目覚め
キキィィィィィィ!!!!!!!!!
ドンッッッッ!!!!!!!!!!
あれ……痛く、ない?
鼻を刺す薬品臭。
目を開けば広がる穢れを知らない白。
「ゆうっ!?!?あぁ!?!?先生!!!!」
「お…母さん…?」
「ゆう?!喋らなくていいわよ!!
先生!!!!先生!!!!」
そんなに叫ばなくたって、私はもう
死なないし。目を瞑らないから。
お母さんが狼狽えている。
「あぁ…よかった…
酷い怪我もしていないのにずーっと
眠っていて…本当によかった…」
目に涙を溜めて小さな声で呟くお母さん。
ごめんね。お母さん。
でもね、空が守ってくれたから。
「お母さん…空が…守って…くれた…
空は…大丈夫かな…?」
空の名前を出した瞬間。
お母さんの表情は凍りついた。
真っ青な顔で。何か言おうと思っても
言葉が出てきていない。
「………お母さん?」
どうしたの??そんなに俯いて。
私は生きてるから。大丈夫だから。
顔をあげてよ。
「空くんは……死んだの。」
お母さんが言葉を発した。
その目は何かを諦めたようで。
私は。意味を理解できなかった。
「…………死んだ??………空が?……」
私は嘘をついていると思った。
「そんな訳ないじゃん。お母さん。
だって、空と一緒に明日CD買いに
言ってたし。空は転んでも叩いても
平気だし。あんなに笑ってるけど、
すっごい強いし……」
お母さんはまた俯いている。
ここから見ているとお母さんの顔は
見えなくて。
見えるのは、お母さんのつむじと
零れる雫だけ。
「ねぇ…嘘って言ってよ…
嘘でしょ……ねぇ……お母さん…」
早く顔をあげて笑ってよ。
嘘だって。騙されたでしょって。言ってよ。
でも。お母さんは顔を上げなかった。
「…………ははっ」
私の口から乾いた笑いがこぼれた。
「お母さん。そんなの騙されないから」
私は腕に刺さっていた点滴を全て毟った。
血が筋になって白のシーツを穢した。
でも気にしない。
悪い冗談を種明かしするにはこれぐらい
きにならないよ。
「ゆう?!やめなさい!!!!!
何してるの!?血がっ……!!!!!!」
「空が死ぬわけないよ。
あたしの友達だよ?
冗談もそこまで通すとつまんない。」
足に巻きつけてあった包帯もガーゼも
酸素マスクも不必要なものは全て外した。
「空の部屋。どこ??」
「ゆう!?やめて!!!」
「どこ??」
「空くんはもういないの!!!!!!」
もういいや。お母さんは頼りにならない。
私はお母さん無視して病室を出た。
重たい体。痛む足。
でも、気にならない。
「空…空…空ぁ!?!どこ!?!?」
私は叫んだ。周りの目は気にならない。
腕から血が止まることなく流れるけど
全く気にならない。
「ゆうっ!!!!!!やめなさい!!!!!!」
追いかけてきたお母さんの手を
強い力で振り払う。
でも目覚めたばかりの私の力は弱かった。
すぐにお母さんに捕まってしまった。
「離して!!離せぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
離せ。離せ離せ離せ離せ。
「ゆうっ!?!?やめて!!!!」
「離せぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!
空ぁ!!!どこ!?!?どこぉぉぉ!?!?!???」
もう何が何だかわからなかった。
お母さんだけじゃなく。
看護師さんもお医者さんも
みんなして私を止める。とめないでよ
「空ぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
いい加減出てきてよ。
空。
「ゆうちゃん!?!?!?!?」
聞き覚えのある声。
この声は…空のお母さん。
空に勉強を教えて貰いに家に行った時。
ケーキをくれたおばさん。
その時に見た優しい笑顔はなかった。
泣き腫らして赤くなった目で
私を見つめていた。
「おばさん…空は??
空が…いないの。おばさんなら
知ってるでしょ??どこにいるの??」
私が掠れた声で尋ねたら
おばさんは押し黙ってしまった。
そしてお母さんのように俯いてしまった。
「ねぇ…おばさん…教えて…」
するとおばさんは顔をあげた。
そして無理に作った笑顔でこう言った。
「空は、もういないの」
「………おばさん…?何言って…」
「ゆうちゃんを守ってあげたのね。
おばちゃん。嬉しいわ?」
おばさんは泣いていた。
笑っているけど確かにないていた。
「女の子を守って死んだのよ。
死んだのは悲しいけれど、
おばさんの誇りの息子だわ!!」
おばさんはそういったけれど。
その目は死んでいた。
愛しい息子を失った悲しみは
計り知れないほど深く冷たいものだ。
子供なんて嫌いな私でもわかる。
私の…せいだ……
私が空をこの世界から奪った。
「…私の………せい……だ……」
ぼそっと呟いた。
「私のせいだ……
私のせいで空は………私の……」
「ゆう!?しっかりして!!!!」
でも私の精神力は限界だった
「私のせいだぁぁぁぁ!!!!!!!!
空ぁぁぁぁぁ!!
嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!!私の!!!!っ」
私は絶叫した。喉が潰れるまで。
周りの大人たちは慌てて止めようとした。
「やめなさい!!ゆう!!」
「早く落ち着かせて!!このままだと…!!!!」
このまま死んでしまいたい。
「私のせい……だ……」
私の意識は再び闇へと落ちた。