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消えてくれない影
「葵、お母さん大丈夫だったって。
よかったな」
俊介が笑顔で駆け寄ってくる。
その笑顔は、
ずっと自分を支えてくれた笑顔。
「……うん。ありがとう」
葵は微笑んだ。
ちゃんと俊介を見て。
俊介は安心したように息をつき、
そっと葵の肩に手を置いた。
「今日は少し休めよ。
俺がついてるから」
その優しさが、
胸にじんわりと染みていく。
(大丈夫。
私はもう揺れない)
そう思うのに、
胸の奥のざわつきは
消えてくれなかった。
まるで、
遠くで誰かが
自分の名前を呼んでいるような——
そんな気配だけが残った。




