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揺れる気持ち①
俊介の言葉が、
夜の静けさの中にゆっくりと落ちていった。
「……結婚しよう」
葵は息を呑んだまま、
何も言えなかった。
胸の奥が、
ぎゅっと締めつけられる。
(どうして……
どうして今、そんなこと言うの)
俊介の手は温かい。
その温度に触れるたび、
葵は自分がどれだけ彼に支えられてきたか思い知らされる。
でも——
(私……俊介のこと、ちゃんと見れてない)
母のこと。
仕事のこと。
そして……
心の奥に沈んだままの、大和の影。
全部が絡まって、
答えなんて出せるはずがなかった。
「……俊介……」
名前を呼ぶだけで精一杯だった。
俊介は優しく微笑んだ。
その笑顔が、逆に苦しかった。
(こんなに優しい人を……
私は、利用してるだけじゃないの)




