プロローグ 葉巻学園
「ここが私の新しい学校、ですよね〜?」
とある学園にのんび〜りとした女の子が転校してきた。彼女の名は如月セト。そののんびりした性格のわりには、わりとしっかりした名前だった。
ここは、葉巻学園。にぎやかで、あきない学園として有名だった。セトは、両親の仕事の都合でこの学園にくることになった。これまでも何度も転校をくりかえし、友達が全くと言ってもいいほどできなかった。
今度は友達ができるかと、楽しみにしていた。
「……中に入っても、よろしいんですかね?」
セトは一人でぶつぶついいながらもさっさと靴を脱ぎ、どんどん中へと入っていった。
靴箱を抜けると、そこは真っ白に染まった廊下。
広々としていた。ほかの教室も賑やかだったが、近くの教室からはもっとにぎやかな声が聞こえてきた。5年生の教室からのようだった。セトの入るクラスだ。セトは歩いて5年生の教室の前まで近づいた。
「よし、みんな、新しい友達だぞ!」
先生がちらっとこっちを見た。セトは緊張して、足が震えていた。
「えーっ、だれだろう?」
「はいってこい、如月!」
「はいー……」
セトはゆっくり教室に入っていった。そして中央のところまでくると、ぴったりととまって正面を見た。きれいなその、紫色の瞳でクラスのみんなを見つめた。
「え〜っと、如月セトです。転校、転校の繰り返しで、友達があまりできなかったんです。この学園には少し長くいられるとおもうんで、その間だけ、ここで、仲良くさせてください〜」
セトは、今までより少し早い口調で話した。だが、とても緊張していた。みんなと友達になれるかが心配で、心配でたまらなかった。みんながセトを不思議そうな目でみているのだった。
「よろしくしてやってくれ。如月に質問は?」
「はいはーい、質問じゃねぇんだが、言うぜ。緊張しなくたっていいぜ! 別にいじめたりしねぇよ!」
「そうだよ! これからよろしくね!」
とたんに教室中が拍手と歓声に包まれた。セトは真っ赤になってうつむいた。しかし、その顔は笑っていた。今までに見せたことのないようなにこにこした笑いだった。
「ありがとう〜! 私はゆっくりすぎてついてこれないかもだけど、よろしくお願いします〜」
セトの楽しい学校生活は今、幕をあけた。