第71話 その日、歴史は破却された
「ぜぇ……ぜぇ……」
「好い加減……降参、しろよ……」
ちくしょう、自分相手に戦うのがここまで疲れる事だなんて知らなかったぞ。
そりゃ成長してるとは言っても、自分は自分。癖も知ってりゃ遠慮まで無い。かれこれ一時間ほど戦闘してるが、決着がまるで付かない。
「統合って話は分かったが!」
「これは! 不毛じゃないのか!」
「だったら止めないか!」
「ソッチが先に止めろ!」
「よし止めるぞ!」
「「せーの!」」
「「ほらダメじゃないかぁ!」」
ゾンビ同士も回復して、互いに剣で戦闘不能まで持っていこうとしてる。
吸血鬼共は……。
「若いもんは元気じゃのぅ」
「まったくよ」
「フンッ」
「チッ……儂が残れば紅茶も美味くなるぞ?」
「どちらも同じじゃろうて」
ときどき攻撃を仕掛け合いながら、紅茶なんか飲んでやがる。
何かムカつくな、おい。
まぁ、そりゃそうだ。
同じ自分だからとて、意識は別物。それが消えてしまうのは嫌だろ。自分だって意識が消えちまうのは嫌だ。
否応無く、自分同士の争いは起こる。
勝った方が本物。今まで通りの弱肉強食に準えてるだけだ。それならば、まだ踏ん切りが良いからな。
「……なぁこれ、本当に目的統合なのか……」
「その可能性が高いってだけの話だしな……」
「っつうかわざわざやんなくても良くねぇかこれ」
「アイツの望みだ。お前らを奪って金緑変石を取り戻す」
「それ本当にアイツの望みなのかよ」
「……それも不明瞭なんだよなぁ……」
「ダメじゃん……」
もうぐっだぐだじゃねぇかよ。
止めようぜ、こんな戦争。
っつうかどういうわけで金緑変石の奴消えたんだよ。
アイツの真我にもよるが、何を願いやがったんだ。
『超越より堕天使! 重大な問題発生! 重大な問題発生!』
思考通信?
何か未来を予知したのか。
『こちら堕天使。超越、この後何が起こるんだ』
『異世界侵攻だよ! もう一つ狙ってる世界があったの!』
『………………』
「はぁ!?」
「ん?」
「何だ?」
「またとんでもない事が起ころうとしとるんじゃろ」
「十中八九四面楚歌よな」
「何がどうなった自分」
ソッチの自分達がいた世界はある意味未来って話だったな。
って事は。
「おい自分! 過去にソッチへ攻めてきた異世界はあるか!」
「……ある。金緑変石を失った原因だ。戦争には辛くも勝利したが、足立姉妹が死亡。魂を奪われて蘇生は不可能。落ち込んでる狩猟者を想ってか真我を解放しやがった。奴の真我はリセット、状態の初期化だった。そしてソイツを発動し、消滅。自分等は戦争前の状態に、記憶を引き継いで戻ってた。足立姉妹も魂まで健在な状態でな。またやってきた戦争には余裕で勝てたが、あの女が何者だったかがどうしても思い出せなくなって……このザマだ」
「……そういう事か。その異世界侵攻、この後起こるぞ」
「……!?」
「って事で良いんだよな」
『大体そんな感じ。でも大丈夫、その先を見てみた。何か知らないけど、持ち堪えていれば勝手に破滅してくれるみたい』
「……どう言う事だ?」
『分からない。ノイズが掛かってるけど、えっと、でぃ、ディスパイル? って言うのが起こる。らしい』
「……絶望……」
「それって……」
優がさらっと大丈夫なんて言う事が起きて、その内容が絶望だとすると。
……あっ。(察し)
「終わったな」
「あぁ」
「結局こうなるのか」
「そりゃ絶望だな」
「御愁傷様としか言えんわぃ」
「可哀想にのぅ……」
狩猟者が何とかしてくれるんなら大丈夫だな。
『いやいやいやそこで安心しないでよ!? 皆が持ち堪えてくれないと世界奪われちゃうよ!?』
耐久ミッションって事か。
だったら自分等も気持ちふんじばってかなきゃな。
「まだ安心するには早いらしい。狩猟者が来るまでの間、自分らで防衛しなけりゃいかん」
おぉっとそう聞いたら五人とも目の色変えやがったぞ?
