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絶望の書

最終話です。ちなみに作者は執筆中に怖気を感じました。

 私は思う。この世界から全ての人間が消え去ればいいと、そして私自身も消え去れればいいと。強く、強く思う。それはまるでこの世界に脅迫されたように、私の思考に入り込んでくる。どうしてこうなってしまったのか、どうしてこの世界は私を脅すのか……いつの頃からか、そんなことを考えることすらも放棄してしまった。それは、幼少期かもしれないし、青年期かもしれない。


 どうしても答えの出ない問い……それは考えれば考えるほど空虚で、夢か現か、まったくわからなくなる。それ以前に、「私」はどうして「私」なのか、見ているものが、聞いているものが、味わっているものが、それら全てを私はどう感じているのか……全く分からない。


 たとえば、文章を紡ごうと少し考えるだけで、深い深い深淵の中に身を投げ出しているような感覚。心にできた空虚な穴、底の見えない、どのような器なのか全体像が掴めない、暗く黒く見るものに絶望しか与えないであろう、穴。


 自分が何を考え、自分が何を感じ、自分が何を思ったのか……口に出して言うにはあまりにも憚られる。どんなに感動的な場面に出くわしても、どんなに憤りを感じる場面に出くわしても、私が何もいえることは無い。だが、それは考えようによっては幸運なのだろう。なぜなら、自分の無知、自分の幼さを前面に出す必要が無いと言うことなのだから。


 果たして私は人なのだろうか、それ以前に私は実体を、他に対して「これが私だ」と誇れるだけの何かを持っているのか……それすらも分からない。


 私はこれから先どんな場面に出くわしたとしても、感情的になることは無いだろう。表向き悲しそうな表情をしていても、表向き楽しそうな表情をしていても、それは本心からではないのだろう……それすらも確信は持てないのだけれど。


 そんな私を親しく、数少ない友人は「何を考えているか分からない人」と評する。それもそうだろう。当の本人が何を考えているか分からないのだから、他人に分かるはずが無い。それを心地よいと歓迎するものはいないだろう。だが、私はそれを心地よいと歓迎してしまった。何も考えない、何も思わない、何も感じない……普通ならばおおよそ歓迎できないと思える全てを、私は歓迎できた。そうすることで私は私でありえた。


 この世界で、普通なら忘れてしまいたいと思えるような、ゆがみを溜め込んでもなんとも思わない私。目的のためなら常軌を逸した行為でも、復讐の為ならどんな手を使ってでも、達成する。どんなに後ろ指を指されても、どんなに非難されようとなんとも思わず、平然としていられる。



 とある伝記……ラテン語で「desperatio」と銘打たれた章の一部分。辛うじて読める部分はここまで。これ以前とこれ以降にも文章があるのだろうが、鮮血で読めなかった。


 結末を知りながらその本を売り、回収に来た男は改めて本を手に取り読み返し、そして思う。


 この本の、この部分のどこに読む者を死にたいと思わせる魔力があるのか。これがこの本の持つ魔力なのか、それとも……ただ昔まだ「言語」と言うものを記憶していたとき、彼女に言われたことがある。


『この伝記だけは……決して人の目に触れさせないで、決して他の人に渡さないで』


 長らく禁忌とされていた行為……ただほんの少しの興味と禁忌を破ることに対しての背徳感。脳に直接聞こえてくる彼女の言葉は続く。


『人には決して抗えないものが三つあるの。それはね、運命・死・背徳感なの。この三つのうちどれを破ってもあなたは……番人としての最期を迎えることになる』


 その後、今まで回収され続けてきた本があるときを境に、回収されなくなった。

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