第9話 もう一つの影
「そろそろ部屋に戻るぞー」
先生の声が聞こえると、みんなはカヌーを片付け、部屋に戻った。
そんな中ひのりは、一番後ろに行き、頭を抱えていた。
(ああ、あのセトは見間違えだったんだ・・・! あたしは疲れてるんだ、あは、あははは・・・)
そんなひのりの様子を、セトは不思議そうな顔をして見つめていた。他の学校も、ひのりの様子を、なにか面白い生き物を見るような目で見つめていた。
「今日はどうしちゃったんです? ひのりちゃ〜ん」
「(あ、いつものセトだ・・・)ううん、なんでもないよー!」
『ひのりちゃん、疲れたんじゃないのかな?』
みんなが不思議そうにひのりに声をかける。ひのりはわざと冷静なふりをしていた。
「頭がショートしたんじゃないのか?」
「なっ、ルナー!!」
ルナが言うと、ひのりはルナを追い掛け回した。先生もあきれた顔でみている。花園小の楓とカナはいつものように悪口を言っているようだ。
「セト・・・あの話なんだが」
「はい・・・」
「あいつらの心の闇は、きっとお前にしか砕けない」
ルナはそっと言った。まるでそのことを確信しているかのようだった。
しばらく間をおいて、セトが発言した。
「な・・・んでですか?」
「・・・詳しくはリーフに聞くがいい」
「あ、はい・・・」
話が終わると、みんなが先に行っているのに気がついた。二人は走った。
しばらく行って、みんなに追いついた。
「はぁ・・・もえ・・・さん、萌、さん」
「あら、セトさんどうかなさいましたんですの?」
「お願いがあります。その、さん付けは・・・止めてもらえませんでしょうか?」
「わたくしは構いませんわ。セトちゃんでいいのでしたら、そう呼ばせていただきますわ」
萌は不思議そうにおもった。
なぜ、セトさんと呼ばれてはいけないのか、と。
セトは『セトちゃん』といわれると、とても嬉しそうな顔をした。口調もさっきまでは怖かったが、元のようにゆっくりになった。
「ありがと〜、萌さん〜♪」
セトは微笑んだ。
「い、いえ、ただ、ちゃん付けにしただけですわよ―――?」
「い〜んですよ〜、それだけでも〜」
「お、おーっほっほ! 当然のことですわ―!」
萌は苦笑いをした。
「今日の夜ご飯は、自由だぞー。班の人が全員そろったら、食べなさい」
「「「「「へーい」」」」」
葉巻学園の人々は、班ごとに並んでいすに座った。他の班が食べ始めているのに対し、セトたちの班は、未だに食べ初めていない。まだセトが来ていないからだ。
「セト・・・何処に行ったんだろ?」
「少し待っていましょうか」
その頃、セトは―――
「あ、楓さん・・・?」
「なっ、何であんたがこんな所にっ?」
セトは楓たちのほうに行っていた。楓が下を向いているときに、ひょこっと顔を出したので、楓はかなり驚いていた。
「あ、驚いちゃってますか〜? 食事中失礼致しますです〜」
セトは手を腰に置いて、笑って見せた。そして顔が豹変し、こう言った。
「小波 楓、要 カナ。もし良ければ、深夜0時に外に来てもらえるとうれし〜なぁ〜。あはははは」
眼の色は変わり、狂ったように高笑いをしているセトの前に、困ったように見つめあい、うなづきながら苦笑いをする楓とカナがいた。
「あ、ではそろそろ戻りますね〜」
セトは目の色を戻し、みんなの待つほうへと戻っていった。その後ろ姿は、なぜか小刻みに震えていた。
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「あーっ、セト、遅いぞぉ!」
ひのりが叫んだ。
「あ、ごめんなさい〜。遅くなってしまいました〜」
「どこに行ってたのさ?」
「ん・・・ちょ、ちょっとトイレに行ってきました〜」
セトは一瞬、困ったような顔をした。が、うまくいい訳をした。
「そーか・・・じゃあ仕方ないのさね! さ、食べるのさっ」
そう言ってアオイは立ち上がり、『バイキングコーナー』へと向かった。それに続きセトたちは、続々と立ち上がった。
バイキングコーナーには、いろいろな物が並んでいた。野菜、肉、魚、デザート・・・学校の給食ではめったに出ないものが目の前にあるのだから、セトたちは目移りしていた。
「な〜に〜食べよ〜かな?」
「たーっくさんあるね!」
「夢は大きく、全種類食べますよ〜! あははは♪」
セトの目がキラキラと輝きだした。次々と皿に盛り付けていく。いったん席に戻り、色々なものを一度に口に含み、飲み込む。この動作を繰り返していた。
食べ始めてから、30分が過ぎた。
「あと・・・このとうもろこしだけです〜!」
あっという間に、とうもろこし以外の食べ物を平らげた。
「とう・・・もろこしっ♪」
そう言ってとうもろこしを手に取った。そのときだった。
「おーい、そろそろ部屋に戻るぞー」
先生の声が聞こえた。セトはその体勢のまま、じっと立っている。
しばらく間を空けて、先生が言った。
「如月・・・お前、そんなに大食いだったか?」
「あうっ・・・あととうもろこしだけだったですのに〜・・・」
そう言って半べそをかいているセトは、もう既にとうもろこしをほおばっている。
そんなセトを置いて、他のみんなは『ごめんね、セトちゃん』と思いつつも、行ってしまった。
「あう〜・・・待ってくださいよ〜」
セトもとうもろこしを口に含み、半べそをかいたまま、みんなを走って追いかけていった。その様子を、他の学校が高らかに笑っていた。
「あははは! 無様な姿だねー!」
楓は言った。その言葉を、その場に残った一つの影が聞いているとも知らずに―――。
読んでくださり、ありがとうございます。
『いつもより、読みにくくなってしまった』
と、反省してます。
これからはちょっと書くのが遅くなります。
これからもよろしくです〜