第1話 契約
この小説に目を留めて頂いた皆様、有り難う御座います。
堅苦しい挨拶はここまで、俺は神条神鵺。
詰まる所この物語の主人公だ。
性別は男、中肉中背と見せ掛けてぷくれてきたお腹が少し気になっている。
年齢は18、エッチな本とかが読めるってわけだ。
現在は専門学校通い。
バイトもして収入も安定してきて、中々快適な生活を満喫中……だったんだけど……。
そんな俺にアプリチャットの通知が届く。その内容こそが……。
『倒産しちゃって財産マイナスいっちゃった!☆』
それこそが、我が母から聞いた、気安く、そして残酷な現実だった。
「何じゃそりゃぁあああああああああ!!!!」
叫びたくもなるよね。
今は親元を離れて一人暮らしもしてるんだし、周りの迷惑なんてそんなの知らないよね。
さて、そうなったからには即座に今後の立ち回り方を考えなければいけない。
混乱するのはいくらでも出来るが、それでは駄目だ。
今手持ちにお金があるから目の前は凌げるけど、今後の学費や生活費等々を考えるとそれはもう絶望的なわけで。今現在やっているコンビニバイトでは、どうしても賄いきれないのである。
早い内に大きな金を手に入れなければ死が待っている。
それがこの、神条 神鵺の現状であった。
「待て落ち着け。まずは状況を整理しよう」
現在俺の手持ちは3302円。
微妙だ。
口座に入ってる分は恐らく母に抜かれている。
高校にいる間やっていたバイトで稼いだお金が、知らぬ間に母に抜かれていた過去があったからそう判断したのだ。
当時は生活費と言うこともあり黙認していた、恐らく今回も、仕方の無い事として片付けられるだろう。
そして父はこの事実を知らないだろうと踏んだ。
(俺には兄がいる、恐らくコイツは知っているだろう)
俺達家族は、兄が都会へ越して更には両親が離婚。
バラバラになっていたのだ。
「バイトの掛け持ちをしたとしても、恐らくは肉体的、精神的な疲労が大きすぎて結局死が待っているだろうな……それほどまでに俺は弱い自信がある」
自分で言ってて悲しくなってきた。
ではどうする?
今の俺に出来る金稼ぎは何だ?
効率的にお金を稼ぐ方法……。
薬売り? 駄目だ。
強盗? アホか。
詐欺? ………。
犯罪から目を背けよう。
(色んな意味で)安全かつ効率的にお金を稼ぐ方法……。
「それでしたら、私と契約するのは如何でしょう?」
契約か……。
スポンサーって言うのかな、資金を提供してくれるなら何か事業でも興せそうな気もするが――。
ところで今のは誰だ。
俺はバッと後ろへ振り向いた。
そこに居たのは、上質なスーツを着込んだ紅髪の美少女。
「ふふん♪」
一部訂正、悪魔のような容貌をした美少女だった。
特徴と言えば、蝙蝠のような羽、羊のような角、先の尖った黒い尾。
これでは悪魔と言うより淫魔のようでもあるが、この際そこはどうでも良い。
まずは詳しい話を聞くことにした。
窓も開いておらずドアも鍵が掛かってるのに何処から如何様に入ったかと言う疑問もあるが、悪魔なら瞬間移動とかも出来そうだよねと半ば強引に帰結を下して一番重要な事項に移ることにしたのだ。
と言うか俺は割とすんなり現状を受け入れて理解出来るもんなんだな、我ながら己の適応力に感心した。
「契約の内容を聞こう。その契約に魂は要するのか?」
ここは特に重要だ。
悪魔が魂と引き換えに願いを叶えるとも言われる存在であるからには、この疑問には早々に答えを出さねばならない。
此処を聞かずに考えるなど愚者のする事よ。
悪魔は答える。
「ぶっちゃけて言えば、結果的に魂を頂く事になります」
俺は片眉を上げた。
「結果的に魂を頂く……ふむ、含みのある言い方だがどの様な工程だ?」
「それはですね――」
悪魔の言い分はこうだ。
最近は人間社会の働きによって魂と精神の強さの間に歪みが生じてしまっている。
それ故に魂の価値を判別しにくくなっており、下手に人間の魂を狙えなくなっている。
つまりは、悪魔が要する魂にはレベルとかクラスとかがあり、低レベルで低クラスの魂ばかりを集めても意味が無いと言うわけだ。
そこで悪魔の考え出したシステムが、魔術的な門で異世界へ出張し、そこで高潔で強い魂を狩ると言う画期的 (?)な《魂奪取》システム。
中々お洒落なネーミングセンスしているな、悪魔。
さて、ここまで聞くなら 「じゃぁアンタらで勝手にやれば良いじゃん」とも思うがそうはいかず。
異世界へ門を繋ぐだけでも結構力が削がれてしまうため、その後の現地での狩猟が難しくなってしまうと言うのだ。
そこで必要となってくるのが、現地で魂を狩る存在。
仮名称として《狩猟者》と今は呼ばれているらしい。
要はこの悪魔、俺にその狩猟者の役割を持ってもらいたいのだそうだ。
なるほど。
自分達は良質な魂を狩るために嘗ての獲物を協力者とし、嘗ての獲物は魂を与えると言う工程の代わりに魂を狩る仕事を請け負うと言うわけか。
出来たシステムである。
勿論高潔で強い魂と言うのは強大な力を持つので、例えば魔法や超能力などを行使する存在もいるのだとか。
それ、危ないんじゃないの?
