第1話 友
「如月……さんだよね?」
「ん? あ、えっと……」
「あ、ごめんごめん。あたし、音羽ひのり! よろしくね!」
セトは突然顔を突き出してきたひのりに驚いていた。ひのりは黒く長い髪をポニーテールに縛って、赤いカーディガンを羽織っていた。なんとも存在感が強いイメージがした。
「こんにちは、わたしは飛鳥ルナ。こいつは馬鹿だから気にしないでいいぞ」
ルナと名乗る少女が、ひのりを指差した。
「なんでなのぉ! セトちゃん、ルナだって気にしなくていいよ!」
「わたしは本当のことを言ったまでだが?」
ルナはあくまでも言い返す。
「くっそ〜……」
「はいはい、けんかはお止め。私は青菜るい。この人たちはドタバタコンビって言われるほどの仲なのよ。うふふ、よろしくね」
ひのりとルナはドタバタコンビ、るいはお姉さん的存在、なのだろう、セトから見ると。そのうち、ひのりが口を開いた。
「あ、如月さんっ! セトってよんで良い?」
「はい! もちろんです!」
セトは、待ってました! と言わんばかりに、目を輝かせた。
「じゃあ、セト。あんた、いい所に此処に来たね! あした、宿泊体験学習なんだよ!」
「ああ、そうだったな。よかったら、いっしょに班をつくらないか?」
「うん、いいわね! セトちゃんもいっしょがいいわ」
セトは嬉しかった。友達が一人もできなかった自分が、1日目でこんなにも友達ができるなんて思ってもいなかった。しかも明日の宿泊体験の班に入れてもらえるのだ。こんなに嬉しいことなんて、無い。
「あ、あ、その……」
「ん?」
3人は声をそろえて言った。セトが恥ずかしそうに下を向いて言った。
「あ、ありがとうございます……」
「だって、あたしたちは友達だよ!」
「そうだな、友達だ、セトは」
「む! あたしのセリフ、真似したな〜!」
ひのりは頬を膨らませた。
「貴様が私の言いたいことを先に言ったんだろうが!」
ルナも負けじと言い返す。その光景を見て、セトは、友達っていいなぁと思い始めた。るいはいつものことだと思い、笑いながらため息をついた。