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痛み
静まり返った病室で、
大和は妻の亡骸の手を握りしめていた。
冷たくなっていく指先に、
自分の体温を分け与えるように
そっと包み込みながら、
もう返ってこない呼びかけを
何度も何度も何度も胸の中で繰り返した。
病室には、美咲の残した気配だけが淡く漂っていた。
同じ夜、
東京の病室では、葵が眠る母の手を握りしめていた。
これが夢でありますようにと何度も願った。
でも自分が母を守る強さを持たないと。
母が起きているときに
涙を流すことはしたくなかった。
母はいつも笑っているから。
ただ、どれだけ祈っても、
時間は残酷なほど静かに進んでいく。
離れた場所で、
2人は互いを知らぬまま、似た境遇に沈み、
同じ涙を流していた。
その痛みが20年後、
思いがけない形でそっと結びつくことを、
このときの2人はまだ知らなかった。