そもそも人間の俺に狩猟者なんて勤まるの?
「人間は脆い生き物だけど、底力は計り知れない。特に強い欲を持つ人間は、ちょっと手を施せば馬鹿にならない強さも持つんです。貴方、かなーり歪んだ精神してそうですし……私の目が正しければ、強力な狩猟者になれるかも知れないですよ?」
なるほど。
俺は欲深い方だと言う自覚があったが、まさか悪魔に歪んでいるとまで言われるとはな……。
つまり俺には狩猟者としての適正が無きにしも非ず、試すだけの価値はあると。
と言うか、そうか。
もう他に狩猟者は存在するんだよな。
「勿論ですよ。まだ運用から1ヶ月も経っていないけど、新世代の画期的なシステムとして私達の間に広まっているんですから」
驚いた事に、このシステムは開始からたったの数週間しか経っていないながら、既に悪魔達の常套手段として取り入られているようだ。
ともすれば、既に実力のある先駆者もいるという事になる。
今の時代、慣れの早い者が多いのだ。
「ちなみに、狩りに成功しなかった場合は特に罰とかはないけど死んだりすることもありますよ。 勿論現地で死ねば我々は早々に見棄てます」
うん、まぁそりゃそうだよね、危険な仕事だものね。
そして危険な仕事ともなれば、給料は如何程か気になるものなのだが……。
※この時点で、俺は金稼ぎの条件である『安全に』と言う事項を忘れている※
果たして……。
「あぁ、一回の狩りで基本料二十万円に、プラスレベルサービスをお付けして支払いますよ」
これは命を懸ける仕事の報酬として高いのだろうか、安いのだろうか。
狩りの頻度にもよるだろうが、一度で二十万円以上だと言うのなら、1ヶ月に5回あるとすれば1か月の収入は百万円と言う額を上回る事になる。
年収で考えるならば、年間千二百万円以上だ。
……普通の社会人が得る月収が三十万~四十万だとすれば、その年収である年間三百六十万~四百八十万と言う額を大きく上回る事になり、つまりこれは常識から外れた超弩級(チョー┣”きゅぅ)の破格と言うわけだ。
財産マイナスの危機をあっという間に帳消しにし、更には大きな収入を得ると言うことになる。
正に悪魔的な金稼ぎ方法。
美味しすぎて、逆に背筋が凍ってくる。
自分は悪魔に騙されているのではないかと思ってきたが、この悪魔は事実のみを伝えているのだろう。
何処かの小説で読んだが、悪魔は嘘を吐かないとも言うらしい。
その話が嘘か真かは置いといて、この悪魔の言うことは本当だと思うことにした。
ちなみにこれはあくまでアルバイトであるため、死亡保険などは当然つかない(死んだら見棄てられるもんね)。
ただし。
負傷しても狩りに成功さえすれば治してもらえるらしいので、これは言うなれば専属の兵士のようなものなのだろう。
「なるほど……中々、面白そうなもんだな。順を追って聞こうと思ってたがその手間が省けた。契約を結ぼう。要は勝ちゃ良いんだろ?」
おっと、先程自分が弱いなどと俺は言っていないぞ?
そんな事実は無いのだ、俺にとってはそれが全てなのだ。
「その通りです、貴方が勝てばお金が貰えます。では早速ですが、契約の証を示しておきましょうか」
契約の証なんてものがあるのか、一体どの様なものなのだろうか?
「はい、これ」
渡されたのは一つの指環。
銀色に輝く無装飾のシンプルな指環だ。
ふむ、これをはめれば良いのか。
「あ、貴方のものは私に付けてください」
……ん?
「私は私の持ってる指環を貴方の指にはめて、貴方は貴方の持ってる指環を私の指にはめる」
つまり、あれか。
結婚式のクライマックスたる、指環交換のようなものか。
うわっ、何ちゅう嬉しい!
(ゲフン)
何ちゅう恥ずかしい事を!
だが良いだろう、気分だけでも女性とこの様な体験が出来るというのは非常に嬉しいことでもある。
俺は理解と同時に即行動に移した。
未だ名も聞いていない悪魔の美少女に指環を与え、そして指環を与えられる。
「……これで、成立したのか?」
その問いには指環が答えた。
「ぅおッ!?」
二つの指環が突如瞬き、両者は光に包まれる。
契約の手続きは第二ラウンドに移ったようだな。
っつうか、おい、悪魔が光に包まれて大丈夫なのか?
