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入籍の翌朝
入籍した翌朝。
目が覚めても、特別な実感はなかった。
隣では俊介が静かに眠っている。
その寝息は穏やかで、安心できるはずなのに——
胸の奥が、ほんの少しだけ冷えていた。
(……これでよかったんだよね)
自分に言い聞かせるように、
ゆっくりと起き上がる。
指輪を見つめる。
光は綺麗で、形も悪くない。
でも、胸の奥に広がるのは“温かさ”ではなく、
薄い膜のような静けさだった。
幸せじゃないわけじゃない。
不満があるわけでもない。
ただ——
心がどこか、置いていかれたような感覚だけが残っていた。




