叡智と生気を喰らう本
今回はいつもよりは少し短めです。
では本編をどうぞ。
森羅万象…それは人間がすべてを知ることのできないもの。そして、そのすべてを知ろうとするものを拒むもの。だが、それを知ることができれば…これはそんな永遠の秘宝を知ろうとした者たちの話。
昔、世界には知られていない未開の地が数多く存在した。あるものはロマンを求めて、またあるものは誰も手のつけていない領地を求めて、その土地を自分の国のものにしようと画策した。だが、未開の地へ彼らを駆り立てた最大の理由は、未開の地のさらに奥深くに眠るとされていた森羅万象をすべて記した書物の存在だった。
最初は単なるお伽話でしかなかった。国と国とがぶつかり合う大陸から、まだ誰も手をつけていない土地へ進出するための作り話。だが国中の探検家の心に訴えるには十分すぎるほどで、世界中がいっせいに新大陸を目指した。だが、その道のりは困難と挫折の連続だった。
あるときとある国で、新大陸へ辿り着いた者がいると言う話があった。その者の話ではその書物はあると聞いたと言うことだった。無論その噂は世界中へ広がり、情報戦が始まった。
手を結び、裏切り、また別の相手と手を結び、今度は裏切られ…こんなことが繰り返された。ただこんなことが繰り返されても探検家たちには関係の無いことだった。彼らは自分たちの探求心にのみしたがった。
彼らは効率のいい方法で新大陸に辿り着き、拠点を築き探検した。だがそこは未開の地…数多くの探検家が命を落とした。あるものは先住民に捕らえられ、またあるものは体験したことも無い疫病に罹り…それでも彼らは逞しかった。仲間の死を乗り越え、食料の無いときには死んだ仲間を喰らい…探し続けた。
そして、とある探検家の手によってすべてを開拓し、書物を見つけ出した。そう…それはお伽噺でもなんでもなく…事実だった。
嘘から出た真なのか、人類が生まれる前から存在したのかはわからない。その探検家は書物を見つけたとき、その場で読もうとした。彼はすべてを自分のものにしたかった。だがその願いが叶う事は永遠に無かった。読むことができない文字で書かれている上に、その本を開いたものは例外なく本の中に吸い込まれてしまったからだ。まるでその本が生きているかのように、人を吸い込みページを増やしていった。
後の時代になって、新大陸の先住民からその本の話を聞くことができたものがいた。曰く、最初先住民によって発見されたときはそんなに分厚くは無く、ただの薄い本だったという。そして、見知らぬ人類が現れ始めた。命を落とすものの方が圧倒的に多かったが、それでも数人は本に辿り着いていたと言う。そして、例外なく本を開き…吸い込まれていった。
そういうことが幾度と無く繰り返され、先住民たちはその本が外敵から自分たちを守っているのだと思い込んだ。そして先住民は競うようにして本に生贄を差し出した。その生贄とは、集落ごとに本を読む人を出させ、実際に本を開かせたそうだ。そうして先住民の数は減っていき…ついには数多の集落は本によって滅ぼされた。
本は持ち帰られ、とある博物館で厳重に保管されていたのだが…持ち帰られてから数年して忽然と姿を消していた。そして再度発見されたときには…持ち帰られたときの数倍もの厚さになっていたのだった。
人々はその本を恐れ、焼き払おうとした。が何度燃やしても次の日には決まった場所に置かれていた。その後も多くの人が警備の目を盗んでは中身を読もうとして…吸い込まれていった。だがある程度の厚さを境に人を吸い込んでも本の厚みが増さなくなった。
その後その本は、何者かの手によって盗まれ…二度と博物館に戻ることは無かった。だが今でもその本は人間のことを吸い込み続けてるのだろう。さながら姿の見えない殺人鬼のように…
今回なんかクオリティが落ちた気がするのは私だけでしょうか。
題材が少し難しかったかなぁ…一応この童話集は、童話祭のための習作みたいな位置づけなので、書き換えることはしません。
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