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死神の君  作者: 広瀬倫康
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平穏

4月7日。高校の、入学式。今日から、高校生活の始まりである。

「とうとう、来たかあ…」

神品の制服に見を包んだ稜は、岩船高校の門をくぐった。

幾分か緊張はしていたが、それは新生活に対するものだ。

あれから色々と考えたが、結局、稜は今まで通りに彼女と仲良くしていればいいだけなのだという結論を出した。

稜は何も知らなくてもひなに対して好感を持ったし、友達になりたいと思った。

自分の直感は間違っていなかった。だってひなはとてもいい奴だったから。

仕組まれた高校受験だって、裏口入学、と名前をつけてやったらある程度気が楽になった。

彼の特技は前向き、楽観主義、深く考え過ぎないというところ。どうにかなるさと呟きながら、今までどうにか生きてきたのだ。

何より、自分までひなの顔色を伺って接するのは彼女を深く傷つけることになる。

「…なーんにも、変わらない」

稜は張り出された自分のクラスを確認し、教室へ向った。


「あ、稜くん」

教室の扉を開けると、窓側の一番後ろにひながいた。中学のときと同じ場所だ。

「よう。おはよ」

黒板に書かれている席順。稜の席は勿論、ひなの隣だった。

「同じクラスの隣の席だなんて、凄いね」

ひなが笑った。

「ああ。すごい偶然だな」

「ね。でも良かった。知ってる人が居て。やっぱり一人じゃ、不安だし」

同じ中学からここに進んだ人は稜とひなの二人だけだった。

「俺も、ひなが一緒で良かったよ」

これは嘘ではなく、稜の本心だった。


特に何事もなく入学式は終わり、平穏に日々は過ぎていった。

ひなは部活に入るつもりもなく、勉学に集中するらしかった。

稜も部活動には興味もなかったのでそれは幸いだった。


「稜ー。課題やってきたかー?」

席につくと待ってましたとばかりに男子生徒が稜の元へ駆け寄ってくる。

「何の?」

「生物のプリント」

「やべ。忘れてた」

「お前もかよ!」

入学式から一週間。稜はその人当たりの良さによってあっという間にクラスに馴染んだ。

「ねえ、狼森さん」

そしてひなにも、徐々に話しかけてくる生徒が現れ始めていた。

「この間の数学、式の意味がよく分からなくって。ここなんだけど…」

女子生徒がひなの前にノートを広げる。

「これはね、教科書の21ページの…」

ひなは嬉しそうに、女子生徒と顔を付き合わせてノートの文字を指で追っている。

ひなも、ようやく普通の学生らしい生活というものを知り始めていた。


「あ、どうしよう…辞書、忘れてきちゃった」

稜の隣でひなが鞄を探りながら言った。

「辞書?」

「そう。古語辞典。次の時間古典だから」

「俺の貸そうか?」

「え、でもそれ、稜くんはどうするの?」

「ひなが調べた答えを見るから大丈夫」

「ええー、何それー」

ひなは笑ったり拗ねてみせたり、コロコロと表情を変える。思い返すと、初めてあった頃と比べて、彼女は随分と感情を出すようになっていた。他人と、気兼ねなく話をするということは、ここまで人の情緒に影響を与えるものなのだ。稜はそんなひなの変化を嬉しく思った。

が、心配事もあった。

「なあ、狼森さんってどうよ」

「かわいい。俺タイプだわ」

「わかる。小さくてさあーいいよなああいう子」

「名前はゴツいのにな」

周囲のうわさ話の声。稜はそれが気になっていた。

そう。ひなは、普通にかわいいのだ。見た目も仕草も声も、か弱い少女そのもので、それが男にはたまらない。それは稜にもわかる。稜も一応は男なのだ。

今まではひなの魅力がどうこう以前に、彼女にまつわる不吉な噂のせいで周囲は彼女を腫れ物を扱うように接してきたため、本人にその自覚はない。

今、ここにいる生徒たちはそれを知らない。だから無邪気に彼女の噂話に花を咲かせていられる。

しかし彼らがなんの気無しにいった一言。それがひなに無意識のレベルのストレスを与え、呪いの力となって彼らに災厄をもたらすのだ。

稜はそれが怖かった。ひなの、せっかく始まった新たな生活がまた彼女の笑顔を奪うものになってしまうことが。

「あ、やっぱり辞書いらない。ここ私、ちょっと前に予習済みだった」

幸い、ひなはまだ気づいていないようだが。


それに、このクラスにはひなを噂話の的から外すのに、うってつけの人物が居る。

「お、来た…」

「わあ…」

突然、教室の外がざわついた。廊下を歩く生徒たちが足を止め、ある一点をじっと見ている。

「わー、すっげえ…」

「ほんと…綺麗な子…」

みんな彼女の行く道を開け、彼女を見て、ため息混じりにそう呟く。それも当然だろう。入学式の時、名前を呼ばれ颯爽と立ち上がった彼女を見た全ての生徒が息を呑んだほどだった。

彼女も3組の生徒だった。名前は山辺里まりあ。透き通るような肌、艶のある黒髪。瞬きのたび、長いまつげが揺れる。同じ人間とは思えないほどの抜群のスタイル。まるでテレビやマンガの世界から飛び出してきたような、完璧な女の子だった。

「きれい…」

例に漏れず、ひなも教室に入ってきた彼女を見てそう呟いた。

すると山辺里まりあの耳に届いたのか、彼女がひなに向かってニッコリと笑いかけた。

「ありがとう。あなた、かわいいわね」

ひなは耳まで赤くなった。


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