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第17話 寂しいこと

「私は! ただあの子の生体を調べたいだけよ! ・・・あなたには、私の何もわからないわよ」

 るいは、何かが気に入らなかったらしく、ぷいっと後ろを向き、ひのりから目をそらした。ひのりは、少し言い過ぎたと思い、悲しそうに呟いた。


「ごめんね、るい。でもね、まだセトは転入して来たばっかりなんだよ? 差別はダメだよ。仲良くしよ?」

 そのうち、ふと何かを思ったのか、ゆっくりとひのりを見つめたるい。

「いいわ、セトちゃんの生体実験を止めても良いけどねぇ? その代わりに」

 ひのりは、急に態度が変わったるいを、どこか変だと思った。ひのりの背中に、寒気が走った。


「その代わり・・・何? セトちゃんが救われるなら、あたしはなんでもするよ?」

 ひのりは、それなりに覚悟が出来ているようだ。


「いい覚悟だわ。友達のためには命をも賭ける。いいわねぇ。じゃあ、あなたが如月セトの代わりに、生体実験用の生け贄になりなさい。さあ、手を貸しなさい」


「・・・言うと思った。覚悟は出来てる。いいよ」

 ひのりはるいに腕を差し出した。るいはその手をぎゅっとつかみ、リュックサックから、緑色の液体の入った注射器を取り出した。


「この液体はね、メタミドホスとパラチオンと青汁をよ〜く混ぜあわせたものなのよ。これを注射して、どんな反応が出るか見るの。どう? 素敵でしょう」

「あはは・・・なんか怖いな、残酷だな。・・・っ!」

 ひのりが声を上げたときには、既に注射器が腕に刺さっていた。緑の液体は、ひのりの体の中に入り、代わりに注射器には真っ赤な血が入っていた。


「大丈夫よ。あの液体を取り除く薬は、卒業式が終わったあとにあげるわ」

 卒業式は2日後。それまで、緑の液体はひのりの体中をまわっている。ひのりは死への恐怖、そして自分の体の中を駆け巡る液体のせいで、倒れこんでしまった。

「ごぼっ・・・るい、セトは救われるんだよね・・・?」

「約束は守るわ。セトちゃんには手を出さない」

 メタミドホスやパラチオンはかなりの有毒物質だ。このままでは、ひのりの体は何時間も持たない。


 苦しそうにもがいていたひのりは、それを我慢して立ち上がり、るいの手を握り締めた。るいは、ひのりの行動に慌てた。


「寂しかったんだよね。構ってもらいたかったから、こうやってやってるんだよね。ここにいてあげるから、今だけ泣いていいよ。ほら、おいで」


 ひのりは、るいをそっと抱き寄せた。


「やっ、ちょっと、離しなさい! 私は寂しくなんかないわよ! 構ってもらいたくもないわよ!」

「嘘言わない! スキンシップ、スキンシップ!」


 ひのりはそう言った後、目をつぶり、布団へと倒れこんだ。緑の液体が効いてきたのか、ぐったりとしていて、まるで死体のようだった。


「私が間違っていた・・・。人間の体で実験なんて、バカなことを考えるんじゃなかった! 私は、何を考えていたの・・・? 最後には・・・最後には私なんかに優しくしてくれたのに!」


 るいは泣いていた。小さく、音も立てずに。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! あぁ、神よ! どうかひのりちゃんを生き返らせて・・・!」

『よかろう、汝の願い、この私がかなえて差し上げよう』

 その声にるいが振り向くと、パンチョが立っていた。


『叶えてやっても良いわ。ただし、条件があるわ。もう友達を傷つけないこと。守れる?』

「守れる! 絶対守るわ!」

 るいは大きく頷いた。パンチョは難しい呪文のような言葉を唱え、息を2分間ほど止めた。すると、ひのりの体が突然ぴくっと動き始め、更には立ち上がることもできた。



「あれ? あたし、死んだはずじゃ・・・」

「ごめんね、ごめんなさい、ひのりちゃん! っ、絶対にもう誰も傷つけはしないわっ! っく、だから・・・」

 るいは必死になって泣きながら謝った。ひのりはるいの頭をなでた。


「あたしはるいを許すよ、ね! よしよし、泣いた後は必ず笑いましょう! はい、に―――!!」

 ひのりは笑って見せた。るいも目を紅く腫らして小さく笑った。


「よし! みんなを起こそう!」

「ええ、そうね」

 ひのりは再びセトの上に乗った。その衝撃でセトは「何!?」と言って飛び起き、上に乗っていたひのりは吹き飛ばされ、頭をぶつけた。


「ふん、ざまあみろ」

 ルナは鼻で笑った。

「なっ・・・ルナ! あんたにもアタックするぞ!」

「何!? 来るな!」

 ルナは、ひのりと反対の方向を向いた。ひのりはルナの上に乗ろうとしたが、ルナに蹴飛ばされ、あえなく失敗に終わった。

「ふん、バーカ、バーカ」

「ぎゃぁぁぁああぁぁ! 言うなー!」

「バーカ、バーカ、バーカ」

 ルナはバカと連呼した。ひのりは狂ったように頭を抱えて叫んだ。そんな中、セトは再び寝始めた。るいは、ただ笑ってみていた。

(やっぱり私は寂しかったんだ。この居場所が、欲しかったんだわ)


どうやらかなりの間更新していなかったようです。


申し訳ございません! 


なんとか17話目・・・! まだまだ長くなりそうです。


では、また次のお話で。

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