8/204
駅までの道
夜風が少し冷たい。
大和は葵の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いた。
「……あの、迷惑じゃないですか」
葵の小さな声に、大和は即答した。
「迷惑なわけないだろ」
その言い方が、あまりにも自然で、優しくて。
胸がぎゅっと締めつけられる。
(どうしてこの人は、こんなに優しいんだろう)
駅の手前で信号が赤に変わる。
立ち止まった瞬間、葵はふと横顔を見上げた。
街灯に照らされた大和の横顔は、
どこか寂しげで、でも温かい。
その横顔を見ていると、
胸の奥がじんわりと熱くなる。
(あ……)
気づきたくなかった感情が、静かに形を持ちはじめた。
(私、この人のこと……)
信号が青に変わる。
大和が歩き出す。
その背中を追いながら、
葵はもう戻れない場所に来てしまったことを悟った。




