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選ばなかった未来
閉店後、結衣が片付けをしながら言った。
「大和さんって……誰か、好きな人いるんですか?」
不意を突かれ、大和は手を止めた。
「いや。いないよ」
即答だった。
嘘ではない。
でも、胸の奥がわずかにざわつく。
結衣は小さく笑った。
「そっか……じゃあ、いつか誰かと出会えるといいですね」
その言葉に、なぜか胸が重くなる。
(誰かと……か)
想像してみる。
けれど、心は動かない。
結衣の顔を見ても、未来の形は浮かばない。
ただ、
“選ばなかった未来”だけが静かに積み重なっていく。
(俺は……誰とも付き合わない方がいいのかもしれない)
そう思った瞬間、
胸の奥で小さな痛みが跳ねた。
理由は分からない。
ただ、その痛みだけが妙に鮮明だった。