「その言葉を待っていた」
「あの世界にはムカついていたんだ、また相手出来るとはな」
「二倍の戦力で迎え撃とうじゃないか」
「どれもうひと踏ん張りしてやろうかね」
「次は負けん」
この戦闘狂共め。
皆して笑っていやがる。
いや、笑ってるのは自分も一緒か。
決着付かずにイラついてた所来てくれたイベントだ、笑わずにはいられないよな。
折角だ、派手に暴れよう。
毛の一本たりとも侵入させはしねぇ。
『……あんまり、やり過ぎないようにね?』
『あー、もしもし、アキよ。管理者からの依頼って形にするから、皆ちゃんとやってね』
『――いいえ。これは、悪魔からの依頼です』
ん? 今のは、リトラか?
これは、ドッチのリトラなんだ……?
『リトラちゃん何か考えでも?』
『考えと言うより、"いつも通り"のやり方でやって頂きたいので』
「……何を……?」
まさか、コイツ。
この期に及んで深淵に足を踏み入れる気か。
別に、自分らはやって来た端から落としてくだけのつもりだしそれで十分だろ。
『依頼の内容を説明致します』
本当にやるのか。
今まではなし崩し的に行われていたあの行為を、今度は、お前自身がその口で願うって言うのか。
『やる事は変わりません』
「ま、て、待てってリトラ、そんな」
『依頼目標は、この世界への侵攻を企てている世界』
「おい待てって、そこまでやる事は」
『方法は問いません』
「だから止めろってリトラ!」
『"一つ残さず、奪いなさい"』
『『その依頼、引き受けた』』
「――――ッ!」
アイツ、聞いていやがった……!?
しかも引き受けた!?
って言うか今二人分の通信受けなかったか!?
「今のは……シンヤ……?」
「シンヤ……! シンヤが復活した!ははっ、あはははははは!!! 本当に上手くいったな!!!!」
「何て事を……おぉぉ何て事をしよるんじゃあの悪魔は……!」
「おはははははは! 遂に来よった!! 遂に来よったぞぉお!! 待っておったぞ坊っちゃん! おははははははは!!!!」
「……復活しやがった……コッチの狩猟者が……やりやがったマジで……!!」
「……嘘……だろ……」
復活した?
向こうの狩猟者が、復活した!?
『俺と"俺"は用意を急ぐ』
『その間、防衛は任せたぞ。両世界の濡羽一族』
『破滅を齎せ』
『無為に帰せ』
『晩餐は異世界まるごとごった煮だ』
『美味しく料理してくれ給え』
『『一匹たりとも獲物を逃すな』』
八つ当たりにしたって、やり過ぎじゃないのか、それは。
そんな逆に攻め混もうみたいな事言わなくても、来る奴から次々潰すだけで十分……。
「「Yes,your majesty!」」
「「「!?」」」
正気かこのアンデッド共!?
雨宮 環奈でさえ失った相手に、何故そう堂々挑める!?
別に忠誠を誓ってるわけでもねぇだろ!?
『……これが……神鵺の、濡羽一族……』
『ふふっ……』
自分の知らない所で、闇が蠢いている……。
邸でリトラが感じていたのは、このどうしようも無い不快感だったのか。
「……何が起きてるんだ」
「……分からん……自分は、何も……」
一体自分らは、どうなっちまうんだ。
急速に変容していく自分達が、どうしようもなく恐ろしい。
どうしてこうなった。
何処から歯止めが利かなくなった。
初めから、こうなるって決まってたのか。
これ以外に、自分達の道は――無かったって言うのか。
何故だ。
何故ああも非道な、あんな事が言えるんだ。
神条 神鵺、お前は一体何者なんだ。
お前は、人間じゃないのか。
初めからそうだ。お前は、お前を人間の枠に納めるには、あまりにも巨大で理解し難い意思を何処かに隠し持っている。
「アイツは……アイツは人間じゃない……」
恐い。
恐い。
恐い。
怖い。
奴の正体を知りたくない。
「奴の本体を晒け出す事だけは、絶対……!」
――あの存在が怖ろしい。




