傘を閉じるまで
掲載日:2026/07/13
久しぶりに、遅くまで残業してしまった。
外へ出ると、予報より早く雨が降っていた。
ため息をつきながら傘をさす。
変わり映えのない、無難な黒い傘。
変わり映えのない日々。
そっと歩き出す。
ぱつり、ぱつり、と傘から水が弾ける音がする。
思ったよりも、雨は強かった。
あたりは暗い。
同じリズムで雨が弾ける音だけが響く。
信号を一人渡る。
ぱつり、ぱつり、ぱつりぱつり、
なんだか、後ろから雨音が強くなった気がした。
振り向くが、誰もいない。
ぱつり、ぱつりぱつり、ぱつりぱつり、
雨音だけが重なる。
傘の後ろに、何か当たる。
横目で見たガラス窓に、影が見えた。
もう一度振り向くが、誰もいない。
歩き出すと、雨音だけが重なる。
気づけば早足になっていた。
駅につき、急いで傘を畳む。
傘を握っていた手が、白くなっている。
他にも改札口へ向かう人を見つけ、ほっとする。
雨音は、聞こえなくなった。
電車に乗り込む。
乗車口の方に身体を向ける。
自分の歩いて来た方角から、自分の足元まで、二つの重なる泥の足跡が続いていた。
静かに、扉が閉まる。




