前へ目次 次へ PR 6/615 通勤時の影 ある夜、閉店後。 店を出た葵の背後で、足音がした。 振り返ると――あの男。 「……え?」 心臓が跳ねる。 歩く速度を上げても、男は一定の距離を保ってついてくる。 (来ないで……) 足が震え、早歩きが走りに変わりそうになる。 家に入った瞬間、インターフォンが鳴った。 ピンポーン。 葵は凍りつく。 覗き穴を見る勇気が出ない。 息を殺して立ち尽くす。 ピンポーン。 ピンポーン。 何度も鳴る。 涙がこぼれた。 その夜、葵は一睡もできなかった。