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揺れ動く心
看護師に呼ばれて席を立つ。
母の容体は安定しているらしい。
安心したはずなのに、
胸の奥がふっと冷える。
(なんで……こんな気持ちになるんだろ)
歩きながら、
葵はスマホを取り出した。
通知は何も来ていない。
ただの静かな画面。
なのに、
胸の奥がざわりと揺れた。
(……誰を待ってるの、私)
自分に問いかけた瞬間、
心臓が小さく跳ねる。
俊介と生きていくと決めたばかりなのに、
どこかで“別の何か”が
静かに目を覚まそうとしていた。
葵は深く息を吸い、
その感情を押し込めるように
スマホをバッグにしまった。




