第13話 呪文めく言葉
深夜0時数分前。
窓から見える景色は暗く、もう町のビルなどは薄っすらとしか見えない。星や月が地上を照らす。
『太陽ほどじゃねえが、月も明るいぜぇ』
ノアはパンチョと並んで歩いていた。ここは明かりの付いていない、昼は太陽の、夜は月の明かりだけを頼りにして歩く、という廊下だった。
『そうね、綺麗だわ』
『オレ様はもう、綺麗なんて言う感情は忘れちまったな』
パンチョの言葉に即答すると、ノアは月明かりのあたる地上とそれを照らす月を交互に見つめた。
『久しぶりに、綺麗なんて思っちまった』
『いつもこういう風に素直だと可愛いのにねぇ、フフフ』
パンチョも月を見つめた。すると、ノアがパンチョに手招きをした。ノアはそっと窓を開け、外に出た。そして、座り込んだ。
『お前も座れ』
『うん』
パンチョもノアの隣に座った。
風は、前の季節、『冬』と比べてみると、暖かかった。今夜はあまり風は強くなかったが、それでも冷たく感じるのだから、風の強い日はもっと冷たいのだろうか。
『私たちの故郷、聖界には四季なんてなかったわね』
『だな。人間界はとてもと言っていいほど美しい。しかし、せっかくの自然を人間が壊そうとしているのはなぜだろうか?』
『少なくても、るい達じゃないわ』
『フ・・・お前は昔から人を信じ抜くタイプだったなぁ?』
ノアは微笑みながら言うと、今度は目の前にあるカヌー場を見つめた。水面に映り、揺らぐ月がひときわ輝いて見えた。
『お前にだけオレ様の秘密、ちっと教えてやろう』
『?』
ノアはパンチョを近くに寄せ、そっと耳打ちをした。
『・・・まあ、喋り方とかをみれば男ね』
『つーかさ、守護霊の中でオレ様だけ男だと居辛いんだよな。だから、他のやつにはオレ様は女だと言っといてくれ』
ノアはパンチョに手を合わせて頼んだ。その様子を見て、パンチョは快く頷いた。
しばらく2人は水面を見ていた。
突然パンチョはノアの手を引き、外に飛び出した。
『な、何だよパンチョ?? 急に』
『るいたちの部屋は二階よ。行くわ』
二階の方面に向け、2人は飛び立った。
二階のセトたちの部屋は、寒いのに何故か窓が開いていた。風に純白のカーテンがなびいていた。るいたちが動く様子を見て、まだみんな起きている、とパンチョは感じた。
「パンチョ・・・?」
るいが目覚めた。すると連鎖的にみんなも起きた。だが、何故かセトは起きない。それどころか動く気配すら感じられない。
「セトちゃんは熟睡なのさ?」
「だな。疲れが出たんじゃないか?」
「カヌーとか漕ぐのは疲れたなぁ、ははは・・・」
ひのりたちは眠くないらしく、かなりの時間喋っていた。その声はかなりうるさかったが、セトは動かない。実は、そこにセトの姿はなかった。布団を丸めて、人間がいるように見せかけていた。
◎ ◎ ◎
セトは青少年の家の外で、楓たちを待っていた。背伸びをしたりしながら、気楽に。
「や、やっぱりいるのね」
「如月セト」
「やっと来ましたかぁ。実は、お話ししたいんですよ〜」
セトは、笑いながら2人の手を引いてカヌー場に腰掛けた。そして、楓の目を見つめた後にカナの目を見つめた。楓とカナに寒気が走った。
「仲良く、楽しく過ごせたら、どんなにいいかと思いませんか〜?」
「「・・・は?」」
2人は声を合わせて言った。
「そりゃ、楽しく過ごせたらいいと思うよ」
「でも、何でかいつも悪口が・・・」
言い終わった後、つい本音が出た2人は口を抑えた。セトはうんうんと頷いた。
「仲良しが一番。それはどんなに人間の心が闇に支配されようとも、変わらないことなのです。2人はとっても素直ですね〜」
セトは天使のような笑みを浮かべた。その様子を見て、楓とカナもいつもより穏やかな顔になった。セトはもう一言付け加えた。
「いかなる時も、いかなる場合でも、友たちを信じ抜き、見捨てないことを私は願い続けます。やがて訪れるかもしれない朽ち果てた未来を覆す、第一歩の前進になるならば・・・」
セトの言葉は、どこか呪文めいていた―――。
早く更新するといっていたわりには遅くなってしまい、申し訳ございません!!!!!!
次の更新は未定です(遅くなるか、早くなるかすら分かりません)。
では、読者様(いないと思いますが)。また!