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灯りを遠ざける
居酒屋「灯」の前を通りかかっただけで、心臓が跳ねた。
以前は探るために来ていた場所。
大和がどんな人なのか、葵が惹かれた人なのかどうか、確かめたかった。
でも、大和を見た瞬間、俺の中で点が線になりかけた。
思ったより年上で、落ち着いていて、周りを柔らかくする空気を持っていた。
“こういう人なら、葵が惹かれてもおかしくない”
そんな考えが、勝手に胸の奥で形になってしまった。
認めたら壊れる。
でも、本当は知りたい。
知りたいのに、知ったら耐えられない。
「……好きだから、知りたくないんだよ」
俺は居酒屋「灯」の前を通り過ぎるだけで、店の扉に手をかけることすらできなかった。




