転機
転機
「はい、自己紹介して」
教室。ズラリと並んだ机に。そこに座る生徒の視線は皆、前にある、黒板を背に立つ少年に注がれていた。
「ええ、と…新発田、稜、です。父親の転勤で、引越してきました。これからよろしくお願いします」
阿賀野中学三年B組。新たなクラスメートが加わった。
新発田稜。ごく普通の、15歳の少年だ。
「こんな時期に転校なんて珍しいね」
「もうすぐ受験なのに」
周囲がざわめく。確かに、中学三年の6月。こんな微妙な時期に県を超えての転校は奇特だ。稜本人も両親から通達された時は困惑した。
「稜。来月から引っ越すことになったんだ」
「…は?」
「お父さんね、転勤になったのよ。だから、みんなで引越し」
「え、でも…」
「急に決まってな」
「お父さんね、今度支店長になるんたって!すごい出世なのよー」
「こ、こんな時期に…俺、受験…」
「大丈夫!会社の人がね、学校も手続き済ませてくれて」
「ちゃんと配慮くれるそうだ」
「…」
「ね?稜、突然で戸惑うのもわかるけど…」
「みんなで協力して、頑張ろう」
養ってもらっている身。自分がこうして生活できているのは父親が懸命に働いているおかげであるとわかっている稜にはそれ以上不満を言うことはできなかった。
それから、稜はこれまでの友達に別れを告げ、バタバタと荷造りに追われる日が続き、満足に悲しみや寂しさを感じることもままならないまま、こののどかな田園風景のど真ん中に位置するこの街に引越してきたのだ。
「でも、なんか良い人そうじゃん」
「そうだね。休み時間、話しかけてみようか」
ざわめきの中から聞こえてきた言葉に、稜はホッと息をついた。




