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利害の一致
「……葵。俺たち、そろそろ籍、入れないか」
俊介の声は震えていた。
強がっているのに、どこか必死だった。
葵は驚かなかった。
むしろ——
待っていた言葉だった。
「……うん。いいよ」
その返事に、俊介は大きく息を吐いた。
葵の手を握る指先が、少し強い。
(これで……離れないよな)
俊介の胸の奥で、焦りがようやく静まる。
(これで……揺れは止まるはず)
葵の胸の奥で、理性がかろうじて形を保つ。
二人の思惑は違う。
けれど、
“今はこれでいい”という一点だけが
静かに一致していた。
その静かな合意の裏で、
葵の心の奥にある小さな波だけが、
まだ消えずに揺れていた。