どうやら大丈夫なようだ、俺達は光の中で指環をはめてる右手同士を合わせ、同時に指環に口付けをした。
その時、得も言われぬ快感のようなものを覚えた気がしたが決して俺は興奮してなどいない事を此処に誓おう。
しかし、悪魔の方が頬を赤らめているのは如何なものなのだろうか。
それは別に今はどうでも良い、光が収まってこそようやく契約は成立したのだったから。
見れば指環に蔦状の装飾が施され、優しく蔦に支えられた漆黒の宝石が小さく煌めいている。
「……嘘……そ、それって黒金剛石!? 私、もしかして、とんでもない奴見付けちゃった……?」
素が出てるぞ悪魔、何でお前が青ざめてるんだ。
こら尻餅をつくな、見えるだろ。(何がとは言わないが)
しかしこれがまた可愛い。
げふんっ。
ふむ、黒金剛石か。そんなのがこの世に存在するのだろうか。
まぁ現に俺の指環に嵌め込まれているのだから存在するのだろう。
スマホで調べてみたら、ありました。
ちなみに悪魔の方も同じような装飾が施されている、ただし黒金剛石は無し。
つまり蔦状の装飾のみである。
おっと、ようやく立ち直ったのかそれを示すように悪魔が立ち上がったぞ?
「こほんっ……ま、まぁともかく……これで貴方は私専属の狩猟者ですね!」
何やら凄く嬉しそうな顔をしているが、狩猟者というのは中々見付け難い存在なのだろうか?
そりゃぁ、人間数は多けれど適性と言うのもあるし、正に今全人類の中から絶賛選別中なのだろう。
恐らくコイツも幾多の犠牲の上に俺を見付けたんだろうな。
俺もその犠牲に数えられぬよう気を付けなければいけない。
それは別として何となく空腹感を感じるが、これは一体何なのだろうか?
「さぁそれでは我が狩猟者! 時間が許すのであるなら早速狩りに行ってきて欲しいのですが宜しいでしょうか!」
汗一つ、悪魔が流している。
何やら焦っているようにも見えるがー……。
むむむ、これは問い詰める必要があるな。
「その前にお前」
「はい?」
「腹減ってるだろ」
石になったように固まる悪魔、メデューサと目でも合わせたのかなー?
「――へ、減っているかどうか、貴方に言う必要は!」
ぐううぅぅぅ……。
ほぉほぉ、悪魔もお腹を鳴らすのか。
おっと赤面している、真っ赤に茹で上がっておるぞい。
見ていて面白い、ペットを相手にしているような気分だ。
「……こ……これは……」
これは、何だね?
「これはぁ……その……」
んー?
「だ、だから早く狩りに……」
止めだ。
「俺が狩り行ってる間に冷蔵庫漁るつもりだったろ」
「………」
意気消沈したように押し黙る悪魔。
って言うかおい、本当に悪魔なのか!?
コイツ、素直過ぎるぞ!?
って言うか俺はこの小娘が悪魔かどうかも聞いていなかった。
まぁ良いや、良いもの見れてるしこれは寧ろ無視すべき事である。
と言うのも……。
「………ぅ……ぐ、ぅぅ……!」
この悪魔の美少女、遂に涙ぐんだのだ。
可愛い。
じゃなく……ふむ、図星のようだな。
ならば仕方無い、このしょーもない小娘の為に何か料理でも作ってやるとするか。
昨日下準備して冷凍しておいたハンバーグのタネがある、これを焼いて味噌汁も作って一緒に食事といこうか。
まさかこの俺に、女性に手料理を振る舞う日が訪れるとはな…。
かくして、俺とこの悪魔の奇妙な日常が始まりを遂げたのだった。
―――――――データ―――――――
氏名:神条 神鵺 性別:男 年齢:18歳
職業:専門学生
クラス:一般人→狩猟者
契約者:悪魔
クリスタル:黒金剛石
レベル:?
【ステータス】
筋力:?? 敏捷:?? 生命力:??
感覚:?? 器用:?? 知力:??
精神:?? 幸運:?? 容姿:C-
【能力】
《???》
《???》
《???》
ステータスの目安は上から
|EX(規格外) |S(最高) > |A(極高) > |B(高) > |C(一般) > |D(低) > |E(極低) > |F(最低)
こんなもん?
あとは補正的なニュアンスで+とか-とかのモッドを。考えずに感じろ。
何となくで初めてみた小説ですが、如何でしたでしょうか。
まだ肝心の異世界訪問もしていませんが、次回から早速お仕事開始です!
と言うわけで二話目の調整も頃合いなので、次回予告をば。
===次回予告===
やぁ皆! 神条 神鵺だ。
財産マイナスの危機を目前にした俺の前に現れた悪魔は一体何者なんだろうな?
まぁそれは別にどうでも良いんだ、金が手に入るんなら満足だからな。
さてと、飯を食った後は早速異世界訪問だ。
最初に向かう異世界は、剣と魔法の世界!
もう異世界と言えば定番だよね。
異世界へ行って俺が狙う最初のターゲット、それは、まさかのアイツ!?
そしてソイツを狙う輩は俺以外にもいて……!?
刹那の間に混沌は加速し、やがて明らかになる狩猟者の力。
次回ソウルダッシュ〔異世界訪問〕
「クソッ! く、来るなぁぁあああああああああ!?!?」