お願い離して逃げさせて!
「おい」
「ひっ!!」
突然背後からガシリと肩をつかまれ、短く悲鳴を上げる。
いきなりはやめてっていつも言ってるのに!
「んなビビんなよ、」
「…って、あ、ぅ、ぎゃあああっ!!」
振り返るとそこにいたのは、半透明なお方でした。
何で透明なの!? そして何で透明なのに僕の肩掴めるの!? ていうか離して!逃げたい!
「ゆ、ゆ、ゆゆゆ、幽霊ぃ…!!」
「あ、そうそう俺幽霊。」
「ぎゃああああっ!!!!」
やめて離して、なんて叫びながら、肩に置かれている手を払いのけようとするが、全く離れる気がしない。
別に痛いほど掴まれてるわけでもないのに。
もしかして、憑かれた、みたいな?
「…やだあああ!憑かないでえええええ!」
「うるさいんだけど」
「は、離してくださいいいいっ」
「聞こえてねぇな」
はぁ、と幽霊が溜め息をついた。僕はそれに気付いてない。
次の瞬間、
「うわぁあっ」
ぐるんと視界が反転して、気がつけば背中と床がくっついていた。
あれれー、押し倒されてるなー。
押し倒されてるよ、幽霊に。
幽霊に。
「僕を襲っても何もでませんよおおおおおお」
「誰が襲うか、まな板」
「気にしてるのに!」
お、おお、おっぱいだけが女の魅力じゃないんだから!
なくたって別にいいじゃん!
僕だって大人になったら立派になるんだから!きっと!
「お前は霊感あるみてぇだな」
「幽霊なんて見たくもないっていうか関わりたくもないんですけどねえええ!
ほんと、いらない能力みたいなああああ!?」
「お前の意見はきいてねぇ」
「いや、お願いですから見逃してくださいいいいい!」
「うるせえっての」
「あでっ」
殴られた。
女の子に酷いことするなぁ、全く。
そんなんだから幽霊になんてなっちゃうんだよ。
もっといい行いしてたら、きっと天使になってたと思うよ。
「声に出てんぞ」
「え?…あ、ああああ!?
いえいえいえいえいえ!!冗談ですよお、あははは!!」
「一旦黙れ」
「ハイ…」
怖いよ怖いよ殴られる襲われる憑かれる死ぬ。殺される。
ガクブルガクブル、体の震えは止まる気配がない。
「俺の妹を探してくれ」
「…はい?」
妹? そんなの自分で探せばいいじゃん。
「それが出来ねぇから言ってんだろ」
あ、また口に出てた?
「幽霊は自分以外の幽霊に干渉できねーの。
つまり見えない、話せない…ってわけ。」
「そこに生きてる人間にも干渉できないって入れて欲しかったな」
「守護霊として大切な人の傍にいたいって奴もいるから、それは出来ない」
「守護霊とか、結局のところ幽霊じゃん!怖い!」
「あーあーうるせー。恨むなら自分の霊感恨め」
「なんで僕幽霊見えちゃうのおおおお!」
「うるせえ」
「あでっ」
また殴られた。
これも僕の霊感のせい?
霊感なかったら、このクソ幽霊に会うこともなかった?
いや、このクソ幽霊が妹なんて探すから悪いんだ!妹なんて諦めろ!来世で会えるさ!
「呪い殺されたくなかったら、手伝え」
「…」
ひどくない?これひどくない?
脅しっていうんだよ、僕知ってるよ。いやみんな知ってるけど。
幽霊に脅しなんてされたら
「はい!」
嫌でも頷くしかないでしょおおおおお!?
こうして僕の最低な毎日が始まりましたとさ。
名前が出てませんが主人公は広田 茉里です。女子。
幽霊はユウです。男子。