第3話 特殊能力
7時20分。出発の時間になってもルナは来なかった。
「ルナちゃん、来ないわね……」
るいがぽつりと呟いた。
「うん、さっき立ち寄ったんだけど、したくをしてないみたいで……あたし、ルナを見てくる! 先生に言っといて、るい!」
ひのりは寮のほうに走り出そうとした。しかし、るいに止められた。
「まちなさい、もうすぐ行くのよ!」
「嫌だよ! るいは、ルナがいなくたっていいの!?」
その言葉に、どうにも言い返せなかったるいは、ひのりを寮のほうに行かせた。
「……わかったわ。早く来なさいね!」
ひのりは頷きながら、いそいで寮のほうに戻った。
「ああ、おわんねぇよ、したく」
ルナは、まだしたくが終わっていなかった。半分ぐらいまでかばんに詰め込んだがそれ以上はもう覚えていない。何しろ行かないつもりだったから、持ち物の一覧表を捨ててしまった。だから、覚えている程度のものしか詰めていない。
「う……くそっ……行きたくねぇ」
「ルナ!」
声とともに玄関のドアが開いた。ひのりが中に入ってきた。ルナはその姿に驚いていた。
「な、ひのり!? 先にいってろって言ったろ!」
「あたしのことなんかいいの! ルナが心配で来たんだよ? ね、あたしも手伝うから!」
ひのりはそういって、笑顔でルナの隣にちょこんと座った。そして、自分のかばんから持ち物の紙を取り出して、ルナの持ち物を乱暴に確認している。しかし、ルナの持ち物をみて声をあげた。
「う〜ん? あのさ、なんで写真持ってんの?」
「はっ、えっ! なんでって……」
ルナは顔を真っ赤にしてうつむいた。その写真はクラスの男、「泉 大河」だった。ひのりがうきうきしたような顔つきでルナに聞いた。
「す・き・な・ん・で・しょ!」
「ちちちちちちがう! 決してそんな感情ではない!」
ルナの表情を見ると、ひのりは少しだけからかって見たくなった。
「じゃぁ聞くけど、なんで写真があるのかなぁ〜?」
「う……、お、遅れるぞ! もう8時だ!」
ルナは今度は体中真っ赤にして否定した。
「およ、もうそんな時間かい! さぁ、急ごう!」
「……ありがとな、ひのり」
「もう、お礼なんていいのに! ……できたよ! 行こう」
ひのりはルナのかばんをルナの首にかけ、立ち上がった。
「もういっちゃったでしょ、みんなもバスも」
「すまない」
するとひのりは待ってました、といわんばかりににっこり笑った。
「走れば追いつくでしょ!」
「・・・無理を言うな」
ルナは嫌な顔をして言った。ひのりは相変わらずニコニコしている。40キロも走り続けることは、人間には無理がある。
「あたしの背中にのっかっていいから!」
「・・・お前には、無理だ」
「まぁ、いいから」
ルナはおとなしくひのりの背中に乗った。ルナはクラスで軽いほうだ。同じぐらいの背の高さの人でも近くの場所なら簡単に運べるのだが・・・。今は違う。40キロぐらいもの距離を走って行くのだから。
「じゃ、いっきまーす! ルナ軽いし、何分ぐらいかな?」
「・・・安全第一だぞ!」
ひのりは振り向いて、にこっと何も言わずに笑った。そして、ルナの寮のドアを乱暴に開け、一直線に走った。その速さは新幹線をぬきそうな勢いだった。
「おまえ……超人だな。走りの」
「ふぉっふぉっ、走りなら誰にも負けないのだよ、ルナ君」
「すまないな、余計な手間をかけて……」
「いいの! あたしはあんたに感謝してるんだ。だって、最近なまってた足が活躍できるんだし」
ひのりはスピードを速めているわりには平気な顔で話していた。
しばらく走りながら話していると、前のほうにバスが見えてきた。