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急変
東京の病院。
葵が書類整理をしていると、突然ナースステーションから声が飛んだ。
「葵さん! お母さまの容体が急変しました!」
手に持っていた書類が床に散らばる。
そんなこと気にする余裕もなく、葵は走った。
病室に入ると、母は胸を押さえ、苦しそうに呼吸を乱していた。
医師たちが慌ただしく動き回り、機械のアラームが鳴り響く。
「お母さん……!」
葵は母の手を握った。
その指先は驚くほど冷たく、細くなっていた。
「葵……大丈夫よ……」
母は微笑もうとしたが、その笑顔はすぐに崩れた。
(やだ……やだよ……
まだ、行かないで)
葵の世界が、音を立てて崩れていく。
涙が滲むが、泣いている暇さえなかった。
ただ、母の手を離さないように必死だった。




