐い思いをする事は無い。

 アレに恐怖する事はもう――。




 唐突に、あの力の本流に呑まれて機体がバラけた時の事を思い出した。

 リトラの名を叫びながら、左手と足の壊れていった光景が、鮮明に視界を埋め尽くした。フラッシュバックだ。




(――――ッ!?)(ゾワ……ッ!)


 時刻は19時。夕食中に何でそんな事が。


「……」


 ……魚?

 今日の献立、ホッケ魚の身を解してる様が……あの時の、パーツを剥がれる自分と重なったのか?

 そんな馬鹿な話があるか。

 誰にも、気付かれていないよな。

 テーブルにいる全員をこっそり見たが、誰も気付いてないみたいだ。

 良かった、恥ずかしい思いはせずに済む。


(馬鹿馬鹿しい。機械がトラウマなんて)




 そう思っていた。

 自分は元々、非生物学的手法によって作られた兵器。同時に人の世に救いを齎す天上の偶像として、お父さんに作られた天使。恐怖なんてものとは無縁だ。知識として知っていても、自分がそれを感じる事は本来無い。


 あの時、自分が恐怖を感じたのは、それを無理矢理ねじ込まれたからだ。一過性のもので、後は楽になる。そう思った。単にそうあって欲しいと願ってただけかも知れないが。


 だが、そうはならなかった。


 次第にフラッシュバックや幻覚が頻繁に起こるようになり、自分の精神は疲弊していった。

 不思議な事に、悪夢は見ない。寝て朝起きた時には、えらく穏やかな気分だった。


 それでも、だ。

 ほぼ毎日、あの大災害を思い出す。

 忘れようとすればするほど意識に食い込んで、離れようとしない。


 もう動揺はしなくなったが、そろそろ疲れを隠しきれなさそうだ。

 これじゃぁそう遅くない内にバレちまう。

 余計な心配は掛けたくねぇし、どうしたもんか。


「はぁ……」

「信」

「ウイッ!!?」


 ま、ま、ま、マズい。

 よりにもよって狩猟者(プレデター)本人に気付かれた!?

 何とか、何とか誤魔化そう。

 適当な事言ってりゃ興味無くすだろ。


「しょ、処女ならやらねぇぞッ!!!!!!」

「本気で落ち着け」 (ドシッ)「フグッ」


 脳天チョップかます必要はあるのか……。

 っつか、痛ぇ……。


「このところずっと疲れてるぞお前」

「えっ」

「リトラからは止められてるが、言わせてもらおう。テメェの不調を主人に黙ってんじゃねぇ。家政婦(メイド)ならそんくらい考えろ」

「……リトラが……気付いてる……?」

「寧ろ何故隠し通せてるって思うド阿呆。露骨に疲弊してるんで皆気を使って黙ってんだぞ」

「……う……そだぁ……」 (へな……)


 何なんだよそれマジキッツい。

 結構上手く隠せてると思ったのに、バレバレかよ。

 何やってんの自分。

 軽く死にたい。


「思考も駄々漏れ。まだ生身に馴れてないんだな」

「……生身……?」

「お前、前まで純粋な機械だったろ? 血と肉を得て、脳を得て、生き物として成立しちまった機械生命体には、より複雑で鮮明な感情が存在する。それを処理しきれないんで疲れてる。どんな感情に悩まされてるかは分からんけど」


 進化にそんな弊害があんのかよ。

 聞いてねぇぞそんなの。


「と、こんなところかな?」

『肉体的要因として言えば、おおよそ間違い無い。そして私が止めを刺そう。六天 信、貴様は一つ致命的なミスを犯している』

「……?」

『沖本 優の存在だ』

「あっ」


 《超越脳力(エクスオーバー)》を持った未来視能力者の沖本 優。アイツの事を忘れてた。

 って事は、なに、最初ッからバレてたわけ。

 アイツがこの先起こる何かしらの事件を予知して、それを元に自分の状態に感付いたと。


「…………もぅゃだ」


 恥ずかし過ぎる。

 辛い。いっそ死にたい。


 こんなにも不完全な奴、誰も頼りにしねぇよ。

 亜紀とも約束したってのにこの体たらくだし。

 もう嫌だ。


「……はい。言質頂きましたので」

「……何……殺すのか」

「ていっ」

「んぶっ!?」


 何だこれ。紙?

 チケット? 二泊三日で安らぎを、H市旅館宿泊券。

 ……何でこれが二枚自分の顔に突き付けられたんだ。


「休暇だ。たまにゃぁリトラと旅行にでも行ってこい」

「……お前、これでどうこうなるとでも」

「いらない。あぁ、そう。んじゃ足立姉妹に渡すかぁ」


 って、おい、もぎ取るな!


「ちょっ、まっ!」


 待ってくれよ何でそこで意地悪すんだよ!

 待てって行くな、おい!


「言えよ」

「っぶ!?」


 急に止まんなよ、ぶつかっちまったじゃねぇかよ。


「痛い。辛い。苦しい。助けて。このたった三文字四文字の言葉を言えない気持ちは良く分かる。俺も言いづらい性格してる」

「……そんなんじゃねぇし」

「否定出来るだけの材料を持ってきてから否定しろ。直にお前の情報を見て確信した事だぞ」

「……」

「とにかくだ。休め、信」


 頭撫でるなよ。

 自分が姉貴でいようって、亜紀に言っちまったんだぞ。

 これじゃぁ自分、妹じゃねぇかよ。


「止めろよ……止めてくれよ、撫でんなよ……」

「……ふむ……うんっ♪」 (ひしっ)

「抱き締めんなよ!?」

「キスまでお望み?」

「死ねッ!!!!!!!」

「ほらほっぺたチューして」 ドグシャァッグキリォッ


 テメェにやるキスなんざ無ぇわ左ストレートで十分だ!!!!


「ぜぇ……ぜぇ……呼び出し喰らっても帰らねぇから!! 馬鹿姉妹に任せて何とかしな!!」

ぁぁああぁぁぁぁ(グギギ……)ゆっくりぃゆっくり(ギ……ギギ……)ィギッ!!?(グキリォッ)

「リトラんとこ行ってくる!」

「あぁ首が……ふぅ……行ってらー」


 ったく、調子狂わせやがって。

 彼女いるくせに私といちゃつこうとか最低過ぎるわアイツ。

 無理。あんな最悪の男が主人とかマジ無い。


「……工作完了♪」


 この時、自分を蝕んでいた毒のような恐怖は何処かへ潜むようになっていた。自分もその事実に気付かず。


 そして、促されるままH市――函館市――へやってきた自分とリトラは、久し振りに訪れた二人っきりの世界に癒される事になった。


 流石北海道、食いもん超うめぇ。


 ……しかし、まぁ、また直ぐ奴の元へ戻る事にはなるんだが。

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