前へ目次 次へ 32/215 葵の知らないところで その頃、葵は慌ただしい毎日を送りながら、 大和のことを思い出さないように必死だった。 (店長は奥さんを支えてる。 私は私の人生を生きなきゃ) そう言い聞かせながらも、 ふとした瞬間に大和の横顔が浮かんでしまう。 しかし葵は知らなかった。 大和が、 毎晩美咲の手を握りながら眠り、 朝は吐き気に苦しむ妻の背中をさすり、 仕事の合間に病院へ走り、 夜は不安を隠して笑っていることを。 葵の知らない場所で、 大和の世界は静かに崩れ始めていた。