愛メーター:零
魑魅魍魎、妖怪達が歩き回り、それを退治していく私、水王院龍騎。
それは、何てことない夜だった。
我が家は陰陽師の一家、そして私はその家の長女だ。
今は約50人がこの家で修行を積んでいる。
主な仕事は悪い霊や妖怪の退治。
今日は何時もより早く終わって、私は家でまったりしていた。
男物の着物に身を包む。いままで一度も女物の着物を着たことはない。
なぜなら、この家にはある呪いがかかっているからだ。
女が一番最初に産まれれば没落するという呪い。
それを防ぐために名前を男にし、男装や術をかけているが正直、これで防げるとは思っていない。
もちろん、口調も男にしてある。何かを思うときは『私』だが。
今日の報告書を書く。自画自賛とは思うが、自分は中々の達筆だ。
今ではペンや鉛筆で文字を書くより、筆のほうが断然使いやすいほどだ。
ペら
ぺら、ぺら
ふとそんな紙を捲る音が聞こえた。
慎重に後ろを見る。妖怪が入ってきて何か悪戯をしているのかもしれない。
だがそれは杞憂で終わった。障子が開いていて、そこから入ってきた風が本のページを捲っているだけだった。
障子を閉めようと立つ。そこで気づいた。
女と知られないために、自分が勝手に外に出たりしないために、部屋には結界が張ってあるはずだ。障子を開けようとすれば、すぐに屋敷の者に知れる。
これを誰にも気づかれること無く破るということは
(・・・・・・相当上位の妖怪)
障子を開く前に式神を呼ぶ。
「葵、出て来い。」
そう言って式を投げれば、水で出来たの蛇、葵が出てきた。
自分の中では一番強い式神、近くにある水を全て操ってしまうほどだ。
葵を障子の近くに行かせる、そして自分は力任せに障子を開けた。
しかし、障子の前には誰もいなかった。
(おかしい・・・)
思わず顔をしかめる。
葵は困ったように足に巻きついてきた。
「・・・すまない、葵。気のせいだったようだ。」
愛しい相棒の頭を撫でれば、手を伝って、首に巻きついてきた。
戻ろうと、踵を返す。
ひゅう、何かが風を切る音が聞こえる。この風に何か流されているのだろう。
今日は嫌な夜だ、早く寝てしまおう。
そう思い式を手に取る。
「葵」
戻れ、という前に、葵は式の中に入って行った。
ドポン、水の中に何かが落ちる音が聞こえた。
よく、バシャンと形容されるがそれは違う。何かが深く水の中に入ってしまったときは、ドポンと聞こえる。
振り返ると、池の水が盛大に飛沫を上げていた。
池の中には長い黒髪の子供が沈んでいた。
葵を呼び出そうにも、先ほどから怯えるように出てこない。
着物が濡れるのも気にせず、子供を引きずりだす。
長い髪がべったりと子供の顔を隠している。まったく体格にあって無い服が、水を吸って重くなっている。
「龍騎様!先ほどの音は・・・」
「いいところに来た!この子を早く治療班のほうへ!」
すぐに護衛の一人が来た。黒髪の子供を見ると驚いたが、すぐにおぶった。
「龍騎様は・・・」
「俺もついていく」
そう言い、護衛を急かした。
「恐らく大丈夫だと思います」
班長の蓬は子供から手を離してそう言った。
その姿は優雅で大人っぽい、女性の仕草だった。
蓬はもともと普通の家で育ったが、不思議な力があったため、この家に入って来た。
水王院家で修行を積むのは大体そういう奴、純粋な家系で入ってくるのは少ない。
蓬は不思議そうに首を傾げる。
「ですが、この子、本当に普通の子ですか?」
それは先ほどから自分も気になっていたことだった。
この子供が落ちる前の異変は明らかにおかしいものだった。
屋敷の者の話を聞けば、そのとき、家の結界が全て消えていたらしい。
そして、その事に誰も気づいてなかった。
他に、自分の式神だけでなく、治療に使おうとした蓬の式神も現れない。
これでは急な襲撃があったときに、対応が出来ない。
「・・・まあ、今は眠らせて起きましょう。相当疲れているようですし」
子供の顔には隈があった。すこしやつれていもいる。顔は整っているからか、それらが異様に目立つ。
「ああ、では俺は部屋に戻る」
「お疲れ様です」
部屋り、障子を閉めればまた結界が張られた。
あの子供はいったい何者なのだろうか。そればかりが頭を支配する。
布団を用意するが、汚い。なんとなく寝る気になれない。
ぺた、ぺた。
素足の音がする。蓬だろうか、あの子のことを報告しに来たのだろうか。
そう思って、障子のほうをみる。しかし、月光で移った影は蓬のものではなかった。
小さい。自分も150ほどしか無いが、その影はもっと小さい。
先ほどの子供だろうか。それならば、ふらふらさせるのは危険だ。
「・・・おい、何をしている」
できるだけ凄みを利かせて言う。
だが、子供は障子の前でピタリと止まっただけで、何も言わなかった。
「おい、聞いているのか!?」
「・・・先ほどの・・・・・・・」
やっと発した声は、見た目とは似ても似つかない声だった。
変声期が終わった、男の声。だが、ハキハキとした口調だった。
「先ほどの小娘か?」
その言葉に呆然となる。この子供は『小娘』といった。
だが、障子の向こうからは妖怪や悪霊の瘴気はまったく出ていない。
いや、妖怪や悪霊でも自分が、女、ということはめったに気づかない。
「失礼する」
子供はダボダボの服を引きずりながら、あっさりと部屋に入って来た。
「ま、ま、待て!何で・・・!」
「この程度で、わしを足止めできると?わしが近づいただけで壊れるぞ?」
子供の姿はまったく変わってない。ダボダボの服もだ。
だが、今の発言で屋敷中の結界が壊されたのはこいつのせいだとわかった。
葵を呼び出そうにも相変わらず出てこない。
「あー、そういう使い魔や式神も無理だぞ。」
気楽そうに、ニコニコとしながら言う。
我ながら、相当強力な奴を呼び込んでしまったかもしれない。
部屋の隅で構えていれば、子供は申し訳なさそうに手を振った。
「わざとじゃないぞ?近づけば勝手にそうなるんだ。すまない」
その表情が本当に申し訳なさそうで、少しだけ罪悪感が生まれる。
中身はわからないが、外見は子供なのだ。子供にそんな表情をさせていれば、誰だって罪悪感が生まれる。
それが自分最大の秘密を知っていてもだ。
「今日はありがとう、心から礼を言う」
「・・・いや、当たり前のことをしただけだ」
つい、顔がゆるくなってしまう。結局見た目だなと、頭の隅で考える。
「そ、それでだ!」
いきなり必死そうに、子供は声を上げた。見上げてくる姿が可愛らしい。
「なんだ?」
「これも、何かの縁だ、わしの嫁になってくれんか?」
これが、私と、のちのち「クロ」と呼ばれる『化物のような何か』との出会いだった。
自分で思った以上に趣味全開でした(^ω^)
サブタイトル、愛メーターで自分でもセンスねぇなと思いました。
愛メーターはだんだんとたまっていきます。