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影のように
居酒屋「灯」には、
開店と同時に必ず現れる男がいた。
25歳か、30歳か。
無表情で、注文はいつも同じ。
そして閉店まで席を立たない。
「今日も来てるな……」
厨房の奥で、大和が小さくつぶやく。
視線の先には、カウンターの端に座る男。
葵は気づかないふりをした。
けれど、胸の奥がざわつく。
男の視線は、いつも葵に向けられていた。
注文を取りに行くと、じっと顔を見つめてくる。
笑顔を返しても返さなくても、反応は変わらない。
ただ、見つめ続ける。
「及川さん、大丈夫?」
大和の声に、葵は無理に笑った。
「はい……大丈夫です」
大丈夫ではなかった。




