第4話 精神
走っているひのりたちの目の前に、バスが見えてきた。その前には、セトたちが宿泊する予定の『青少年の家』が見えた。バスの中の子供たちは前を気にしながらも後ろも気にした。一人がひのりとルナを見つけたからだ。
「ひのり、すごーい!」
「はしってるよ! バスより早くない?」
バスの中の人たちはひのりを見て感心する。
ひのりはあいかわらず楽に走っている。そのとき、ルナが何かを思い出したかのようにひのりの肩をつかんだ。ひのりは笑いながら振り向いた。
「どしたの、ルナ」
「今まで、どうもありがとうな」
「うん、もうちょいだよ」
「いや、今度は私の番だ」
ルナはひのりからひょいっと跳び降りた。そして、自分の体重と同じぐらいのひのりを片手で軽々と持ち上げた。そのあと、両手で(お姫様抱っこの形になったが)支えた。
「ちょ、ルナ?」
「少し痛いかもしれないが、お前なら耐えられる。バスの上に飛ばすぞ」
「あ、ちょ、まって!!!!!」
ひのりが叫んだときにはもう遅かった。ひのりはすでに飛ばされていたのだ。からだが切り裂かれるような痛みに加え、いつ落ちるかわからない恐怖も加わっているのだから、怖さは倍増したはずだ。
ひのりは見事にバスの上に着地した。あまり痛くも無く、ふわりと着地できた。ルナの投げ方が良かったのか、ひのりの着地が良かったのかはわからないが。
「ルナ! ありがとう!」
「ああ、それは……こちらの、セリ……フだ」
そういい残して、ルナはゆっくり倒れこんだ。
「え。ル、ルナー!?」
ひのりは叫んだが、その声が届くことは無かった。ひのりも向かいくるかぜに耐えられなくなったのか、やがて座り込んだ。すると、セトが窓から手を伸ばした。
「ひのりちゃん、こっち!」
「あ、ありがと、セト」
ひのりはかなり息が切れていて、立っていられないほどになっていた。
「すごいですねぇ、ひのりちゃん〜」
「ほんと、いつの間にあんなふうになったのかしら?」
るいが間をおき、セトに続いて言った。
「もっと、昔はすごかったでしょう?」
「あ、あ、時速、100、キロ……ごほっ、」
そのことを聞き、セトは驚いた。
(じ、時速100キロですか……? は、はやいぃぃ!)
「ひのりちゃんは、超人並みの人よね」
るいの言葉に、ひのりはため息をつく。
「あ、あ、こんな、能力、はぁっ、いらない、や。あ、たって、化け物だー、とか言われる、だけだし、ごほっ」
「わ、私はそんなこと無いと思うです……」
セトがポツリと、遠慮した様子でつぶやいた。
「せ、セトぉぉぉぉぉ! ありがとう、大好き!」
ひのりは、うれしくてセトに抱きついた。その様子をクラスのみんなが見ていて、セトは顔を真っ赤にして我慢していた。
「ところで、ルナちゃんは後ろよね」
「うん・・・大丈夫かな?」
「あ、ルナちゃん、立ち上がってる!」
後ろを見てみると、ルナはゆっくり腕を抑えながら立ち上がった。そして、ゆっくり歩き出した。セトたちは、いや、クラス全員はルナの精神力に感心していた。