第5話 自らの分身『守護霊』
ルナの周りは、見渡す限り田んぼだった。ルナは体は軽いのだが、走りだけはなぜか苦手だった。なので、バスにはとうてい追い付かない。
「やはり、一人で行くのは無理があるか・・・」
ルナの手からは血が流れ、倒れた際に足もすった。右手の自由が利かず、足も不自由なのだから、自由なところは限られている。息も荒くなり、今にも倒れそうだった。
「もう、だめか」
『オレ様がお前を自由にしてやろうか?』
ルナの後ろで声がした。ルナは驚いて振り返った。
「誰だ」
『オレ様はキサマの守護霊だ!』
守護霊と名乗る謎の生物は、ルナを見つめた。そしてまた、ルナも守護霊を見つめた。
「ふぅん、守護霊か」
『キサマのな』
ふと何かを思いついたようにルナは、ポンっと手を叩いた。
「お前の名前を考えてやろうか?」
『何を突然。ふん、まぁ別にいいか』
「じゃあ・・・う〜ん、ノアがいい」
ルナは嬉しそうな表情で守護霊をノアと決めた。ノアはまぁいいか、というような顔をした。
『ルナ、だったか。オレ様に捕まってみな』
「ん」
ルナがノアにつかまると、突然体がふわりと浮いた。ルナは突然の出来事に驚いた。その隣でノアが笑っている。
『相談があるんだ』
「私で良ければ相談にのるが」
『ああ。あと三人、お前といつも一緒にいる奴がいるだろう?』
ノアの言葉にルナはこくりとうなづいた。すると、ノアの周りにピンク、赤、緑の羽が現れ、姿を変えた。一人目はピンク。髪の色は黒で、腰ぐらいの髪が外側にはねている。ピンクの瞳がセトに似ている。黒くて長いコートに、不思議なかたちの杖を持っていた。
二人目は赤。ひのりにそっくりなポニーテール。だが、髪の毛の色は赤だった。瞳の色も紅く、純粋な目であった。普通の服に、ミニスカートだった。
最後に生まれたのが緑色。緑色の髪を横縛りにしている。こちらも、るいと同じ瞳の色で、新緑の瞳だった。緑色のドレスを着ていた。
『こいつらに似ている人間がいるだろう? そいつに、こいつらを渡してくれ』
「私はかまわないが」
『すまない。さて、行くか』
ルナと守護霊たちは、青少年の家に向かった。
しばらくいくと、ルナはノアに話し掛けた。
「ところで、ノア。お前は男なのか?」
『さあな』
「ふ〜ん」
ルナは正直、驚いていた。なぜ、自分の性別をはっきりといわないのか、と。
『まぁ、キサマがなんと思おうが、オレ様には関係ないがな』
「これから、いろんなことがあるかもしれないが、その時はよろしくな」
『ああ』
「つきましたね〜」
「なんだかんだ言って、ついたね!」
「さぁみんな、荷物を降ろしましょう」
セトは眠そうに立ち上がり、荷物を降ろし始めた。ひのりもるいも荷物を降ろし始めた。そんな中、ひのりはつぶやいた。
「アオイ、くれば良かったのにねー」
「そうね。あんなにたのしみにしていたし」
「アオイ・・・?」
「あ、セトは知らないよね。アオイって子」
「友達になれますかね〜?」
「多分なれるよ! 優しい子だから、あの子は」
「一度、見てみたいですね〜」
「今日は遅れてくるかも知れないって」
ひのりは遠くを見つめる顔をした。そして、こうつぶやいた。
「来る勇気が・・・あるかな?」
ひのりのつぶやきは、セトたちには聞こえていなかった。ひのりがこういうのには訳があった。アオイもやはり前の学校でいじめられていた。ルナと同じ学校で。
「さ、いこっか!」
「はい!」
「おーい、はぐれるなよー」
先生の声が聞こえると、みんなは一列になって並んで歩いた。セトは、初めて見る景色に見とれ、左右を繰り返してみている。そのうち、となりの花園小学校がばらばらに行動するのが見えてきた。
「あ〜ら、弱虫ルナちゃんが転校していった葉巻学園だわ〜」
「貧乏くさ―い。キャハハハ!」
と、わざと葉巻学園に聞こえるように言った。ひのりとるいがその言葉を聞き、ムカッとした。ただ、セトだけは、なぜか花園小学校に見向きもせず、周囲の景色に目をやっている。
「ちょ、セト、むかつかないの?」
「な〜に〜が?」
セトは悪口を言われていることに気づいてはいない様子だった。
「向こうの小学校! 悪口言ってるんだよ?」
セトはその言葉を聞いても、ただただ周囲を見つめている。そして、微笑んだ。
「楽しく過ごそう?せっかくここにきたんだから」
その言葉で、ひのりもるいも次第に顔が緩んだ。
(せ、セトには人を笑顔にする効力があるのかな? 不思議・・・)
ひのりはふと思った。
ばたんっ!
セトたちの後ろでドアが閉まる音がした。真っ黒な車が見えた。その車からは、綺麗な金色の髪、温かそうなフード、そして銀色に光る斧だった。
「おくれたのさ! ごめんなのさ! あっ、はじめましてなのね、こんにちは」
「こここんにちは・・・」
セトは、太陽に照らされ不気味に光る斧に怯えていた。
「あ、この斧はよほどのことがない限り使わないのさよ? あたしは刹那 アオイ! よろしくなのさ〜!」
「少しびっくりしました〜。私は如月 セトです〜。よろしくです」
「よろしくなのさ〜。これからはあたしたち、友達なのさ! ところで、ルナは?」
「後ろだわ」
「あっ、ルナ!」
ひのりとるいが後ろを見ると、ルナが歩いているのが見えてきた。バスから見た様子ではなく、もうすっかり回復をしていた。
「あいつらでいいんだろう、ノア?」
『ああ。頼む』
ルナは、セトたちのところに走った。セトはのんきに手を振っている。ひのりはルナの元に走り出した。久しぶりに再会するみたいに。るいとアオイも手を振った。
「ルナー! 着くの早いね」
「ああ、こいつらのおかげだ」
「だ・・・れ?」
「この赤い奴をひのり、ピンクをセト、緑をるいに、だそうだ」
「へぇ、名前は?」
「私のは自分で決めたが、お前らのはまだだ」
「名前、決めようね! とりあえず中に入ろう」
ひのりの一言でみんなは中に入っていった。ただ、セトはこんなことしか考えていなかった。
(お昼はな〜にかな?)