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近づく距離
結衣が店に来る頻度は、気づけば自然と増えていた。
その日も、カウンター席で温かいスープを両手で包みながら、ふと大和を見つめた。
「大和さんって……どこか、遠くを見てる目をしますよね」
不意を突かれ、大和は言葉を失った。
「誰かを大切にしてた人の目。
でも、その人がもう手の届かない場所にいる……そんな感じ」
胸の奥が静かに疼く。
美咲の笑顔。
葵の涙。
どちらも、まだ心の奥に沈んだままだ。
「そんなことは……ないよ」
否定した声は弱く、説得力を欠いていた。
結衣は柔らかく笑った。
その笑顔は美咲に似ていて、
目の奥に宿る芯の強さは葵を思い出させた。
(どうして……こんなにも重なるんだ)
結衣の存在は、
大和の心の凍った部分を少しずつ溶かしていく。
それが怖くもあり、救いでもあった。




